すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

不安定さを振り払おうとする

2008年11月06日 | 読書
 『虹色にランドスケープ』(熊谷達也著 文春文庫)
 今年になって読みこんできた熊谷達也であるが、個人的にはマタギもの以外は少し面白みに欠けると感じていた。
 しかしこの文庫はなかなか良かった。
 登場人物がつながっている短編の連作であり、題名が表すように7つの物語となっている。バイクが全編を貫くものであり、妙にそのあたりの描写が細かいのは作者がライダーであることの証明でもあるし、ああ書きたかったんだなあと強く感じさせる部分でもある。

 作者自身がそうであるように現在の40代後半から50代にかけての世代で、バイクに興味を持つ人は案外多いのかもしれない。私の周囲にそうした人はいないと思っていたのだが、数年前勤務地が変わったときに職場の中に複数そういう同年代がいて、少しびっくりした記憶がある。
 そういえば、高校生の頃に盛んにバイク通学の問題が取り沙汰されていたことをふいに思い出した。それは私にとっても苦い思い出の一つではあるが…。

 都会の書店ではこの本が平積みされていたところもあるというから、読者対象ともなるライダー人口はあるのだろうか。それはきっと昔ライダーだった人ということかもしれない。この頃は都市部のホテルに泊まってもあまり暴走族系の騒音に悩まされないことも思い浮かぶ。
 また地方でツーリングをしている人を見かけても、どこか中年っぽい方々だったりして…。

 今の若者があまり興味を示さないとすれば、それはどんな意味を持つのかなとふと考える。
 バイクの持つスピードや音、振動など疾走感とでも呼ぶのだろうか、実に魅力的な感覚であることは違いないはずで、十代の目には輝いてみえるはずだし、何か「救い」のような存在であると考えるのだか…
 そう思ってるのはやはり中年世代だけで、不安定さを前へ突き進むことで振り払おうとしていく姿に憧れる、そんな成熟しきれない何かをずっと抱えているのかもしれない。
 それはこの本に登場する複数のライダーたちに共通しているように思えた。
 その先どこへ向かうか不透明なまま終わっているようだが、女性の方が強く描かれているのは、やはりご時勢ですかな。