銭湯の散歩道

神奈川、東京を中心とした銭湯めぐりについて、あれこれ書いていきます。

戦後最大の大量殺人事件ー旧大口病院点滴混入連続殺人事件の裁判を傍聴する

2021-10-28 07:13:00 | 日記


この日は久しぶりに平日が休みだったので、裁判傍聴に行ってきました。
扱うのは、戦後最大の大量殺人事件と呼ばれる旧大口病院での点滴混入殺人事件です。被告人は、当病院で看護師をしていた久保木愛弓(くぼきあゆみ)被告。
この手の裁判は希望者が多く、抽選になることから傍聴できるか定かでなかったのですが、運よく当選して傍聴することができました。


▲横浜スタジアムを横切って


▲真っ直ぐ進むと横浜地裁があります


▲テレビ局の車も来てました


▲抽選で配られる紙です。抽選会場では、番号の書かれた紙バンドを手首に巻かれ、発表を待ちます


▲当選番号が告知されて


▲当選すると傍聴券と交換します


入れたのは16名ほどで、あとは報道陣ばかりでした。一般の裁判傍聴はコロナ対策として席を開けて傍聴しなければならないのですが、報道陣は隣り合って座り、休憩時間中はかたまって談笑。
報道ではあれほどソーシャルディスタンスをアナウンスしていたのに…。

それはさておき、建物に入ると手荷物検査がありますが、特別な裁判になるとさらに手が込んできます。
101号室へ入る前に説明があって、中に入ったら席の移動の禁止、被告人質問中は一度出たら戻れないといったほかに様々な厳しいルールが適用されます。
抽選番号が本物かどうか確認されて、離れた場所にあるロッカーに手荷物を入れると、さらに金属探知機やボディタッチ(ポケットの中を探る程度)などで身体検査が行われます。財布やノートは自分で広げて確認してもらいます。
弁護士や検察官、証人(今回は心理学の先生)、被害者遺族といった関係者が次々に入っていくと、ようやく一般傍聴人の入場が許されます。

しばらく席に座って待っていると、久保木被告人が三人の警察官に付き添われて中に入ってきました。
服装は、ややダークグレーぽいジャケットに同色のスカート。足下をみると紺色のソックスで全体的には清楚な印象を受けます。長い髪を真ん中に分けて後ろで結んでいました。黄色っぽい色をした細いフレームの眼鏡を掛けて、当然ながら化粧気はなく、34歳という中年女性に入り始めた雰囲気を漂わせています。
背は低く、おそらく150あるかないかぐらいでしょうか。
一見すると地味な格好にみえますが、女性としての身だしなみを強く意識した印象を受けました。


被告人が座る折りたたみ椅子にはクッションが敷かれ、すぐ隣には若い女性警官が座ります。警官の椅子にクッションはありません。やはり被告人とはいえ、配慮されてると感じました。手錠を掛けたり外したりするのが女性警官なのは、被告人が女性ゆえだからでしょう。

裁判長と裁判員たちがぞろぞろと入場すると、全員が起立して、礼をします。
今回の裁判は冒頭から、心理学の先生による面接や心理テストの分析からはじまりました。

被告人は出産時は小さく生まれ、しばらくは保育器に入れられます。歩き始めはやや遅かったようですが、大きな病気をすることなく育ちました。
出生地は福島県で、親の仕事の関係から茨城県の水戸市に移り、当時住んでいたアパートでは同じアパートに住む子どもたちと遊ぶことが多かったそうです。
小学校にあがる頃になると友達つきあいがうまくいかず引っ込み思案で、親から積極的になるように叱られます。授業参観では休憩時間に一人でいることが多く、そうした孤立する姿を親に見られるのが嫌だったそうです。
小学校の低学年から高学年の頃までには父親が海外赴任で不在となり、過干渉気味な母親と少し年の離れた弟と疑似的な母子家庭環境の中で育ちます。
中学生の頃になると神奈川県伊勢崎市に引っ越して、地元の公立中学に通います。
中学校では何人か話をする同級生がいたようですが、高校生になると入学直後にそれぞれグループができて、そうしたグループに入りそびれてしまったことで三年間は孤独な時間を過ごします。
中学校、高校とも通して成績は真ん中ぐらいで、高校は教科書を丸暗記するなど努力したようでした。
中学校の時に作文コンクールで入選するのですが、先生から目立たない人間をあえて選んだと言われてとても傷つきます。
高校三年生のときに母親の勧めで看護師の道に進みます。看護専門学校に入ると、そこでも友人がでぎず、林間学校(奨学金をもらった学生たちが集まるイベント)でも孤立したといいます。
専門学校の実施研修では患者とコミュニケーションがうまくとれず、観察記録でも紋切り型の表現はできるものの臨機応変に表現することができなくて指導官によく怒られたようです。
ストレスが爆発すると、専門学校の寮の壁を蹴って穴を開けたこともありました。小さいときにはピアノを蹴ることもあったようですが、物に当たっても人を攻撃することはなかったようです。
そして研修のときに点滴がうまくできないことを患者の家族からなじられます。
専門学校を卒業すると、看護師としての仕事を始めますが、手順の決まった仕事はできるが、同時に複数の仕事をこなしたりすることが苦手だったようです。
仕事のストレスで過食症に陥り、お菓子を大量買いしては下剤を飲む乱れた生活がはじまります。睡眠薬も大量に服用してオーバードーズの傾向がありました。
旧大口病院では、死亡した患者の家族から同僚が激しく罵られるのを見て、ひどく動揺します。

異性との関係では、出会い系サイトを通じて出会うことがあり、その出会いの中で男性からほめられることがうれしかったと本人は語っています。

心理学者の先生の分析では、発達障害の一種であるASD(自閉症スペクトラム)の可能性を疑うものの、完全にそこまでは言い切れないのではないかと述べています。この手の「障害」は、健常者を完全に区分するものではなく、健常者と病気の間にグラデーションがあって、しいていえば被告人は近いほうだが障害者とまでは言い切れないだろうと観測しています。知能指数は言語分野がやや高い成績を納めますが、目で情報処理をする知覚統合ではかなり低い成績を見せたようです。
いくつかの心理学のテストでは、他者を極端に「非難しない」特徴がみられ、攻撃性もみられず、現実の行動とテスト結果の乖離は、検察官や弁護士双方から質問の対象となりました。
一度、宿題として次回に提出するように渡された心理テストが数ページ破られて返されたことがあったらしく、その理由を聞くと書き損じたからと言われたようです。逮捕後の精神科医での入院時ではトイレに雑誌を押し込んでトイレの水を溢れさせたこともありました。
ほかの分析医はうつ病の可能性を指摘する判定があり、それを踏まえた推測もありました。
小学生の頃から人間関係がうまくいかないゆえに自己肯定感がとても低く、常に人からの非難におびえていたように思われます。それゆえに患者家族から罵られることを極度におそれ、罪悪感よりも目の前の恐怖から逃れる為に犯罪を犯してしまったのかもしれません。
ただここで疑問なのが、そこまで病院の仕事が嫌ならふつうは辞める選択肢が出てくると思うのですが、彼女の場合は看護師以外の仕事はできないと思い込んでいたらしく、本来なら向いてない職種にも関わらず自ら袋小路にはまったようです。

裁判は終盤にさしかかると、被告人質問が行われました。検察官や裁判官からいくつ質問があったのですが、驚いたのは被告人の声がガーリーヴォイスだったことです。
子どもっぽい感じのアニメ声といえば理解してもらえるかもしれません。
そこには女性として可愛くみられたい、弱い存在として保護されたいという願望のようなものを感じました。


検察官の質問では、心理学の先生の質問にどう答えたかと聞かれました。
ー不安や困難に直面したときに人を殺してしまったことを反省、申し訳ないと思っています

どうすべきでしたか?
ー退職すべきでした

看護師はつらくなかったですか?
ーはい

仕事に関して母親と相談したかと聞かれて、あまり記憶にないと答えましたが、母親の供述によるとボーナスがもらえるまでがんばりなさいと言われたようです。

苦手な仕事もあったと思うけど、やりがいを感じることはなかったですか?
ー(10秒以上長い沈黙のあとに)記憶にありません

リハビリテーションでは患者さんが喜んでもらえたことを言っていたと思いますが
ー大口病院ではなく看護師を通してのことですか? リハビリのときは元気に退院していく姿をみてやりがいを感じることはありました


次に被害者家族の代理人弁護士が質問しました。

患者さんが苦しみながら死ぬのを見ていましたか?
ーはい

(被害者が)苦しみながら死んだことを看護師仲間から聞きましたか?
ー詳しくは知らなかったです

今は?
ーどれほどひどいことをしたか痛感しています

家族が同じ事をされたら?
ー許せないと思います

聞きそびれてしまったのですが、マスコミ関係者に積極的に関わったのではないかという趣旨のことを聞かれたときは珍しく語気を強めて、
ーマスコミに積極的に関わったことはありません

と話す姿が印象的でした。


ほかにも様々な質問がありましたが、整合性のとれない話を再確認するのが主で、新たに進展する話はありませんでした。ただ気になったのは、裁判官から薬を飲んでるか聞かれた下りで、なにか精神安定剤を飲んでるのかもしれません。


終始うつむきかげんで神妙な表情が変わることなく、アスファルトのように心をかたく閉ざした久保木被告。
心理学の先生は証言の中で久保木被告を「素直な方」と述べていました。被告人質問でも懸命に答えようとする姿は印象深かったです。
自閉症に近い素質をもって生まれて、人の繋がりが薄く、今までずっと生きづらさを感じながら生きてきたことは容易に想像できました。

今回の裁判では判決前の裁判(自分が傍聴した次の裁判)で異例の発言がありました。どんな判決であっても主文を後回しにすると宣言されたのです。
通例では、死刑判決になると決まって主文が後回しにされるのですが、今回は死刑であっても無期懲役であっても主文は後回し。静粛に聞いてほしいという願いからだそうです。
こうした異例の発言があったということは、死刑が回避される可能性もあるかもしれないと感じました。しかし事件の規模を考えると、死刑以外の判決はありえないかなとも考えてしまいます。

ともあえ、11月9日に運命の判決が下されます。






最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (mac68615)
2021-10-28 08:14:12
読んでいて切なくなっていきました。同情というよりも、何だろう、もっと多くの人が救われるような世の中だったら、おかしな方向に進んでは行かなかったのでは?と思わされました。
私も裁判の傍聴をしたことがあります。
国民の権利の行使のつもりでした。
周りにはしっかりとメモを読み返している人や法務系の学生さんたちがいました。
裁判、判決って過去の判例をなぞったものではなく、世の中に未来をもたらすものが多く出てきて欲しいと願うばかりです。
返信する
Unknown (southandnorthface)
2021-10-28 10:03:32
@mac68615 Macさんへ

コメントありがとうございます。

ほんとおっしゃるとおりで、もっと相互理解と補助の仕組みがあればこうした不幸は起きなかったかもしれないと思いました。
心理学の先生は発達障害(自閉症スペクトラム)ではないだろうというものの、いろんなエピソードを聞くとかなりそれに近かったんだろうなと思いました。

裁判傍聴は、是非ともおおくの人に経験してもらいたいですね。
やっぱり裁判を通して見るのとメディアを通してみるのとでは印象が大きく異なりますし、世の中のことが見えてくる経験になると思います。
この裁判でも熱心に記録してる人たちを沢山みました。
返信する
Unknown (rose-tky)
2021-10-29 20:25:18
うわあ 🌸ユーさーん🌸

すごいですね 裁判所で傍聴されたんですか? 抽選に当たってよかったですね!

モンモンは行ったことないわあ!

結構 持ち物とか チェック厳しいんですね!

ユーさーん❤️のいつも銭湯を評価する目が 裁判にも適応されて さすがですね!

こんなビックリするような 事件があったんですね!

罪を犯すぐらい せっぱつまった 被告も気の毒ですが 被害者本人たちや家族は 
やるせない思いですよね!
もっと周りの人が 合わない 向いていないって 気づいてあげれば こんなことにならなかったのにね!
返信する
Unknown (southandnorthface)
2021-10-29 23:03:01
@rose-tky モンモンさんへ

裁判傍聴は、なかなか一般の人は行く機会がないですよね。
正直、そんなにおすすめする場所ではないですが、一度ぐらいは経験しておくとニュースの見え方が違ってくるかなとは思います。
今回は横浜地裁でしたが、一時期よく霞ヶ関にある東京地裁に通ってました。
地下に食堂やお弁当屋さんとか、あとコンビニや郵便局まであるんですよ。

入り口の手荷物検査は、数年前まで横浜地裁だとなかったのですが、昨今のセキュリティー意識の高まりで導入されました。
こういう死刑が予想されるような、あるいは世間を賑わせたような裁判になると別個の手荷物検査はかなり厳しいです。

被告人の資質はたしかに憂慮すべき点はありますが、やはり被害者の苦しみや遺族の悲しみを考えると厳しい判決はやむを得ないかなと思いました。
もっとみんなが助け合える社会であったならば、防げた事件だったかもしれません。
返信する

コメントを投稿