ダウ最高値圏で足踏み、「不況サイン」の憂鬱(NY特急便)
米州総局 宮本岳則
北米
2019/10/22 7:19日本経済新聞 電子版
ニューヨーク証券取引所(21日)=ロイター
米国株は史上最高値の更新を射程に入れながらも、足踏みが続いている。米中協議の進展期待で21日のダウ工業株30種平均は反発したが、先週末の下落幅の半分も取り戻せなかった。市場の一部で話題になっていたのは、著名投資家の発した警告だ。景気後退入りのサインが点灯しつつあるという。市場参加者は改めて「守り」を意識せざるを得なくなった。
「いまの米株式市場は、投資家のイライラを最大限まで高めている」。米証券会社ロバート・W・ベアードの株式トレーダー、マイケル・アントネッリ氏は21日、マーケット参加者の心理をこう代弁した。ダウ平均は7月以降、史上最高値の更新から遠ざかっている。相場はトランプ米政権の対中交渉方針で一喜一憂する場面が多く、トレーダーは先行き不透明感から持ち高を一方向に傾けにくい。結果として収益の機会も限られてしまう。
市場参加者の憂鬱な気分に拍車をかけたのは、著名投資家スコット・マイナード氏のつぶやきだ。米運用会社グッゲンハイム・パートナーズで最高投資責任者(CIO)を務め、ツイッターのフォロワーは5万人を超える。同氏は米調査会社コンファレンス・ボードが18日発表した景気先行指数に注目。9月は2カ月連続の低下だったことに関連して「景気後退は3カ月連続でマイナスになったあとに起きている」と投稿した。4カ月連続なら必ず不況がくるとして、投資家に警鐘を鳴らした。
弱気派として知られる米株ストラテジスト、米モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソン氏も21日のリポートで景気先行指数の弱さを取り上げていた。企業が先行き不透明感から支出を抑える可能性に言及。好調なIT投資に支えられてきた「ソフトウエア企業は影響が避けられない」と指摘する。財務管理ソフトを手掛ける米ワークデイは21日まで4営業日続落。7月につけた直近高値からの下落率は3割を超えた。
多くの投資家は弱気派の「警告」に理解を示しながらも、米国株への資金配分を減らすのには消極的だ。ある保険会社の運用担当者は「今のタイミングで換金しても、他に振り向ける先がない」と苦笑する。国債への配分を増やすと、目標とする利回りを稼げない。米証券の投資家調査によると現金の保有比率はすでに高い水準にあり、リターンを生まない待機資金をさらに増やすことは避けたい。万が一、米中協議に劇的な進展があった場合、上昇相場に乗り遅れるおそれもある。
株式の保有も減らしたくないが、景気後退のリスクにも備えたい――。こんな悩みを抱えた投資家が殺到したのは、オプション市場だった。プット(売る権利)の売買高をコール(買う権利)の売買高で割った「プット・コール・レシオ」が18日に急上昇した。米インスティネットによると16年1月以降で3番目に高い水準という。同レシオの上昇はプットの需要が高まったことを示す。投資家が損失回避(ヘッジ)目的で、プット購入を急いだ様子がうかがえる。
もちろんオプション購入によるヘッジ取引にはコストがかかり、すべての損失をカバーできるわけではない。米中摩擦の長期化で、景気後退と株価下落リスクがくすぶりつづければ、ヘッジコストは膨らみ、その分、リターンは削られていく。米中協議は行方はトランプ米大統領の意向次第で先が読めない。米国株式市場に広がる投資家のイライラは、しばらく解消しそうにない。
(ニューヨーク=宮本岳則)
米州総局 宮本岳則
北米
2019/10/22 7:19日本経済新聞 電子版
ニューヨーク証券取引所(21日)=ロイター
米国株は史上最高値の更新を射程に入れながらも、足踏みが続いている。米中協議の進展期待で21日のダウ工業株30種平均は反発したが、先週末の下落幅の半分も取り戻せなかった。市場の一部で話題になっていたのは、著名投資家の発した警告だ。景気後退入りのサインが点灯しつつあるという。市場参加者は改めて「守り」を意識せざるを得なくなった。
「いまの米株式市場は、投資家のイライラを最大限まで高めている」。米証券会社ロバート・W・ベアードの株式トレーダー、マイケル・アントネッリ氏は21日、マーケット参加者の心理をこう代弁した。ダウ平均は7月以降、史上最高値の更新から遠ざかっている。相場はトランプ米政権の対中交渉方針で一喜一憂する場面が多く、トレーダーは先行き不透明感から持ち高を一方向に傾けにくい。結果として収益の機会も限られてしまう。
市場参加者の憂鬱な気分に拍車をかけたのは、著名投資家スコット・マイナード氏のつぶやきだ。米運用会社グッゲンハイム・パートナーズで最高投資責任者(CIO)を務め、ツイッターのフォロワーは5万人を超える。同氏は米調査会社コンファレンス・ボードが18日発表した景気先行指数に注目。9月は2カ月連続の低下だったことに関連して「景気後退は3カ月連続でマイナスになったあとに起きている」と投稿した。4カ月連続なら必ず不況がくるとして、投資家に警鐘を鳴らした。
弱気派として知られる米株ストラテジスト、米モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソン氏も21日のリポートで景気先行指数の弱さを取り上げていた。企業が先行き不透明感から支出を抑える可能性に言及。好調なIT投資に支えられてきた「ソフトウエア企業は影響が避けられない」と指摘する。財務管理ソフトを手掛ける米ワークデイは21日まで4営業日続落。7月につけた直近高値からの下落率は3割を超えた。
多くの投資家は弱気派の「警告」に理解を示しながらも、米国株への資金配分を減らすのには消極的だ。ある保険会社の運用担当者は「今のタイミングで換金しても、他に振り向ける先がない」と苦笑する。国債への配分を増やすと、目標とする利回りを稼げない。米証券の投資家調査によると現金の保有比率はすでに高い水準にあり、リターンを生まない待機資金をさらに増やすことは避けたい。万が一、米中協議に劇的な進展があった場合、上昇相場に乗り遅れるおそれもある。
株式の保有も減らしたくないが、景気後退のリスクにも備えたい――。こんな悩みを抱えた投資家が殺到したのは、オプション市場だった。プット(売る権利)の売買高をコール(買う権利)の売買高で割った「プット・コール・レシオ」が18日に急上昇した。米インスティネットによると16年1月以降で3番目に高い水準という。同レシオの上昇はプットの需要が高まったことを示す。投資家が損失回避(ヘッジ)目的で、プット購入を急いだ様子がうかがえる。
もちろんオプション購入によるヘッジ取引にはコストがかかり、すべての損失をカバーできるわけではない。米中摩擦の長期化で、景気後退と株価下落リスクがくすぶりつづければ、ヘッジコストは膨らみ、その分、リターンは削られていく。米中協議は行方はトランプ米大統領の意向次第で先が読めない。米国株式市場に広がる投資家のイライラは、しばらく解消しそうにない。
(ニューヨーク=宮本岳則)