SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

新・指先のおとぎ話『うだつの上がらぬ神』

2020-11-17 15:35:22 | 書いた話
それは、見るからにうだつの上がらぬ神だった。低い背丈を曲がった腰がさらに低く見せ、櫛を入れる甲斐もなさそうな白髪は、形がよいとは言いかねる頭の周りを寂しげに漂っている。かつては一張羅だったのだろう、くたびれた長衣も、見ればあちこちにほころびがあった。ただ、両の瞳だけが碧玉のように耀いていた。天帝との顔合わせに集った神々も、その神のことを思い出しかねていた。声を掛けようという者も現れない。はからずも注目を集めたみすぼらしい神は意に介するふうもなく、唄の文言のようなものを呟いた。「老人が歩みゆく、あわれにこごえて……栄光あれ、生まれいでし御子に栄光あれ」──と、その姿は一同の前からかき消え、代わりに伝令が駆け込んできた。「お知らせを! 只今、天帝のお孫さまがご生誕!」そして、新たな神の子が天宮に誕生した。まだ髪も生えそろわず、頭も不格好に大きかったが、両の瞳は、碧玉の耀きをそなえていた。