すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

一種、呪いの本

2017年06月29日 | 読書
 緯度が近いので気温も同程度であるが、ドイツには虫が少ないらしいという情報は持っていた。がしかし、無類の「虫からモテ男」だった。案の定4日目に一発刺されてしまったようだ。蚊なのか…そういえばバックにしのばせたが、一度もページをめくらなかったのが、穂村弘の文庫本。この本の呪いかもしれない。


2017読了70
 『蚊がいる』(穂村 弘  角川文庫)



 この書名決定の経緯は知らない。ただ収められたエッセイの題名の一つにはある。筆者が取り上げたか、編集者等の意図なのか、いずれにしても穂村の「世界観」が表されていると考えてもよくないか。つまり、蚊という他人からみれば取るに足らない存在を、どこまでも気にし、その気にする自分をもっと気にする。


 一度でも読んだことのある読者なら想像のつく「ほむほむ」節が展開されている。その調子とは、逆説的ながらこの一文によく示されている。「効果的な切り替えスイッチを数多く持っていればいるほど、私たちは多次元世界を生きることが可能になる」…そう、スイッチが足りない者たちはこんなエッセイで癒される。


 特別付録として又吉直樹との対談がある。ある意味では非常に似通った感性を持っているのではないか。結論ともいうべき次の文章に大いに納得した。「ないことにされているものに気づくこと。お笑いや詩歌の仕事って、それじゃないか」。定番として「あるある」が笑いになる根底もそこにある。切り口こそ才能だ。