小さな馬の牽く馬車は、驚くべき速さで山の集落へと飛び戻った。
オルランドとサンチャは、何が何やらわからぬまま、馬車の客となっていた。
騒動を招かぬよう、テレサおばさんだけには、わけを話した。元気になったサンチャ、ソニアとエスペランサにも引き合わせた。テレサおばさんの驚きと喜びは、記すまでもないだろう。
倍の人数を連れて帰ったエスペランサとソニアに、集落は騒然となった。そのうえ、サンチャもオルランドも、ただの客人ではない。ソニアの実の母と双子の兄とあっては、一族の身内そのものではないか。
長老へは、弁の立つエスペランサがおおまかに事情を話した。長老は黙ってエスペランサの物語ることを聞いた。問いただしたいこともあったろうが、何も訊かなかった。
むしろ動揺したのは、ティトだった。
「エスペランサ。誰なんだ、その若い男は。その豪華なベールだって、どうしたんだ」
指す先にいたのは、すらりとした青年だった。風神だ。人波から少し距離を置いて、涼しい顔で佇む青年は、ティトでなくとも人々の興味を惹かずにはおかなかった。
(どうしよう……風の神さまだと言っても、みんな信じてくれるかしら。それに、海の神さまがくれたベールだなんて……)
エスペランサは風神をちらりと見る。と、その思いを察したように、風神がエスペランサとティトに向かって笑いかけた。
つり込まれて人々の視線がそちらに向いたとき、どこからともなく心地よい風が吹き始めた。ほのかに甘い花のような香りを含んだ、まさに薫風だった。
「この地の善き人々に、末永く希望の風を。この風神が約束しよう」
気づいたときには、風神の姿はなかった。
エスペランサは「ありがとう、風神さま」と唱えた。胸のなかでそっと、深く。
オルランドとサンチャは、何が何やらわからぬまま、馬車の客となっていた。
騒動を招かぬよう、テレサおばさんだけには、わけを話した。元気になったサンチャ、ソニアとエスペランサにも引き合わせた。テレサおばさんの驚きと喜びは、記すまでもないだろう。
倍の人数を連れて帰ったエスペランサとソニアに、集落は騒然となった。そのうえ、サンチャもオルランドも、ただの客人ではない。ソニアの実の母と双子の兄とあっては、一族の身内そのものではないか。
長老へは、弁の立つエスペランサがおおまかに事情を話した。長老は黙ってエスペランサの物語ることを聞いた。問いただしたいこともあったろうが、何も訊かなかった。
むしろ動揺したのは、ティトだった。
「エスペランサ。誰なんだ、その若い男は。その豪華なベールだって、どうしたんだ」
指す先にいたのは、すらりとした青年だった。風神だ。人波から少し距離を置いて、涼しい顔で佇む青年は、ティトでなくとも人々の興味を惹かずにはおかなかった。
(どうしよう……風の神さまだと言っても、みんな信じてくれるかしら。それに、海の神さまがくれたベールだなんて……)
エスペランサは風神をちらりと見る。と、その思いを察したように、風神がエスペランサとティトに向かって笑いかけた。
つり込まれて人々の視線がそちらに向いたとき、どこからともなく心地よい風が吹き始めた。ほのかに甘い花のような香りを含んだ、まさに薫風だった。
「この地の善き人々に、末永く希望の風を。この風神が約束しよう」
気づいたときには、風神の姿はなかった。
エスペランサは「ありがとう、風神さま」と唱えた。胸のなかでそっと、深く。