ニコラスのギターがいちだんと高鳴るのと、金色の鳥が飛び立つのとは、ほぼ同じ刹那のできごとだった。
「──待って」
押しとどめようとするベロニカの声は、虚しくこだました。
鳥の消えた、夜ふけのキッチンに。
大きく息をついて、ニコラスがギターを置いた。まるでワンステージ終えたあとのような、昂りのあとを見せて。
「……行っちゃった」
エストが静かに言った。まだ小さな手が伸びて、父親の頬を撫でる。娘の突然の行動にキッとした眼差しを向けたベロニカは、すぐ、その意味を悟る。
「ニコ……」
エストのてのひらが、ニコラスの涙で濡れていた。
むしろ驚いたのは、当のニコラスだった。
気恥ずかしさがこみ上げる。
どうして、自分は泣いているんだろう。それも、妻と娘の前で。
なぜか彼女たちには聴こえない、あの懐かしげな曲のせいだろうか。
いや──
「声が、したんだ」
言い訳のように、早口になった。
「たぶん、ティトの声、だと思う。ぼくは直接聞いたことがないから」
「何て言ったの?」
「見つけてくれ、って。家にあるから、と」
「何を?」
「……そのあとが、わからないんだ。知らない単語なんだよ。ええと、確か『チョリ』とか聞こえたような」
「鳥よ」
「そうか鳥──って、エスト?」
「チョーリは、鳥よ、パパ。ひいおじいちゃんは、鳥を見つけてくれって言ったのよ」
「……どういうことだい?」
「──待って」
押しとどめようとするベロニカの声は、虚しくこだました。
鳥の消えた、夜ふけのキッチンに。
大きく息をついて、ニコラスがギターを置いた。まるでワンステージ終えたあとのような、昂りのあとを見せて。
「……行っちゃった」
エストが静かに言った。まだ小さな手が伸びて、父親の頬を撫でる。娘の突然の行動にキッとした眼差しを向けたベロニカは、すぐ、その意味を悟る。
「ニコ……」
エストのてのひらが、ニコラスの涙で濡れていた。
むしろ驚いたのは、当のニコラスだった。
気恥ずかしさがこみ上げる。
どうして、自分は泣いているんだろう。それも、妻と娘の前で。
なぜか彼女たちには聴こえない、あの懐かしげな曲のせいだろうか。
いや──
「声が、したんだ」
言い訳のように、早口になった。
「たぶん、ティトの声、だと思う。ぼくは直接聞いたことがないから」
「何て言ったの?」
「見つけてくれ、って。家にあるから、と」
「何を?」
「……そのあとが、わからないんだ。知らない単語なんだよ。ええと、確か『チョリ』とか聞こえたような」
「鳥よ」
「そうか鳥──って、エスト?」
「チョーリは、鳥よ、パパ。ひいおじいちゃんは、鳥を見つけてくれって言ったのよ」
「……どういうことだい?」