ギターの音に導かれて、エストは1軒の集合住宅に入っていく。
目指す部屋は3階だった。
フアンが呼び鈴を押す。ギターの音は続いていた。落ち着いた男の声がした。
「はい」
「あの、ロレンソ・ドラゴさんは……」
「わたしだが」
「ぼくたち、ホアキン・ミラさんの紹介で来ました。あなたに会いに」
「……ホアキンから?」
少し戸惑う気配があって、
「まあ、上がってきなさい」
旧いエレベーターに乗り、3階に向かう。エストがひとつ息をつく。
ドアがおもむろに開いた。顔を出したのは、白髪になりかけた髪を撫でつけた男性だった。いかにも温厚そうな顔立ちが、人柄を物語る。エストとフアンを認め、ひとこと「お入り」と言った。慎ましいが穏やかな暮らしを思わせる家具たちが並ぶ部屋。
奥の部屋からは、ギターの音がしていた。
「息子なんだ」
「あなたが教えて?」
エストが小さな声で訊いた。
「ああ。そろそろちゃんとした先生に習わせたいのだがね」
「……セビジャーナス……」
明るく軽やかな3拍子を刻むギター。弾きぶりはたどたどしいが、
「いい音をしているわ。見ても?」
「ああ、どうぞ」
エストはドアを静かに開ける。
6歳ぐらいの少年が、一心にギターに向かっていた。生き生きと音を紡いでいる。手にあるのは、子ども用のギター。
「……違うね……」
フアンが肩を落とす。
それは、ふつうに造られたギターだった。
求めるギターではない。
目指す部屋は3階だった。
フアンが呼び鈴を押す。ギターの音は続いていた。落ち着いた男の声がした。
「はい」
「あの、ロレンソ・ドラゴさんは……」
「わたしだが」
「ぼくたち、ホアキン・ミラさんの紹介で来ました。あなたに会いに」
「……ホアキンから?」
少し戸惑う気配があって、
「まあ、上がってきなさい」
旧いエレベーターに乗り、3階に向かう。エストがひとつ息をつく。
ドアがおもむろに開いた。顔を出したのは、白髪になりかけた髪を撫でつけた男性だった。いかにも温厚そうな顔立ちが、人柄を物語る。エストとフアンを認め、ひとこと「お入り」と言った。慎ましいが穏やかな暮らしを思わせる家具たちが並ぶ部屋。
奥の部屋からは、ギターの音がしていた。
「息子なんだ」
「あなたが教えて?」
エストが小さな声で訊いた。
「ああ。そろそろちゃんとした先生に習わせたいのだがね」
「……セビジャーナス……」
明るく軽やかな3拍子を刻むギター。弾きぶりはたどたどしいが、
「いい音をしているわ。見ても?」
「ああ、どうぞ」
エストはドアを静かに開ける。
6歳ぐらいの少年が、一心にギターに向かっていた。生き生きと音を紡いでいる。手にあるのは、子ども用のギター。
「……違うね……」
フアンが肩を落とす。
それは、ふつうに造られたギターだった。
求めるギターではない。