淡く輝く水面を、光の球がふわふわと漂ってゆく。海、ではない。川か、泉か。水がゆっくりと流れてゆくところを見ると、川だろうか。その流れの先に、ひとりの娘。浅黒い肌、黒い髪に黒い瞳。両手に抱えた綿雲のような光の球を、少しずつ流れへと放していく。やがてその球を娘がいつくしむようにわずかに手に取り、口に含んだ──そのしぐさが人形のようだな、そう思った刹那、
「アンヘル?」
目を開けた先に、妻の黒い瞳。
「ミノリ……」
一瞬、夢の続きかと思った。
「嫌ね、珍しく暇だからって居眠りなんて」
ミノリが軽く笑って、夫の金の髪を撫でる。こうしたときのミノリは、ひときわ若々しい。そう──客に言われるまでもない。ミノリはアンヘルと出会ったころから、ほとんど歳を重ねていないように見える。もともとあまり化粧をするほうではないから、化粧の助けではないだろう。
(ぼくなら、わかるんだけど……)
こんなとき、アンヘルはふと我が身をかえりみる。
もう、何年になるだろう。
歌うオルゴール人形として、貴族の館にいた自分。そのうち戦に巻き込まれ、気づけば子どもたちに囲まれて貧しい家の隅にいた自分。美しい少女カタリーナの愛を受け、やがて彼女とともに埋められた土の中で、人間の身体に生まれ変わっていた自分……。
トニオ爺さんのはからいで、自分を想うミノリと結ばれ、人間としての月日を重ねてきた。それでもやはり、普通の人間より歩みは遅いらしい。
だから、自分が若く見えるのはわかる。けれど、ミノリ──もともと人間であるはずのミノリが変わらずにいるのはどういうことなのか……。そんなことを考えていたから、あんな夢を見たのかもしれない。
「アンヘル?」
目を開けた先に、妻の黒い瞳。
「ミノリ……」
一瞬、夢の続きかと思った。
「嫌ね、珍しく暇だからって居眠りなんて」
ミノリが軽く笑って、夫の金の髪を撫でる。こうしたときのミノリは、ひときわ若々しい。そう──客に言われるまでもない。ミノリはアンヘルと出会ったころから、ほとんど歳を重ねていないように見える。もともとあまり化粧をするほうではないから、化粧の助けではないだろう。
(ぼくなら、わかるんだけど……)
こんなとき、アンヘルはふと我が身をかえりみる。
もう、何年になるだろう。
歌うオルゴール人形として、貴族の館にいた自分。そのうち戦に巻き込まれ、気づけば子どもたちに囲まれて貧しい家の隅にいた自分。美しい少女カタリーナの愛を受け、やがて彼女とともに埋められた土の中で、人間の身体に生まれ変わっていた自分……。
トニオ爺さんのはからいで、自分を想うミノリと結ばれ、人間としての月日を重ねてきた。それでもやはり、普通の人間より歩みは遅いらしい。
だから、自分が若く見えるのはわかる。けれど、ミノリ──もともと人間であるはずのミノリが変わらずにいるのはどういうことなのか……。そんなことを考えていたから、あんな夢を見たのかもしれない。