SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

天宮行進曲 第5話

2018-04-13 15:23:27 | 書いた話
「なるほど、そういうことならそちらにも一緒に来てもらうことになるな。──もっとも」風神がわずかにいたずらめいた笑みを浮かべる。「天宮にも、歌をもって知られる神がいてね。水神──わたしの弟だが、おそらくあれと歌くらべをしてもらうことになるな、歌い手の地位を賭けて」「水神……? 水の神さま?」「ああ。天宮の催しでは、何かあれば歌は水神の役目と決まっているのでね」──なら喜んで譲ります、と言いかけたカレータを、ベルナルドのひと睨みが制する。「悪いが、作曲するのはおれだ。歌い手も、おれが決める」「……ふうん」風神がふたたび呟いた。ただカレータにとって嬉しくないことに、今度は明らかに興味のこもった、しかも何やら楽しげな呟きだった。「これは愉快。祝いの儀が待ち遠しくなってきた」「で、風神さんよ」そう切り出したのはベルナルド。まるでバルのボーイを呼び止めるような気軽さだ。相手は一応神さまなんじゃ……と思いかけてカレータは諦める。相手が誰であろうと変わらない。それがベルナルド・ラビノであることは、カレータが身をもって知り尽くしている。そして呼びかけられた風神も、まったく動じずに応えた。「何か?」「そろそろ教えてくれてもいいだろう。慶事、慶事というが、いったい誰の祝いなんだ?」「……なるほど。確かに、それは失礼した。今回の祝いごとの主役は、ほかならぬわたしの姉でね」「さっきは弟、今度は姉か。いったい何人兄弟なんだ、あんた」「いや、この三人だよ。姉、わたし、弟」「ふん。それで?」「その姉がこのたび、地の牧の神と婚約して、星の女神の地位に就くのでね。その祝いというわけさ」「あの……お姉さんは、出世することになるの?」「そうだよ、歌うたい君。姉は流れ星の女神だったんだ。それが今度は、全天の星の女神になるのさ」風神の言葉に、ベルナルドは深く頷いた。「そうか。それで結婚行進曲をご所望というわけだな」