中国経済が急ブレーキ…「900万武漢市民を見殺しにしても、14億人が生き残る」ための、日本では考えられない強硬措置
5/5(日) 6:33配信
現代ビジネス
中国は、「ふしぎな国」である。
いまほど、中国が読みにくい時代はなく、かつ、今後ますます「ふしぎな国」になっていくであろう中国。
【写真】中国で「おっかない時代」の幕が上がった!?
そんな中、『ふしぎな中国』の中の新語・流行語・隠語は、中国社会の本質を掴む貴重な「生情報」であり、中国を知る必読書だ。
※本記事は2022年10月に刊行された近藤大介『ふしぎな中国』から抜粋・編集したものです。
動態清零(ドンタイチンリン)
日本では毎年年末になると、「新語・流行語大賞」が発表される。2021年は、米大リーグでの大谷翔平選手(投手)の活躍を指す「リアル二刀流/ショータイム」が選ばれた。
中国でも「流行語ベストテン」は、国営メディアやネットメディアなどが各々行っているが、日本のように国民的行事にはなっていない。それはやはり、「共産党が国民を指導する」中国にあっては、流行語も「共産党が創って国民に流布する」という意味合いが強いからだろう。共産党がスローガンを定めて毎日朝から晩まで官製メディアを使って宣伝すれば、それは自ずと「官製流行語」になるのだ。
こうした事情を踏まえて、2022年の「官製流行語大賞」を選ぶとしたら、間違いなく「動態清零」だろう。同年9月にバイドゥでこの語を検索したら、4530万件もヒットした。「動態」とは、ダイナミック。「清零」は、ゼロに清める。すなわち習近平主席が固執した「ゼロコロナ政策」のことだ。
周知のように新型コロナウイルスは、2019年暮れに世界で初めて中国湖北省の省都・武漢でパンデミックが起こった。習近平政権は2020年の春節(旧正月)2日前の1月23日から、76日間にわたって武漢に「封城(フェンチェン)」の措置を取った。いわゆるロックダウンだ。
その過酷な様子は、武漢在住の著名作家・方方(元湖北省作家協会主席)が『武漢日記』(邦訳は河出書房新社、2020年)に記した通りだ。この中国初の「封城」は、「いざという時は900万武漢市民を見殺しにしても、14億中国人が生き残る」ことを決断した措置だった。
日本では考えられないような強硬措置だったが、「新規感染者が2週間連続ゼロになったら『封城』を解く」というかねての約束通り、同年4月8日に武漢は「解放」された。900万市民は一斉に外に飛び出し、花火を打ち上げたり、スマホのライトをきらめかせたりして喜びを分かち合った。
この武漢の「封城」は、習近平政権にとって大きな成功体験となった。中国は集中的かつ徹底的にコロナを封じ込めたおかげで、その後急速な「復工(フーゴン)復産(フーチャン)」(仕事と生産の復活)を果たしたのだ。同年のGDP成長率は2.3%に達した。G20(主要国・地域)の中で唯一のプラス成長だった。
それから2年を経た2022年、コロナウイルスは、アルファ株→ベータ株→ガンマ株→デルタ株、そしてオミクロン株へと変異していた。オミクロン株の特徴は、より容易に感染する代わりに、重症化リスクが低いことだった。欧米では「もはやただのカゼでしょう」と言って、マスク着用さえ止めてしまった。
そんな中で中国だけは、「動態清零」に固執し続けた。2022年3月17日、習近平総書記は党中央政治局常務委員会議を招集し、強調した。
「国民第一、生命第一を終始堅持し、科学的精確さと『動態清零』を堅持するのだ。それによってウイルスが急速に拡散、蔓延していく勢いを食い止めるのだ」
こうして中国全土で、少しでもコロナ患者が出たら、その町を「封城」するという極端な「動態清零」が取られるようになった。習総書記の「親臣(チンチェン)」(側近の部下)楼陽生党委書記が治める河南省などは、許昌市に住む20代の女性一人が感染したとして、その地域に住む70万人を「封城」してしまった。
最も悲惨だったのは、中国最大の経済都市・上海だ。こちらも習近平総書記の浙江省党委書記時代の「親臣」李強党委書記が治めていた。
4月、5月と「封城」した上海は、2年前の「武漢の再来」だった。だが当時の武漢では、公式発表だけで3869人もの人々がバタバタと死んでいたが、上海で流行っていたのは、欧米人が「カゼのようなもの」と楽観視するオミクロン株だ。それなのに武漢方式の措置を取ることは、中国で最も合理的思考をする2500万上海市民にとって、耐えがたいことだった。
4月11日には、封鎖したマンション群を視察に訪れた李強党委書記を、上海市民たちが罵倒するという衝撃的な映像が、SNS上にアップされた。これによって、次期首相候補に名前が挙がっていた李書記が失脚したという噂も、一時は上海を駆け巡った。
習近平主席は、「女傑」孫春蘭副首相を上海に派遣した。孫副首相は1ヵ月以上、上海にとどまり、「『動態清零』の徹底」を命じた。
だが中国国内で、「封城」による経済への悪影響は甚大だった。ただでさえ2年以上続くコロナ禍で、中国経済はガタガタなのに、泣きっ面に蜂だった。同年第2四半期の経済成長率は0.4%まで落ち込み、上海に至ってはマイナス13.7%を記録した。
私は同年5月、「動態清零」を強いられている上海人の友人を励まそうと、電話してみた。彼は半ば苛立っていたが、「かつてないほどヒマ」とのことで、饒舌だった。
「いまや自宅に閉じ込められているわれわれの食糧調達方法は、週1~2回のわずかな供給を除けば、スマホのアプリで出前を頼むしかない。そのため毎日朝から、スマホを叩き続けている。その際、役に立つのが電動マッサージ器だ。他人より0.1秒でも素早くタッチするために、スマホ画面に電動マッサージ器を押し当てるのさ(笑)。
上海人にとって何よりショックだったのは、4月の市内の自動車販売台数が、ゼロ台だったことだ。こんなことは1949年の建国以来なく、「汽車清零(チーチャーチンリン)」(ゼロカー)だ。
ただ一つだけよかったと思うのは、飽食世代の息子が、生まれて初めて『飢える』という体験をしたことだ。幼少期に文化大革命を経験した私の世代と違って、息子はこれまで、食事というのはレストランで食べるか、スマホで30分以内に出前を届けてもらうものと思っていた。それが今回の事態で、少しはたくましくなったのではと思う。
いずれにしても、いま上海では『一比十四億(イービーシースーイー)』(一人対14億人)という隠語が流行っている。この国では14億人の国民が反対しても、たった一人の『皇帝様』が賛成すれば、政策は遂行されるということだ」
6月25日、李強書記は共産党第11期上海市委員会第12回代表大会を招集し、こう述べた。
「われわれは習近平総書記の重要指示と党中央が決定した政策、配備を決然と貫徹した。『動態清零』の成果を社会に見せつけ、大上海の保衛戦における勝利を実現したのだ」
私は他にも何人もの中国人に聞いたが、「動態清零」の賛同者は皆無だった。
これほど内外で反対されているにもかかわらず、習近平主席はなぜ「動態清零」に固執したのだろうか?
中国人が挙げた理由はまちまちだった。「共産党の権威を保つためさ」「2年前の武漢での成功体験があったからだ」「中国製のコロナワクチンはオミクロン株に効果が確認できないからだ」「習主席はああ見えて潔癖症なのさ」……。
その中で、私が最も説得力を持つと思ったのは、次の回答だった。
「習近平主席はコロナウイルスを、まるで台湾独立派分子か新疆ウイグル自治区独立派分子のように認識している。そのため、台湾独立派や新疆ウイグル自治区独立派との『共存』があり得ないように、『コロナとの共存』もあり得ないのだ。
習主席がいかにコロナウイルスを嫌悪しているか。国内のどこかを視察したり、演説したりする際には、その40分前に部屋からマイクまで徹底的に消毒される。国外へは、コロナを嫌って2020年1月にミャンマーへ外遊して以来、2022年9月にカザフスタンとウズベキスタンを訪問するまで、2年8ヵ月も出なかった」
米CNNは9月6日、「8月20日以来、少なくとも74都市(人口合計3億1300万人)で市全域や地区を対象とするロックダウンが実施された」と報じた。その理由については、
「10月16日に始まる第20回党大会は中国共産党と習主席個人の功績をたたえる場であり、大規模な流行が起きればそのイメージに傷がつきかねない」とした。地方幹部たちも、赴任先の経済活性化よりも、より厳格に順守して自らが党大会で出世する道を選んだのである。
「上梁不正下梁歪(シャンリアンブージェンシアリアンワイ)」(上梁が正しくないと下梁は歪む)。中国は「砂上の楼閣」と化す?
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)
5/5(日) 6:33配信
現代ビジネス
中国は、「ふしぎな国」である。
いまほど、中国が読みにくい時代はなく、かつ、今後ますます「ふしぎな国」になっていくであろう中国。
【写真】中国で「おっかない時代」の幕が上がった!?
そんな中、『ふしぎな中国』の中の新語・流行語・隠語は、中国社会の本質を掴む貴重な「生情報」であり、中国を知る必読書だ。
※本記事は2022年10月に刊行された近藤大介『ふしぎな中国』から抜粋・編集したものです。
動態清零(ドンタイチンリン)
日本では毎年年末になると、「新語・流行語大賞」が発表される。2021年は、米大リーグでの大谷翔平選手(投手)の活躍を指す「リアル二刀流/ショータイム」が選ばれた。
中国でも「流行語ベストテン」は、国営メディアやネットメディアなどが各々行っているが、日本のように国民的行事にはなっていない。それはやはり、「共産党が国民を指導する」中国にあっては、流行語も「共産党が創って国民に流布する」という意味合いが強いからだろう。共産党がスローガンを定めて毎日朝から晩まで官製メディアを使って宣伝すれば、それは自ずと「官製流行語」になるのだ。
こうした事情を踏まえて、2022年の「官製流行語大賞」を選ぶとしたら、間違いなく「動態清零」だろう。同年9月にバイドゥでこの語を検索したら、4530万件もヒットした。「動態」とは、ダイナミック。「清零」は、ゼロに清める。すなわち習近平主席が固執した「ゼロコロナ政策」のことだ。
周知のように新型コロナウイルスは、2019年暮れに世界で初めて中国湖北省の省都・武漢でパンデミックが起こった。習近平政権は2020年の春節(旧正月)2日前の1月23日から、76日間にわたって武漢に「封城(フェンチェン)」の措置を取った。いわゆるロックダウンだ。
その過酷な様子は、武漢在住の著名作家・方方(元湖北省作家協会主席)が『武漢日記』(邦訳は河出書房新社、2020年)に記した通りだ。この中国初の「封城」は、「いざという時は900万武漢市民を見殺しにしても、14億中国人が生き残る」ことを決断した措置だった。
日本では考えられないような強硬措置だったが、「新規感染者が2週間連続ゼロになったら『封城』を解く」というかねての約束通り、同年4月8日に武漢は「解放」された。900万市民は一斉に外に飛び出し、花火を打ち上げたり、スマホのライトをきらめかせたりして喜びを分かち合った。
この武漢の「封城」は、習近平政権にとって大きな成功体験となった。中国は集中的かつ徹底的にコロナを封じ込めたおかげで、その後急速な「復工(フーゴン)復産(フーチャン)」(仕事と生産の復活)を果たしたのだ。同年のGDP成長率は2.3%に達した。G20(主要国・地域)の中で唯一のプラス成長だった。
それから2年を経た2022年、コロナウイルスは、アルファ株→ベータ株→ガンマ株→デルタ株、そしてオミクロン株へと変異していた。オミクロン株の特徴は、より容易に感染する代わりに、重症化リスクが低いことだった。欧米では「もはやただのカゼでしょう」と言って、マスク着用さえ止めてしまった。
そんな中で中国だけは、「動態清零」に固執し続けた。2022年3月17日、習近平総書記は党中央政治局常務委員会議を招集し、強調した。
「国民第一、生命第一を終始堅持し、科学的精確さと『動態清零』を堅持するのだ。それによってウイルスが急速に拡散、蔓延していく勢いを食い止めるのだ」
こうして中国全土で、少しでもコロナ患者が出たら、その町を「封城」するという極端な「動態清零」が取られるようになった。習総書記の「親臣(チンチェン)」(側近の部下)楼陽生党委書記が治める河南省などは、許昌市に住む20代の女性一人が感染したとして、その地域に住む70万人を「封城」してしまった。
最も悲惨だったのは、中国最大の経済都市・上海だ。こちらも習近平総書記の浙江省党委書記時代の「親臣」李強党委書記が治めていた。
4月、5月と「封城」した上海は、2年前の「武漢の再来」だった。だが当時の武漢では、公式発表だけで3869人もの人々がバタバタと死んでいたが、上海で流行っていたのは、欧米人が「カゼのようなもの」と楽観視するオミクロン株だ。それなのに武漢方式の措置を取ることは、中国で最も合理的思考をする2500万上海市民にとって、耐えがたいことだった。
4月11日には、封鎖したマンション群を視察に訪れた李強党委書記を、上海市民たちが罵倒するという衝撃的な映像が、SNS上にアップされた。これによって、次期首相候補に名前が挙がっていた李書記が失脚したという噂も、一時は上海を駆け巡った。
習近平主席は、「女傑」孫春蘭副首相を上海に派遣した。孫副首相は1ヵ月以上、上海にとどまり、「『動態清零』の徹底」を命じた。
だが中国国内で、「封城」による経済への悪影響は甚大だった。ただでさえ2年以上続くコロナ禍で、中国経済はガタガタなのに、泣きっ面に蜂だった。同年第2四半期の経済成長率は0.4%まで落ち込み、上海に至ってはマイナス13.7%を記録した。
私は同年5月、「動態清零」を強いられている上海人の友人を励まそうと、電話してみた。彼は半ば苛立っていたが、「かつてないほどヒマ」とのことで、饒舌だった。
「いまや自宅に閉じ込められているわれわれの食糧調達方法は、週1~2回のわずかな供給を除けば、スマホのアプリで出前を頼むしかない。そのため毎日朝から、スマホを叩き続けている。その際、役に立つのが電動マッサージ器だ。他人より0.1秒でも素早くタッチするために、スマホ画面に電動マッサージ器を押し当てるのさ(笑)。
上海人にとって何よりショックだったのは、4月の市内の自動車販売台数が、ゼロ台だったことだ。こんなことは1949年の建国以来なく、「汽車清零(チーチャーチンリン)」(ゼロカー)だ。
ただ一つだけよかったと思うのは、飽食世代の息子が、生まれて初めて『飢える』という体験をしたことだ。幼少期に文化大革命を経験した私の世代と違って、息子はこれまで、食事というのはレストランで食べるか、スマホで30分以内に出前を届けてもらうものと思っていた。それが今回の事態で、少しはたくましくなったのではと思う。
いずれにしても、いま上海では『一比十四億(イービーシースーイー)』(一人対14億人)という隠語が流行っている。この国では14億人の国民が反対しても、たった一人の『皇帝様』が賛成すれば、政策は遂行されるということだ」
6月25日、李強書記は共産党第11期上海市委員会第12回代表大会を招集し、こう述べた。
「われわれは習近平総書記の重要指示と党中央が決定した政策、配備を決然と貫徹した。『動態清零』の成果を社会に見せつけ、大上海の保衛戦における勝利を実現したのだ」
私は他にも何人もの中国人に聞いたが、「動態清零」の賛同者は皆無だった。
これほど内外で反対されているにもかかわらず、習近平主席はなぜ「動態清零」に固執したのだろうか?
中国人が挙げた理由はまちまちだった。「共産党の権威を保つためさ」「2年前の武漢での成功体験があったからだ」「中国製のコロナワクチンはオミクロン株に効果が確認できないからだ」「習主席はああ見えて潔癖症なのさ」……。
その中で、私が最も説得力を持つと思ったのは、次の回答だった。
「習近平主席はコロナウイルスを、まるで台湾独立派分子か新疆ウイグル自治区独立派分子のように認識している。そのため、台湾独立派や新疆ウイグル自治区独立派との『共存』があり得ないように、『コロナとの共存』もあり得ないのだ。
習主席がいかにコロナウイルスを嫌悪しているか。国内のどこかを視察したり、演説したりする際には、その40分前に部屋からマイクまで徹底的に消毒される。国外へは、コロナを嫌って2020年1月にミャンマーへ外遊して以来、2022年9月にカザフスタンとウズベキスタンを訪問するまで、2年8ヵ月も出なかった」
米CNNは9月6日、「8月20日以来、少なくとも74都市(人口合計3億1300万人)で市全域や地区を対象とするロックダウンが実施された」と報じた。その理由については、
「10月16日に始まる第20回党大会は中国共産党と習主席個人の功績をたたえる場であり、大規模な流行が起きればそのイメージに傷がつきかねない」とした。地方幹部たちも、赴任先の経済活性化よりも、より厳格に順守して自らが党大会で出世する道を選んだのである。
「上梁不正下梁歪(シャンリアンブージェンシアリアンワイ)」(上梁が正しくないと下梁は歪む)。中国は「砂上の楼閣」と化す?
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)