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中国の鉄鋼過剰、世界揺るがす-業界全体が窮地に陥る恐れ Bloomberg News 2024年8月19日 11:06 JST

2024-08-19 15:05:24 | 日記

中国の鉄鋼過剰、世界揺るがす-業界全体が窮地に陥る恐れ
Bloomberg News
2024年8月19日 11:06 JST

中国の建設不況は鉄鋼が多過ぎ、需要が少な過ぎることを意味する
鉄鋼生産レベルを維持できているのは輸出という開放弁のおかげ

上海で建設鋼材の鋼管杭を販売するユィ・ヨンチャン氏の年間売り上げは、数年のうちに4分の3余り減った。「トンネルの先に光が見えない」ほどのひどい市況だという。

  チリでは労働組合のリーダー、エクトル・メディナ氏がウアチパト製鉄所で50年近く続けている仕事を失おうとしている。

  鉄鋼業界における中国という圧倒的な存在が、彼らが働く業界、ひいては彼らのキャリアと生活を長年にわたって支配してきたことが、あらためて浮き彫りとなっている。

  世界2位の経済大国、中国は年10億トン余り、つまり、世界の生産量の半分以上を生産している。しかし今、その中国が揺らいでいる。

  中国が鉄鋼のスーパーパワーになる過程で世界の鉄鋼業界に衝撃を与えたように、そのピークからの退潮もまた、それに劣らない激動を招く可能性を秘めている。

China Is By Far the Dominant Force in Global Steel

Top 10 producers in 2023

Source: World Steel Association

  中国国内の建設不況が意味しているのは、鉄鋼が多過ぎ、需要が少な過ぎるということだ。各国は中国で余った鉄鋼が自国市場に流れ込み、価格を押し下げ、製鉄所を廃業に追い込み、労働者を失業させるのではと懸念。そうなれば、世界が今直面している経済的課題が一段と悪化することになる。

  欧州一の経済大国ドイツは今年、ほとんど成長しない見通しだ。大統領選を11月に控える米国は鉄鋼業界向けの保護措置を強化しているが、ペンシルベニア州のような激戦州における鉄鋼の重要性を考えると、脅威と見なされ得るものなら何であれ、選挙戦の争点となる可能性がある。
「厳しい冬」

  中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、不動産頼みの経済成長から脱却しようとしているが、これは鉄鋼業界にとって重大な意味を持つ。

  習氏は今後数十年かけハイテク製造業とグリーンテクノロジーを中国経済の原動力にしたいと考えている。そうした中で、不動産危機によって、鉄鋼需要が急拡大していた長い時代は終わりを告げた。

  だが、経済と雇用を支えようとする習指導部が、需要縮小をどのように管理できるかを巡っては大きな疑問が残る。ユィ氏は「価格急落に伴い利益率も小さくなっている。中国の需要は弱い」と述べた。

Baowu Steel Group's Baoshan Production Facility in Shanghai
宝武鋼鉄集団の熱間圧延作業場(上海)
Photographer: Qilai Shen/Bloomberg

  中国宝武鋼鉄集団の胡望明会長は最近、この課題の深刻さを明確に示した。胡氏は毎年1億3000万トンの鉄鋼を生産する高炉帝国を統括している。この生産量は米国とドイツ、フランスを合わせても及ばない。

  警告を発したのは胡氏が初めてではないにせよ、中国の鉄鋼セクターが「厳しい冬」に直面していると述べた同氏の言葉には、中国国内だけでなく世界全体が重みを感じた。

  山西建邦集団も最近、危機感を強調。ソーシャルメディアの微信(ウィーチャット)への投稿によると、鉄鋼業界が現在の苦境から抜け出すためには企業の3割余りが淘汰(とうた)される必要があるとの見方を張鋭ゼネラルマネージャーが15日に示した。

Xi Jinping’s Great Economic Rewiring Is Cushioning China’s Slowdown
建設が止まった工事現場(徐州、7月)
Source: Bloomberg

  コンサルティング会社、上海スチールホームEコマースを創業し、業界に40年携わってきたウー・ウェンチャン氏は「中国の鉄鋼需要はすでに天井を打ち、次は着実に減少していくはずだ」と分析。「製鉄会社間の合併や再編を政府が強力に後押ししない限り、鉄鋼が今後2、3年でこのサイクルから抜け出すのは非常に難しいだろう」と予想した。

  不動産不況に加え、インフラ支出にも陰りが見え始め、製鉄所は右肩下がりの価格下落に苦しんでいる。習指導部が過去の危機時のような大規模な景気刺激策を控えているにもかかわらず、中国経済はそれでも年5%前後の成長目標を達成する方向だ。
生産能力過剰

  鉄鋼価格の下落は、鉄鋼を使用する企業にとってはもちろん恩恵だが、生産者への影響は深刻で、利益は圧迫され、製鉄所閉鎖につながる。

  チリ政府は今年、中国からの輸入品に課す新たな関税を急ぎ導入し、製鉄会社CAPの高炉閉鎖をいったんは阻止した。閉鎖の決定を撤回した同社だったが、さらに大きな四半期損失を出すと閉鎖計画を復活させた。

  その結果、労組リーダーの一人としてメディナ氏(72)は従業員2500人の退職金交渉に追われることになった。また、2万人以上が何らかの関連事業に依存している地元経済にとっても大きな打撃だ。

Chilean steel company Huachipato workers erect barricades to protest plant's closure, Talcahuano, Chile - 01 Apr 2024
ウアチパト製鉄所の閉鎖計画に抗議する労働者(4月1日)
Photographer: Felipe Vasquez/EPA-EFE/Shutterstock

  メディナ氏は「閉鎖は不名誉なことであり、中国との絶対的に不公平な競争の結果だ」と主張。「われわれは皆、所得源を失うことになる」と話した。

  鉄鋼需要がすでに低迷している欧州では、ドイツのザルツギッターが1-6月(上期)の赤字を報告した際、過剰生産能力と中国の輸出をその理由に挙げた。

  独経済省はブルームバーグに対し、状況を注視しているとし、「厳しい国際競争」に触れた。欧州トップの鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルも同じような批判を展開している。

  ドイツ鉄鋼協会のマネジングディレクター、マーティン・テューリンガー氏は、「われわれの懸念が現実になりつつあることを中国からの警告が示している。それは強靭(きょうじん)さに関してだ。過剰生産能力は、この業界の収益性と持続可能性を危うくしている」と述べた。

  2015年と16年に起きた前回の鉄鋼危機は、欧州と米国で大問題となった。16年の米大統領選を制したトランプ前大統領は選挙戦の大半で安価な中国からの輸入品から米国を守ることを公約に掲げた。

  欧米と中国の間にある現在の貿易摩擦の多くは、21世紀のテクノロジーに集中している。だが、特に米国のラストベルト(さびた工業地帯)や英国の北部イングランドなど歴史ある企業やその周辺に築かれた地域社会に関して言えば、鉄鋼は感情に訴える力を保持している。加えて、国防部門が鉄鋼を必要としていることを踏まえると、鉄鋼は国家安全保障上の問題でもある。
輸出

  中国の産業規模は、国内需要の小さな波紋でさえ、それが波及すれば多大なダメージを国外にもたらすことを意味する。1-6月の輸出量は北米の全生産量に匹敵し、今年約1億トンに達する勢いだ。

  これは、国内価格の低迷により、一部の鉄鋼を海外に出荷した方が採算が取れるようになったことが要因だ。ベンチマーク製品である熱延コイルは、20年以降で最も安い価格で中国から輸出されている。通常、中国より2、3カ月遅れるグローバル価格もまた、数年来の低水準にある。
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中国で輸出準備される鋼材(連雲港、2020年)
Source: Costfoto/Future Publishing/Getty Images

  スラブや薄板、鉄筋といった鉄鋼の基本的な形態であれば、市場の流動性は高く、新しい買い手を見つけるのは比較的容易だ。欧米が通商防衛が強化する中で、鉄鋼製品は新たな市場に流れ込む。

  安価な輸入品の増加に悩まされているのが中南米で、他地域が極めて高い関税を中国製品に課していることが背景だ。今世紀の初めごろ、中国はこの地域に年間わずか8万500トンの鉄鋼を出荷していただけだったが、昨年は1000万トンに近づいた。

  コロンビアの鉄鋼業界団体を率いるダニエル・レイ氏は「日に日に状況が危機的になっている。われわれは無防備な状態だ」と語った。同団体は政府に保護措置を講じるよう求めている。

Where Are China's Steel Exports All Going?

Source: General Administration of Customs

Note: *Assocation of Southeast Asian Nations



  バイデン米大統領は今年、全米鉄鋼労働組合(USW)で演説し、中国の鉄鋼とアルミニウムに高関税をかけるよう呼びかけた。同大統領の最高経済顧問の一人であるブレイナード国家経済会議(NEC)委員長は当時、中国の「政策主導による過剰生産能力は、米国の鉄鋼・アルミニウム産業の将来に深刻なリスクをもたらす」と述べた。

  米国はまた、メキシコのような第三国を通じて中国から出荷される鉄鋼を抑制する対策も取っている。
ジレンマ

  米国とその同盟国が鉄鋼セクターを巡り中国勢にどう対抗するかという問題は、緊張に満ちている。例えば日本製鉄によるUSスチール買収計画の支持者は、競争に勝てる規模の会社を誕生させることができると論じるが、トランプ、バイデン両氏を含め米国の政治家は反対している。
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バイデン大統領(ペンシルベニア州ピッツバーグのUSW本部、4月17日)
Photographer: Andrew Caballero-Reynolds/AFP/Getty Images

  中国の鉄鋼問題は、鉄鋼の主要原料である鉄鉱石にも影響が及ぶ。鉄鉱石は今年最もパフォーマンスの悪い商品の一つで、16日終了週だけで価格が10%近く急落した。

  中国政府は今、ジレンマに直面している。当局は鉄鋼業界の再編を望んでいるかもしれないが、実際にそう動けば経済の不確実性が高まっているタイミングで、成長にひずみが生じ、雇用が脅かされることになる。

  需要低迷と過剰生産能力により、赤字企業が急増しており、6月時点で関連する赤字企業は2300社を超え、昨年末から3分の1増加した。

  鉄鋼の過剰生産に対処する最新の取り組みは20年代に入り、「脱炭素」の枠組みの中で開始された。20年に生産量が過去最高の10億5000万トンに膨れ上がった後、中国政府は公害を引き起こす鉄鋼業界の炭素排出を抑制するため、前年以下という上限を課した。この取り組みは漸進的なもので、おおむね成功を収めているが、生産量の大幅な削減には至っていない。

China Produces a Massive Amount of Steel

And production hasn't fallen much despite the housing market collapse

Source: China's National Bureau of Statistics

  今のような鉄鋼生産レベルを維持できているのは、主に輸出という開放弁のおかげだ。調査会社カラニッシュ・コモディティーズによると、国内需要は20年以降10%余り減少している。世界鉄鋼協会は今年4月、中国は鉄鋼需要のピークに達したもようで、中期的にはさらに減少し得るとの見通しを示した。

  上海スチールホームのウー氏は「1社が損をするのは普通だが、業界全体が損をするのは異常だ。政府の政策調整が必要だ。市場に頼っているだけでは、業界全体が非常に悲惨なことになる」との見方を示した。

原題:Too Much Steel in China Means Trouble for the World (抜粋)

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