SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

光なす双つのギター・エピローグ

2010-06-16 10:40:25 | 書いた話
 特別な公演という前評判のおかげで、チケットは早々に売り切れていた。
 ステージについたニコラスとペドロの姿に、客席からざわめきが起きる。
「おい、なんだい、ふたりの恰好」
「ああ。えらくめかしこんでるな」
 そのざわめきは、ベロニカの登場でどよめきに変わった。
「見ろよ、あの美しさ」
「おお──まるで、花嫁じゃないか」
 ベロニカは、小麦色の肌に映える白い衣裳に身を包み、髪には大輪の花を飾っていた。
 客席が静まるのを待ち、ニコラスがギターを弾き始める。落ち着いた厳粛な節回し。前奏に乗って、ペドロが歌い出したのは──
「これは、婚礼歌だぞ」
 物知りの客が言った。
「そうすると、さては」
 ベロニカがステージ中央で、練り上げられた足さばきを見せる。最初はゆるく、次第にペースを上げて。ニコラスはいつものようにベロニカから一瞬たりとも目を離さず、和音を積み重ねる。ペドロの声が勢いを増し、短調とも長調ともつかない節を歌い上げる。
 そして、ギターと踊りの掛け合いがクライマックスに達したとき、ニコラスのギターが光り出した。彼らのステージを見慣れた客にはなじみの光景だったが、今日の光は──
「こりゃあ、今まででいちばんだな」
 皆が口をそろえた。
 ベロニカが、ギターにも負けない、輝く笑顔をはじけさせる。
「おめでとう!」
 誰かが待ちきれずに叫んだ。それがきっかけとなって、客席じゅうが沸き返った。
「おめでとう、ベロニカ、ニコラス!」
 その声を受けて、ベロニカとニコラスは固く抱き合った。ギターが光に満たされる。ペドロが笑う。いつのまにかステージ下に来ていたまん丸い犬が、嬉しげに跳ねた。

(了)