ジャクソンホール会議開幕へ 市場動かす日米欧中銀集結
北米
2023年8月25日 5:00 (2023年8月25日 5:03更新)
日米欧の中銀トップはインフレ対応で何を語るか
【この記事のポイント】
・中長期的な成長や金融政策の行方を議論
・パウエルFRB議長の講演が最大の焦点
・日銀の植田総裁の「次の一手」にも関心
【ジャクソンホール(米ワイオミング州)=斉藤雄太】世界の中央銀行関係者や経済学者が集う経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が24日夜(日本時間25日午前)、開幕する。「世界経済の構造転換」をテーマに中長期的な成長や岐路にある金融政策の行方を議論する。日米欧中銀トップの発言で金融市場は大きく動きそうだ。
昨年のパウエル発言、世界株安招く
米カンザスシティー連銀が主催し、ロッキー山脈の麓の山荘を舞台に26日まで開く。新型コロナウイルス禍によるオンライン形式を経て、今年は昨年に続き対面型で開催する。注目は主要中銀トップの発言で、最大の焦点は25日午前8時(日本時間午後11時)すぎに講演する米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が何を語るかだ。
パウエル氏は米消費者物価指数(CPI)の上昇率が8%を超え、直前の米連邦公開市場委員会(FOMC)で通常の3倍の0.75%の利上げを実施して臨んだ昨年の同会議で「FRBはインフレ抑制をやり遂げるまで(引き締めを)やり続けなければならない」と強調。景気への配慮よりもインフレ退治に重きを置く姿勢を打ち出した。
この発言で、米景気や物価の先行きを楽観していた市場は冷や水を浴び、世界的な株価の急落や円安・ドル高につながった。実際、FRBは今年7月まで累計5.25%の利上げを実施し、政策金利は22年ぶりの高水準に達した。
米CPIの上昇率は足元で3%台まで下がり、FRBも利上げペースを段階的に落としている。利上げが最終局面に差し掛かるなか、市場の関心はFRBが年内にあと1回利上げするかどうかに加え、利上げ終了後にどれだけ長く政策金利を維持するかに向かう。
ジャクソンホール会議の会場となるジャクソン・レイク・ロッジ
昨春以降の急速かつ大幅な利上げにもかかわらず、米景気は底堅さを保っており、物価上昇率2%の目標達成にはなお時間がかかるとの見方が多い。米国では景気を熱しも冷ましもしない「中立金利」が切り上がり、金融引き締めによる物価の抑制効果が従来より弱まっているとの声もある。
日銀・植田総裁も初参加
市場ではインフレ鈍化への期待と再燃への警戒が交錯している。パウエル氏が追加利上げの必要性や、利下げ転換までの時間軸についてどのような見解を示すか。利上げの「ラストワンマイル」の道筋をどう表現するかで、市場は再び大きく振れそうだ。
初参加の日銀の植田和男総裁も討論会への参加などを通じて発言機会がありそうだ。日銀は7月に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を修正し、長期金利の誘導幅の上限を事実上1%に引き上げた。物価高と円安傾向が続くなか、主要中銀で唯一、金融緩和を続ける日銀の「次の一手」を探る機会になる。
対ドルの円相場は8月に一時、9カ月ぶりの円安・ドル高水準となる1ドル=146円台まで下落した。日銀は政策修正を「緩和縮小ではない」と強調し、市場では日銀がマイナス金利政策の解除など金融正常化に動くには時間がかかるとの見方も根強い。
物価高も日銀の当初の想定を超えて長引いている。日本の7月のCPIは生鮮食品も含む全体の指数が前年同月比3.3%のプラスで同月の米国(3.2%)を上回った。円安は輸入物価の上昇を通じて物価高を助長する。
昨年のジャクソンホール会議ではFRBのパウエル氏が利上げ継続方針を強調し、緩和を続ける日銀との違いが改めて意識されて円安が進んだ。日銀が政策修正する前の7月の円相場は植田氏ら日銀幹部の発言が伝わるたびに大きく振れた。「金利ある世界」に一歩踏み出した日銀総裁の発言は、従来以上に関心を集めそうだ。
25日午後(日本時間26日未明)には欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も講演する。欧州ではインフレ率が高止まりする一方、底堅さを保つ米国経済と比べて景気減速の懸念が強まっている。
ECBは次回9月の理事会で「データ次第」で利上げの是非を慎重に判断する構えだ。ラガルド氏は「利上げするかもしれないし据え置くかもしれない」と利上げ見送りの可能性にも言及し、一部の理事会メンバーは打ち止めも視野に入れ始めている。
物価と景気の安定両立へ金融引き締めのかじ取りが一段と難しくなるなか、今後の政策運営をめぐり具体的なヒントを示すか市場の関心は高い。
【関連記事】
・米長期金利、約16年ぶり高水準 引き締め長期化観測で
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・米利上げ「終結宣言」先送り 株高続きインフレ再燃懸念
北米
2023年8月25日 5:00 (2023年8月25日 5:03更新)
日米欧の中銀トップはインフレ対応で何を語るか
【この記事のポイント】
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・パウエルFRB議長の講演が最大の焦点
・日銀の植田総裁の「次の一手」にも関心
【ジャクソンホール(米ワイオミング州)=斉藤雄太】世界の中央銀行関係者や経済学者が集う経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が24日夜(日本時間25日午前)、開幕する。「世界経済の構造転換」をテーマに中長期的な成長や岐路にある金融政策の行方を議論する。日米欧中銀トップの発言で金融市場は大きく動きそうだ。
昨年のパウエル発言、世界株安招く
米カンザスシティー連銀が主催し、ロッキー山脈の麓の山荘を舞台に26日まで開く。新型コロナウイルス禍によるオンライン形式を経て、今年は昨年に続き対面型で開催する。注目は主要中銀トップの発言で、最大の焦点は25日午前8時(日本時間午後11時)すぎに講演する米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が何を語るかだ。
パウエル氏は米消費者物価指数(CPI)の上昇率が8%を超え、直前の米連邦公開市場委員会(FOMC)で通常の3倍の0.75%の利上げを実施して臨んだ昨年の同会議で「FRBはインフレ抑制をやり遂げるまで(引き締めを)やり続けなければならない」と強調。景気への配慮よりもインフレ退治に重きを置く姿勢を打ち出した。
この発言で、米景気や物価の先行きを楽観していた市場は冷や水を浴び、世界的な株価の急落や円安・ドル高につながった。実際、FRBは今年7月まで累計5.25%の利上げを実施し、政策金利は22年ぶりの高水準に達した。
米CPIの上昇率は足元で3%台まで下がり、FRBも利上げペースを段階的に落としている。利上げが最終局面に差し掛かるなか、市場の関心はFRBが年内にあと1回利上げするかどうかに加え、利上げ終了後にどれだけ長く政策金利を維持するかに向かう。
ジャクソンホール会議の会場となるジャクソン・レイク・ロッジ
昨春以降の急速かつ大幅な利上げにもかかわらず、米景気は底堅さを保っており、物価上昇率2%の目標達成にはなお時間がかかるとの見方が多い。米国では景気を熱しも冷ましもしない「中立金利」が切り上がり、金融引き締めによる物価の抑制効果が従来より弱まっているとの声もある。
日銀・植田総裁も初参加
市場ではインフレ鈍化への期待と再燃への警戒が交錯している。パウエル氏が追加利上げの必要性や、利下げ転換までの時間軸についてどのような見解を示すか。利上げの「ラストワンマイル」の道筋をどう表現するかで、市場は再び大きく振れそうだ。
初参加の日銀の植田和男総裁も討論会への参加などを通じて発言機会がありそうだ。日銀は7月に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を修正し、長期金利の誘導幅の上限を事実上1%に引き上げた。物価高と円安傾向が続くなか、主要中銀で唯一、金融緩和を続ける日銀の「次の一手」を探る機会になる。
対ドルの円相場は8月に一時、9カ月ぶりの円安・ドル高水準となる1ドル=146円台まで下落した。日銀は政策修正を「緩和縮小ではない」と強調し、市場では日銀がマイナス金利政策の解除など金融正常化に動くには時間がかかるとの見方も根強い。
物価高も日銀の当初の想定を超えて長引いている。日本の7月のCPIは生鮮食品も含む全体の指数が前年同月比3.3%のプラスで同月の米国(3.2%)を上回った。円安は輸入物価の上昇を通じて物価高を助長する。
昨年のジャクソンホール会議ではFRBのパウエル氏が利上げ継続方針を強調し、緩和を続ける日銀との違いが改めて意識されて円安が進んだ。日銀が政策修正する前の7月の円相場は植田氏ら日銀幹部の発言が伝わるたびに大きく振れた。「金利ある世界」に一歩踏み出した日銀総裁の発言は、従来以上に関心を集めそうだ。
25日午後(日本時間26日未明)には欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も講演する。欧州ではインフレ率が高止まりする一方、底堅さを保つ米国経済と比べて景気減速の懸念が強まっている。
ECBは次回9月の理事会で「データ次第」で利上げの是非を慎重に判断する構えだ。ラガルド氏は「利上げするかもしれないし据え置くかもしれない」と利上げ見送りの可能性にも言及し、一部の理事会メンバーは打ち止めも視野に入れ始めている。
物価と景気の安定両立へ金融引き締めのかじ取りが一段と難しくなるなか、今後の政策運営をめぐり具体的なヒントを示すか市場の関心は高い。
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