新型コロナ 経済
2020/5/5 23:00 (2020/5/6 5:26更新)日本経済新聞 電子版
中国は流行のピークを過ぎて経済が再開している(1月28日、武漢)=AP
新型コロナウイルスの感染拡大で世界は大恐慌以来の危機の淵に立つ。日本は4日、緊急事態宣言の5月末までの延長を決めた。海外では移動制限を緩め出口を探る動きもあるが、経済は当面は以前の水準に届かず「水面下」の低空飛行が続く公算が大きい。医療体制の整備などでウイルスへの耐性を高めつつ活力を取り戻す工夫が要る。ニューノーマル(新常態)への適応力が問われる。
新型コロナの感染者数は世界で350万人を超えた。治療薬やワクチンの開発は急ピッチだが、なお途上だ。今は移動制限しかほぼ封じ込めの手立てがない。しかし感染抑止と引き換えに経済の首根っこを押さえる「ロックダウン」(都市封鎖)のような劇薬に頼り続けるわけにはいかない。
各国は出口に向けて試行錯誤する。見えてきたのは感染の再拡大を防ぐため封鎖の解除後も人々の生活や経済活動に一定の制約を求める新常態だ。
フランスは11日に厳しい外出制限を解いて小学校などを再開しつつ、美術館や映画館は閉鎖を続ける。飲食店の営業はまだ認めない。イタリアは4日からまず製造業を再開。レストランなどは6月以降となる。日本はもともと海外のような厳しい封鎖はしていないが、5月6日が期限だった緊急事態宣言の解除は見送った。
今なお毎日2万~3万人ほどの感染者が新たに出る米国も「経済を機能させなければいけない」(トランプ大統領)と段階的な緩和に動く。ずるずる封鎖を続ければ倒産や失業が広がり、社会がまひしかねないとの危機感がある。
中立性が高い議会予算局(CBO)が4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前期比の年率換算で39.6%減ると見込む。6年ぶりのマイナス成長だった1~3月期からさらに急落する。
予測では7~9月期は23.5%増と一見、V字回復に映る。しかしGDPの額にすれば20.1兆ドルと前年同期の21.5兆ドルに遠く及ばない。2期連続の2桁の伸びが期待される10~12月期でも20.7兆ドルにとどまり、直近のピークとなった2019年10~12月期の21.7兆ドルに届かない。
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事が「大恐慌以来、最悪の不況」と語るコロナ危機。どの国の経済もしばらく水面下に沈むことは避けられそうにない。欧州中央銀行(ECB)は欧州の四半期のGDPが危機前の水準に戻るのは21~22年になるとみる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の試算でも日米欧のGDPは向こう1年程度は前年比でマイナス成長が続く。
そもそもワクチンなどの有効打が出てくるまでは感染が再拡大する恐れがくすぶる。米ミネソタ大は過去のインフルエンザのパンデミックの経験から第2波の方が大きくなるリスクもあると警鐘を鳴らす。自らも感染した英国のジョンソン首相は「第2波のリスクを認識しなければいけない」と外出禁止令の緩和を慎重に探る。
経済を正常軌道に近づけるにはまず検査の強化で感染再拡大のリスクを最小限に抑えなければならない。米国は検査数を5月中に週200万件と1カ月で倍増させる目標だ。それでも不十分との見方もある。ロックフェラー財団は週2千万~3千万件の大量検査を提言する。医療施設の拡充で医療崩壊を防ぐバックアップ体制を築く必要もある。
日本はこれまでのところ中国や欧米ほどの感染拡大には至らずに済んでいるが、足元は極めて脆弱だ。検査能力や集中治療室などの医療資源は主要国の間で見劣りする。
危機からの脱出に向けた経済活動はウイルスへの耐性が前提になる。4月末の北京市。21年に開業予定のユニバーサル・スタジオの建設現場で作業員が警備員に呼び止められていた。最近2週間は北京にいたと証明する緑色のマークがないと中に入れない。
中国は流行のピークを過ぎて経済が再開し、工業生産の前年比の減少率は1~2月の13%が3月に1%まで縮んだ。それでも警戒モードは続き、以前と同じ姿には戻らない。5月1~5日の連休の旅行者数は昨年の3分の1。地下鉄の乗客数は4月最終週も北京で前年より6割少なく、上海も3分の2どまりだった。
ほぼ停止状態にある企業活動を少しずつでも出口に近づけていかなければ、経済は底割れしかねない。独フォルクスワーゲン(VW)の4月の生産・販売は中国を除きほぼ停止した。欧州最大のウォルフスブルク工場は再稼働したが、生産量は危機前の約4割。フランク・ウィッター最高財務責任者(CFO)は「次の3カ月で正常化するとは考えていない。4~6月期の営業赤字は避けられない」と認める。
「これまで数々の不況を乗り越えてきたが、今回はレベルが違った」。山口県萩市で収容人員800人の「萩グランドホテル天空」を経営する長州観光開発は足元の予約が前年の1割にも満たない苦境で4月6日、山口地裁に自己破産を申請した。沢野秀人社長は「先が見えない」と漏らしていたという。
感染抑制に時間がかかり、経済の収縮が長引けば復元力が損なわれる恐れもある。危機を乗り越えたとしても以前と全く同じ風景が戻るとは限らない。感染症のグローバルリスクは常にそこにある。医療基盤を整えてウイルスと持久戦を続けながら「水面下」の経済を立ち上げ直す。新常態への適応力をいち早く確立した国や企業こそがポストコロナの世界のけん引役になるはずだ。