SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

天の歌と地の唄と 第20話(最終回)

2016-01-30 14:00:00 | 書いた話
女神エストは先の水神を一瞥し、“水返しの歌”に合わせてゆるやかに舞う。快い、心地よい祈り──誰もがそう感じたとき、忌まわしい歌声はやんでいた。「眠った──か」水神ふたりが顔を見合わせる。「よければ、この子はわたしが預かるわ」女神の言葉に、水神が慌てる。「待った、まだ修業が」「大丈夫。心強い世話係もいるし」「まさか……ママ?」女神は、自分の名を継ぐ娘を優しく抱く。「ええ。ベロニカは、一緒に星の泉を護ってくれているの。あなたたちが来るのを待っているわ」「そうか……」感に堪えたように、ニコラスが呟いた。「では」切り出したのは先の水神。「次の水神の弟子に、フアンはどうだろう」「ぼくが?」フアンは周りをかえりみ、やがて小さく頷いた。天と地の調べ、神と人の道は再び交わり、新たな鼓動を刻んでゆく。
(了)
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天の歌と地の唄と 第19話

2016-01-18 18:17:42 | 書いた話
ニコラスのギターが呼び覚ました疫水神の魂は、依りしろの少女の身体をすっかり支配していた。唇からは相変わらず不吉な歌が洩れ、加えて長い腕を振って人を近寄せまいとする。迂闊にそばに寄ることもできない。“水返しの歌”を繰り返す水神と先の水神の声音も、徐々に翳りつつあった。フアンの声にはまだ力があるが、しだいに疫水神の歌声が3人のそれにまさってゆく。このままでは──皆が感じたときだった。部屋に、白銀の光が差した。「いつか役に立つかもと、この歌を教えておいてよかったわ、フアン」その言葉とともに、白銀の髪を輝かせる女神エストがそこにいた。「母さん!」フアンが思わず歌を止める。空気が軋む。女神エストが言い放つ。「歌を続けて」「あなたが、なぜ」代わりにニコラスが問う。女神は婉然と微笑んだ。「親孝行、かしら」
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天の歌と地の唄と 第18話

2016-01-12 10:52:01 | 書いた話
先の水神の提案に、真っ先に反応したのはエスト。「それって、パパにあの和音を弾けってこと?」「ああ。今度こそ完全に、疫水神を封じねば」「……そんな危ないこと!」「奥方、あんたがたは必ず守る」水神も言葉を添える。「だからフアン、きみも力を貸してくれ」「ぼくも?」「どうやら天地の力を合わせねば、封印できそうにないのでね」「もう、神様も情けないわね!」そのとき。明け方の鐘に似た和音が、決着をつけるように鳴り渡った。「パパ!」エストが叫ぶ。「心配ないよ、エスト」ニコラスが穏やかに言う。「水神様を信じてみよう」刹那のうちに、部屋の空気がたわみはじめた。先の水神、水神、フアンが声を合わせる。“水返しの歌”。非常時とわかっていても、それはうっとりするような歌声だった。だがこのたびは、疫水神の抵抗も強かった。
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天の歌と地の唄と 第17話

2016-01-02 11:36:55 | 書いた話
「人の身……ああ、ぼくですか」束の間虚を突かれた風情になったニコラスが、照れたようにギターを持ち直す。「そうとも」と、先の水神。「ここには、純然たる人の子はきみしかいないからね」「あら、あたしは?」間髪を入れずエストが問う。「きみは、わたしの孫息子の妻となった時点で、わが眷族の仲間入りだよ」「孫……そうか、フアンは師匠の孫になるわけだ」と水神。「万年にひとりといわれた水神様の孫なら」「フアンの唄が人を魅了するのも当然ね」父と頷き交わしたエストは、夫に向き直る。「フアン、あなたこのこと知ってたの?」フアンはかぶりを振った。「物心ついたときには、母さんと父さんしかいなかったからね」「さて──と。つもる話はあとにして」先の水神が声音を引き締める。「ニコラスとやら。もう一度ギターを弾いてくれないか」
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