7&iHDへの買収提案、成否にかかわらず一石を投じる可能性
Bloomberg News
2024年8月20日 14:25 JST
更新日時 2024年8月20日 15:32 JST
東芝やシャープなど過去にあった日本企業の買収は困難伴った
政府が示した企業買収の行動指針で企業側は真摯な検討が必要に
カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングス(HD)の買収が成功すれば、日本企業の案件として最大規模になるばかりでなく、外国企業による大型案件として極めて珍しいケースとなる。
クシュタールからの法的拘束力のない初期的な買収提案は、19日の報道後の7&iHDの時価総額5兆6300億円を上回る可能性がある。
以前なら、政府の保護主義的傾向や、株主価値より安定を優先する経営サイドの考えにより、このような規模の企業を買収する試みはありえなかった。だが、企業のカバナンス改善や買収提案への真摯(しんし)な対応を求めるために経済産業省は昨年「企業買収における行動指針」を策定しており、潮目は変わりつつある。
規模で7&iHDを下回るクシュタールの提案が事業の一部を対象にしたものなのか、あるいは全体の買収なのか、提案の中身は現時点では不明だ。しかし7&iHDに圧力をかけていたアクティビストの米バリューアクト・キャピタル・マネジメントが現在も株式を保有していれば賛同を得られそうだ。
選任議案に反対
バリューアクトは7&iHD株主として、23年の株主総会で井阪隆一社長らの選任に反対した。経営陣に対してコンビニ事業への集中も求めた。続投が決まった井阪社長体制の下、7&iHDは11月には自社株取得を発表し、今年4月には子会社のイトーヨーカ堂を中心とするスーパー事業の新規株式公開(IPO)実現に向けた検討を開始する計画を示した。
だが、買収提案の報道が流れた19日、同社株が1日の上昇率としては過去最大となる23%高となったことを考えれば、買収提案を拒否することは難しいかもしれない。
陣インベストメント・マネジメントのシニアポートフォリオマネジャー、ラファエル・ネメット=ネジャット氏は、「部分買収かどうかはわからないが、株価は明らかに過小評価されている」と話す。海外企業による買収に経営陣が消極的である可能性は高いものの、逆にそれが事業再編加速のプレッシャーにもなると指摘する。
クシュタールによる買収が成功すれば、22年に米投資ファンドのKKRが行った6700億円の日立物流買収を上回ることになる。当時、親会社であった日立製作所は財務ポートフォリオを見直してコア事業に集中するため、日立物流を売却した。
過去の買収事例
しかし、歴史に照らしてみると、海外企業による日本企業の買収は簡単ではなかった。例えば、KKRやCVCキャピタル・パートナーズ、ブラックストーンなどの大手プライベート・エクイティ(PE)は、取締役会の抵抗で東芝の買収を断念せざるを得なかった。同社は、昨年9月に日本産業パートナーズが率いるコンソーシアムによる株式公開買い付け(TOB)が成立し、同連合の傘下に入った。
また、16年には台湾の鴻海精密工業がシャープを3890億円で取得した。創業者である郭台銘(テリー・ゴウ)氏は、日本の国会議員に働きかけたり銀行の協力を仰いだりしてようやく、経営難にあえぐシャープへの出資を決めた。
このほか3年前には象印マホービンの筆頭株主になった中国の家電メーカーが、独自の取締役選任を求めたが否決されたこともあった。象印はその後、買収される可能性に対して「ポイズン・ピル」による防衛策を採用した。
店舗数だけ見ればクシュタールの買収提案は少々複雑に映る。7&iHDの8万5000店以上に対し、クシュタールは1万6700店だからだ。だが、円安は海外企業にとって日本企業をより魅力的に映した。しかも7&iHD株は2月末から21%下落している。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリストのダイアナ・ロセロペーニャ氏は、今期業績の市場予想をベースに試算したEBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)倍率の業界平均が11.51倍であることを考えると、買収総額は860億ドルに達するかもしれないと指摘。クシュタールが単独で買収できる水準を上回っている可能性がある。
独禁法の壁も
アシンメトリック・アドバイザーズのストラテジスト、アミール・アンバーザデ氏は、井阪社長や経営陣に真剣に検討してもらうために提案は十分に魅力的である必要があると話す。仮に買収提案が7兆円を超える規模だとすれば、7&iHDの経営陣がアクティビストから受けるプレッシャーは大きいだろうとの見方を示した。
クシュタールによる7&iHDの買収には独禁法の壁も立ちはだかる。米国の反トラスト法(独占禁止法)規制当局は買収提案に異議を唱える可能性が高い、と英紙フィナンシャル・タイムズが20日、事情に詳しい関係者らの話として報じた。
当局はまだ詳細を検討していないが、買い物客への潜在的な影響について精査される見通しという。買収で合意した場合、承認を得るにはかなりの改善策や事業分割を提案する必要があると関係者の1人は述べたとしている。
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(米規制当局の反応に関する報道などを追加して更新します)
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