特別な公演という前評判のおかげで、チケットは早々に売り切れていた。
ステージについたニコラスとペドロの姿に、客席からざわめきが起きる。
「おい、なんだい、ふたりの恰好」
「ああ。えらくめかしこんでるな」
そのざわめきは、ベロニカの登場でどよめきに変わった。
「見ろよ、あの美しさ」
「おお──まるで、花嫁じゃないか」
ベロニカは、小麦色の肌に映える白い衣裳に身を包み、髪には大輪の花を飾っていた。
客席が静まるのを待ち、ニコラスがギターを弾き始める。落ち着いた厳粛な節回し。前奏に乗って、ペドロが歌い出したのは──
「これは、婚礼歌だぞ」
物知りの客が言った。
「そうすると、さては」
ベロニカがステージ中央で、練り上げられた足さばきを見せる。最初はゆるく、次第にペースを上げて。ニコラスはいつものようにベロニカから一瞬たりとも目を離さず、和音を積み重ねる。ペドロの声が勢いを増し、短調とも長調ともつかない節を歌い上げる。
そして、ギターと踊りの掛け合いがクライマックスに達したとき、ニコラスのギターが光り出した。彼らのステージを見慣れた客にはなじみの光景だったが、今日の光は──
「こりゃあ、今まででいちばんだな」
皆が口をそろえた。
ベロニカが、ギターにも負けない、輝く笑顔をはじけさせる。
「おめでとう!」
誰かが待ちきれずに叫んだ。それがきっかけとなって、客席じゅうが沸き返った。
「おめでとう、ベロニカ、ニコラス!」
その声を受けて、ベロニカとニコラスは固く抱き合った。ギターが光に満たされる。ペドロが笑う。いつのまにかステージ下に来ていたまん丸い犬が、嬉しげに跳ねた。
(了)
ステージについたニコラスとペドロの姿に、客席からざわめきが起きる。
「おい、なんだい、ふたりの恰好」
「ああ。えらくめかしこんでるな」
そのざわめきは、ベロニカの登場でどよめきに変わった。
「見ろよ、あの美しさ」
「おお──まるで、花嫁じゃないか」
ベロニカは、小麦色の肌に映える白い衣裳に身を包み、髪には大輪の花を飾っていた。
客席が静まるのを待ち、ニコラスがギターを弾き始める。落ち着いた厳粛な節回し。前奏に乗って、ペドロが歌い出したのは──
「これは、婚礼歌だぞ」
物知りの客が言った。
「そうすると、さては」
ベロニカがステージ中央で、練り上げられた足さばきを見せる。最初はゆるく、次第にペースを上げて。ニコラスはいつものようにベロニカから一瞬たりとも目を離さず、和音を積み重ねる。ペドロの声が勢いを増し、短調とも長調ともつかない節を歌い上げる。
そして、ギターと踊りの掛け合いがクライマックスに達したとき、ニコラスのギターが光り出した。彼らのステージを見慣れた客にはなじみの光景だったが、今日の光は──
「こりゃあ、今まででいちばんだな」
皆が口をそろえた。
ベロニカが、ギターにも負けない、輝く笑顔をはじけさせる。
「おめでとう!」
誰かが待ちきれずに叫んだ。それがきっかけとなって、客席じゅうが沸き返った。
「おめでとう、ベロニカ、ニコラス!」
その声を受けて、ベロニカとニコラスは固く抱き合った。ギターが光に満たされる。ペドロが笑う。いつのまにかステージ下に来ていたまん丸い犬が、嬉しげに跳ねた。
(了)