「え……ニコ、何?」
「いや、ぼくじゃない」
「でも、確かに聞こえたんだけど……『心配ない』、とかって」
ベロニカは腑に落ちない様子だったが、ニコラスにはわかった。その声の主は……
(そうか。心配、ないんだね)
あらためて、ギターケースを提げる。
「じゃ、行ってくるね、ベロニカ」
ニコラスは、宿屋の狭い入り口を通った。フロントには誰もいない。どうやらパスクアルが、因果を含めて追い出したらしい。
足音を聞きつけたか、正面の部屋から、パスクアルが現れた。酒壜を持ち、千鳥足だ。
「よう。天才ギタリスト様のお出ましだ」
「……酔ってるんですね」
「いや、ついに念願のギターが手に入ると思うと、嬉しくってな」
「──ペドロはどこです」
パスクアルは部屋のドアを開ける。奥にペドロが転がっていた。ニコラスは急いで助け起こす。幸い、ひどい怪我はないようだ。
「ニコ、悪い……挑発に乗っちまった……」
「大丈夫かい、ペドロ」
「たいしたことないよ、こんなの」
ペドロは顔を歪めながら、虚勢を張ってみせた。得意満面のパスクアルが言う。
「さ。ギターを置いてってもらおう」
ニコラスは、ギターケースを床に置いた。
「あなたは、ギターだけは大事にしてくれると信じています」
「──いちいち偉そうなんだよ、貴様は」
目の前に火花が走った。一瞬遅れて、殴られたのだ、と気づく。
「てめえ、ニコにまで手を出しやがって!」
ペドロがパスクアルに詰め寄るのを、ニコラスは押しとどめた。
「……平気だよ、ペドロ。さ、帰ろう。ベロニカが待ってるよ」
「いや、ぼくじゃない」
「でも、確かに聞こえたんだけど……『心配ない』、とかって」
ベロニカは腑に落ちない様子だったが、ニコラスにはわかった。その声の主は……
(そうか。心配、ないんだね)
あらためて、ギターケースを提げる。
「じゃ、行ってくるね、ベロニカ」
ニコラスは、宿屋の狭い入り口を通った。フロントには誰もいない。どうやらパスクアルが、因果を含めて追い出したらしい。
足音を聞きつけたか、正面の部屋から、パスクアルが現れた。酒壜を持ち、千鳥足だ。
「よう。天才ギタリスト様のお出ましだ」
「……酔ってるんですね」
「いや、ついに念願のギターが手に入ると思うと、嬉しくってな」
「──ペドロはどこです」
パスクアルは部屋のドアを開ける。奥にペドロが転がっていた。ニコラスは急いで助け起こす。幸い、ひどい怪我はないようだ。
「ニコ、悪い……挑発に乗っちまった……」
「大丈夫かい、ペドロ」
「たいしたことないよ、こんなの」
ペドロは顔を歪めながら、虚勢を張ってみせた。得意満面のパスクアルが言う。
「さ。ギターを置いてってもらおう」
ニコラスは、ギターケースを床に置いた。
「あなたは、ギターだけは大事にしてくれると信じています」
「──いちいち偉そうなんだよ、貴様は」
目の前に火花が走った。一瞬遅れて、殴られたのだ、と気づく。
「てめえ、ニコにまで手を出しやがって!」
ペドロがパスクアルに詰め寄るのを、ニコラスは押しとどめた。
「……平気だよ、ペドロ。さ、帰ろう。ベロニカが待ってるよ」