SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

赤勝て白勝て

2010-06-29 14:14:17 | Weblog
というのは運動会の応援だが、今のわたしはそんな心境だ。何の話かと言えば、サッカーのワールドカップ。注目を集めている日本戦、決勝トーナメント1回戦の相手は南米のパラグアイだ。
わたし自身はパラグアイを訪ねたことはないが、昔からパラグアイの音楽は好きだった。ことに民族楽器のアルパ(ハープ)の音色には強く惹かれている。特に昨年は、マリアーノ・ゴンサレスというパラグアイのアルパ奏者と親しくなった。日本との縁も深い彼は、当然日本にファンも多い。運命のいたずらとはいえ、初のベスト8入りを懸けた戦いがパラグアイ対日本になるとは、彼も予想していなかったろう。それは、わたしも同様だ。さらに、わたしより遥か以前からラテン音楽を愛好し、3週間近くをパラグアイで過ごしたこともある父は、さらに複雑な心境らしい。
1次リーグと違い、引き分けがないのが、決勝トーナメントのつらいところ。どうしてもどちらかのチームが敗者となる。だから、赤勝て白勝て……まさに、そんな思いで、今夜はテレビの前に座ることになりそうだ。
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NHK俳壇と祖母

2010-06-27 12:16:52 | Weblog
わたしに俳句の楽しさを教えてくれたのは母方の祖母だが、その祖母が嬉しそうに声を弾ませていたことがある。聞けば、『NHK俳壇』に作品が入選したのだそうだ。確かいちばん末のクラスだったと記憶しているが、作品は全国から寄せられているわけだから、今思えばそれでも大したものだ。
『NHK俳壇』は『NHK短歌』と並ぶ人気番組で、現在は『NHK俳句』と名を変えて放送されている。祖母はこつこつと作句、投稿を続けていたのだろう。小学校の先生をしていた祖母の字は、実にきっちりと角のとれた読みやすい字だった。着物をしゃんと着こなし、今も、独特の懐かしさをもって思い出す祖母の、今日は祥月命日にあたる。
曇りなき字の祖母なりし夏座敷
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百段階段のいざない

2010-06-24 09:22:27 | Weblog
時折このブログに登場する、中学時代の親友の誘いで、きのうはすてきな場所に行ってきた。名づけて百段階段。建造は昭和10年。結婚式場として知られる目黒雅敘園の建物の中で、唯一戦前から残る木造建築で、現在は有形文化財に指定されている。
そう書くとなんだか堅苦しいが、実際は優しいたたずまいのケヤキの階段がおだやかに上へ上へと連なっている。そして階段に沿って幾つもの部屋がある。それぞれの部屋には、内装を手がけた著名な画家の名がつけられている。実は優しいたたずまいには理由があり、昭和の後半までは、この百段階段と各部屋は披露宴会場に用いられたとのこと。低めに造られた階段は、婚礼衣裳の花嫁が歩くためのものだったのだ。段数にして99段の階段を登る花嫁さんはなかなか骨が折れたことだろう。しかし、ガラス障子や柔らかな色彩の天井画、そして数々の調度品に囲まれてゆっくり階段を登ってゆく花嫁御寮を、一度見てみたかった……と、思わず古き佳き戦前にタイムスリップしてみたくなる。
ちなみにすっかり本題がおろそかになったが、本来百段階段を訪れた目的は、昨今人気の書家の展示会だった。30代半ばという脂の乗った年齢の彼の多彩な面を見られて興味深かった。が、やはりわたしの関心はどうしても百段階段に向いてしまう。そういえば親友とも話したのだが、年を経た家には独特の〈薫り〉がある。別に香など焚いているわけではないのだが、建物自体が持つ香気があるのだ。この百段階段が戦火を免れてくれて本当によかった。機会があれば、あの雰囲気にいざなわれるままに、またじっくり訪れてみたい。もしかしたら、白無垢の花嫁御寮に逢えたりしないか……と、つい白昼夢を見たくなるような、そんな心地よい空間だった。そういう場所に出逢わせてくれた親友にも、感謝している。
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本日、夏至

2010-06-21 11:31:38 | Weblog
半年前の当ブログに、冬至のことを書いた。季節は巡るもので、本日は夏至。1年のうちで最も昼が長い日だ。
きわめて勝手な幻想だが、冬至、夏至、という言葉には、なんとも言えずロマンティックな響きを感じる。それはおそらく、「至」という字のかもすニュアンスではあるまいか。冬が至る、夏が至る、至った先には何があるのか……そこに、つい空想を広げてみたくなる。まあ実際には天体現象であり、さほどロマンティックなものではないとわかっていても、そのあたりがファンタジー書きの哀しいさがだろうか……。
ところで冬至にはかぼちゃを食べて柚子湯に入る風習があるが、夏至にはそういう特別な風習が、少なくとも我が家にはない。何かあるのだろうか。いきなり現世に戻るようだが、何かそういう風習があれば教えていただきたいようだ。
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光なす双つのギター・あとがきにかえて

2010-06-17 11:17:15 | 書いた話
さて、幸せなカップルの誕生です。
今回の話は、以前から読んでくださっている方はお気づきでしょうが、前作『風に踊る星の瞳』の続編でした。主人公もそちらの登場人物たちです。女性のほうは、前作でいちばん自由に物語を動かしてくれたベロニカ。男性のほうは、前作ではまだ幼いギター好きの少年だったニコラスです。前の話から約20年、ふたりが出逢い、不思議に光るギターを媒介として結ばれるまでを物語にしました。そう、実はこのふたり、前の話ではうまい具合に(と言うのも何ですが)接点がなかったのですね。ちなみにこれもお気づきと思いますが、ベロニカがまずまずの姉さん女房になります。できるだけその辺りの〈上から目線〉な感じは出さないようにしたつもりですが、いかがだったでしょうか。
予想外だったのは、その展開です。続編ということもあり、本当はもっと短くまとめるつもりだったのです。ところが、見切り発車的に始めたツケか、どんどん話が伸びて……さらに作者にとって最も苦手なジャンルである、ラブストーリー的な様相が濃くなるにつれて筆が重くなり、あやうく途中で投げ出すところでした(汗)。しかも、前作の設定に寄りかかりすぎて、ニコラスの母親が亡くなっていることを文中できちんと説明しそこねるなど(それを匂わせる台詞はあるのですが)、ミスも生じました。この場を借りてお詫びします。最終的には、前作のヒロインの力も借りつつ、ふたりが幸せになってくれて、安堵しています。逆に、もっと長い話を期待されていた方、すみません。もしかしたらいずれまた、スピンオフストーリーが生まれるかもしれませんので、なんとなくお待ちいただければ幸いです(こらこら)。なお、一番人気のキャラクターは、ベロニカの愛犬のまん丸い犬君だったかもしれません(笑)。
奇しくも、『風に踊る星の瞳』連載開始からちょうど1年。この巡り合わせにも、不思議な縁を感じています。ご愛読いただいた方々、本当にありがとうございました。ではまた、次作でお目にかかりましょう。
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光なす双つのギター・エピローグ

2010-06-16 10:40:25 | 書いた話
 特別な公演という前評判のおかげで、チケットは早々に売り切れていた。
 ステージについたニコラスとペドロの姿に、客席からざわめきが起きる。
「おい、なんだい、ふたりの恰好」
「ああ。えらくめかしこんでるな」
 そのざわめきは、ベロニカの登場でどよめきに変わった。
「見ろよ、あの美しさ」
「おお──まるで、花嫁じゃないか」
 ベロニカは、小麦色の肌に映える白い衣裳に身を包み、髪には大輪の花を飾っていた。
 客席が静まるのを待ち、ニコラスがギターを弾き始める。落ち着いた厳粛な節回し。前奏に乗って、ペドロが歌い出したのは──
「これは、婚礼歌だぞ」
 物知りの客が言った。
「そうすると、さては」
 ベロニカがステージ中央で、練り上げられた足さばきを見せる。最初はゆるく、次第にペースを上げて。ニコラスはいつものようにベロニカから一瞬たりとも目を離さず、和音を積み重ねる。ペドロの声が勢いを増し、短調とも長調ともつかない節を歌い上げる。
 そして、ギターと踊りの掛け合いがクライマックスに達したとき、ニコラスのギターが光り出した。彼らのステージを見慣れた客にはなじみの光景だったが、今日の光は──
「こりゃあ、今まででいちばんだな」
 皆が口をそろえた。
 ベロニカが、ギターにも負けない、輝く笑顔をはじけさせる。
「おめでとう!」
 誰かが待ちきれずに叫んだ。それがきっかけとなって、客席じゅうが沸き返った。
「おめでとう、ベロニカ、ニコラス!」
 その声を受けて、ベロニカとニコラスは固く抱き合った。ギターが光に満たされる。ペドロが笑う。いつのまにかステージ下に来ていたまん丸い犬が、嬉しげに跳ねた。

(了)
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光なす双つのギター・第33話

2010-06-15 10:33:40 | 書いた話
 おだやかな山の景色が、幸せな一家を包んでいた。ギターを手にした若い母親が、幼い息子の手を取って指板に乗せる。
「ほら、ニコ。これがド、これがレよ」
 父親がおっとりと笑った。
「無理だよ、ルシア。まだ2歳になったばかりだよ、ニコラスは」
「でも、ロレンソ。見て、この子、弾こうとしてるわ。きっと、ギタリストになるわよ」
 ルシアはギターを構え直し、ゆっくりと弾き出す。もうすっかり覚えてしまった、優しい子守歌のようなメロディーを。
 すると、ギターが、包み込むように温かく輝き始めた。ニコラスが手を伸ばす。
「まあ、きれい。ギターが光ってる」
 ルシアがひときわ顔をなごませ、光なすギターを、息子に差し出した。

 ニコラスは、静かに記憶を噛み締めた。
「そうだ……あれは、確かに、母さんだった」
「思い出したのね。そう──あれはルシアの、息子を想う心の光……」
 彼女──エストが、慈しみ深く言葉を紡ぐ。今やその全身は、泉の女神たる本性を顕し、白銀にきらめいていた。
「そして、今度は、あなたたちの番。……わたしは、ベロニカとあなたが成長するさまをずっと見守ってきたわ」
 エストの声が、少しずつ遠ざかる。
「あなたたちは、出逢うべくして出逢ったのよ。ふたりの愛が、ギターに新たな光を与えているの。どうか、これからも……」
 幸せに、と言った気もするが、よくは聞き取れなかった。

「ニコ? 起きたの?」
 隣で、ベロニカが身動きする。ニコラスは、そっと彼女を抱き寄せた。
「うん──あなたに、聞いてほしい話があるんだ、ベロニカ」
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光なす双つのギター・第32話

2010-06-13 11:01:30 | 書いた話
「しばらくだな、ホアキン」
 ロレンソが、懐かしそうに言った。
「おれたちの結婚式にも来てくれなかったろう。どうしているかと思っていたんだよ」
 ミラは答えなかった。ロレンソの傍らに控えた女性──ルシアのほうにちらりと目を走らせる。ルシアは、優しげな中にも芯の強そうな表情を浮かべて、ミラを見返した。
「──そうなの。子どもが生まれるのよ」
 ふっくらしたお腹を、彼女は撫でる。
「……だそうだな」
「知ってたのか」
「工房の連中が、知らせてきたからな」
「そんなことが、噂になるのね。わたしがロレンソと結婚してから、ずいぶん経つのに」
「きみは、工房の人気者だったからね。師匠の娘を射止めたおれは、いまだ羨望の的さ。今では、おれもギター職人じゃないのにな」
 ロレンソが、妻をいたわるように言い添える。ミラは無言でギターを手に取り、やおら奏で始めた。ロレンソとルシアの顔が輝く。
「……いい、曲ね」
 ルシアがうっとりと感嘆した。
「子守歌、なのかしら」
 ミラは、ぶっきらぼうに手書き譜を出す。
「……子どもが生まれたら、弾いてやれ」
「じゃ、おれが」
 ロレンソが手を伸ばしたが、
「いいえ、わたしが」
 受け取ったのは、ルシアだった。
「せっかくのホアキンのプレゼントだもの。わたしが、弾いてあげたいわ」
 その刹那、ミラのごつい頬に幸福そうな微笑みが浮かんだのを、誰も見ていなかった。

「……これが、ミラが生涯独身だった理由」
 ニコラスの隣で、彼女が囁く。藤紫のドレスと黒髪が、白銀に変わり始めていた。
「……そうか……ミラも、母さんのことを」
 と、次の情景が、ニコラスの前にひらけた。
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光なす双つのギター・第31話

2010-06-11 11:15:15 | 書いた話
「やったね! ついに奴を追っ払ったぜ」
 ペドロが目を輝かせる。ニコラスとベロニカは、笑顔で寄り添う。まん丸い犬が、嬉しそうに短い尻尾を振った。
「……なんだか、気が抜けたわ」
 ベロニカが、軽く息をついた。
「そういえば寝てないのよね、ゆうべから」
「そうだよ、ちょっと寝ようぜ」
 ペドロがさっさと奥へ向かう。
「……まったく、調子がいいんだから」
 呆れたようにベロニカがたしなめたが、その顔はもう怒ってはいなかった。
「わたしたちも行きましょ、ニコ。おまえもおいで、シルクロ」
 ベロニカとニコラス、まん丸い犬も宿へ入る。どこかで、宝くじを売る人の声がする。平和な午前中が、始まろうとしていた。

 藤紫のドレスと、長い黒髪が揺れる。
 ニコラスは、彼女と向かい合っていた。
 彼女が微笑んだ。アーモンドの形をした瞳が、明星にも似て光る。
「思い出して、くれたのね。わたしのこと」
 ニコラスは、感謝を込めて頷いた。
 そして次の瞬間、狭いギター工房にいる自分に気づいた。
 太鼓腹に、鞠のような頭。つまらなさそうな顔をした男が、ギターを弾いていた。
「ホアキン・ミラ……」
 ニコラスがつい洩らした声は、ミラの耳には入っていないようだった。
 ニコラスは、ハッとする。ミラが弾いていた曲は、優しい子守歌のような……。
(あの、曲! じゃ、あれは彼が──?)
 そのとき、ノックの音がして、ひと組の男女が入ってきた。ニコラスはドキリとする。 男性は父のロレンソ、そして女性は……
「父さん──と、……母さん……?」
「よう、ロレンソ、ルシア」
 ミラが不機嫌そうに呟いた。
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光なす双つのギター・第30話

2010-06-09 13:30:24 | 書いた話
 パスクアルはふたたび車で乗りつけてきたが、その顔からは、完全に生気が失われていた。ニコラスのそばにあるギターケースを見はするものの、手を出そうとはしない。
「……どうしたのよ、パスクアル」
 ベロニカが肩をそびやかして尋ねた。
「気分でも悪いの? わざわざ、ニコラスがギターを渡してあげたのに」
「……なんなんだよ、そのギターは」
 パスクアルは、しかめ面の奥からどうにか呻き声を絞り出した。
「わけがわからねえ。また、光って消えやがった。……なにか、幽霊でも憑いてるんじゃねえのか?」
「言ったでしょう。戻ってくるのはギターの意志なんですよ」
と、ニコラス。
「まだ信じられないなら、ギターに訊いてみましょうか?」
 ニコラスは、ギターを取り出した。
「お…おい……」
 パスクアルが、気味悪そうに身構える。ペドロが「腰抜け」とでも言いたげに、パスクアルを一瞥した。
 そして、4人と1匹の視線が集まるなか。
 ギターが、いつになくやわらかい光をまき散らしながら鳴り出した。
「……これは……」
 ニコラスは、思わずまばたきした。
 知っている、曲だった。
 幾度も聴いてきたメロディー。
 優しい子守歌のような、心地よい調べ。
 ──夢に繰り返し出てくる、あの曲だった。
(それじゃ、やっぱり夢の中のギターは、このギターなのか……)
「おい、どこ行くんだよ!」
 ペドロの声で、我に返る。
 パスクアルが、車に飛び乗るところだった。エンジン音に紛れて、叫び声がした。
「要るもんか、そんな化け物ギター!」
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