ピアノの上には、小さな花かご。ピンクや赤の愛らしい花々は、3年間咲きつづけている。当たり前だ。特殊加工を施された花は、枯れることはないのだから。
(それに比べてレトロよね、このピアノは)
ぽろぽろと鍵盤を鳴らしながら、彼女は考えた。今日も、生徒に言われたのだ。
「先生のピアノって、ほんと古いよね」
(そりゃ古いわよ。100年前のだもん)
漆黒に輝くグランドピアノは、20世紀後半に造られたものだ。「古い」と言われても仕方ない。それでも、その重量感、存在感を、彼女は大いに気に入っていた。象牙の鍵盤に触れると、なんとも言えないぬくもりが伝わる。新しい楽器も、もちろん悪くない。でも古い楽器には、古いものだけが持つ佳さがあると、彼女はいつも思っていた。
そんな彼女を、友人たちはアンティーク趣味と評する。それも、もっともだ。家具は、古道具屋を回って集めたものばかり。服も、天然素材のものがほとんどだ。プラスチックや金属に囲まれて過ごす友人たちから見れば、さぞかし奇妙に映ることだろう。
しかし、彼女は孤独ではなかった。友人は多いし、ピアノ教師として生活していくだけの生徒にも恵まれている。ピアノの上の花かごも、生徒たちからのプレゼント。何ひとつ、不満はなかった……。
(あら。また停電)
いつのまにか、部屋の電気が消えていた。
急速に進む都市の電脳化のためか、ときどきこうして停電が起きる。彼女は軽い溜息をついて、目の奥の赤外線スコープをオンにした。一目見ただけでは人間と区別のつかない指先を動かし、電波を操作する。街の中枢コンピューター・システムにちょっと侵入することなど、彼女にはたやすいことだ。
(こういうとき、アンドロイドは便利ね)
くすっと笑って、彼女は愛する古いピアノに向き直った。
(それに比べてレトロよね、このピアノは)
ぽろぽろと鍵盤を鳴らしながら、彼女は考えた。今日も、生徒に言われたのだ。
「先生のピアノって、ほんと古いよね」
(そりゃ古いわよ。100年前のだもん)
漆黒に輝くグランドピアノは、20世紀後半に造られたものだ。「古い」と言われても仕方ない。それでも、その重量感、存在感を、彼女は大いに気に入っていた。象牙の鍵盤に触れると、なんとも言えないぬくもりが伝わる。新しい楽器も、もちろん悪くない。でも古い楽器には、古いものだけが持つ佳さがあると、彼女はいつも思っていた。
そんな彼女を、友人たちはアンティーク趣味と評する。それも、もっともだ。家具は、古道具屋を回って集めたものばかり。服も、天然素材のものがほとんどだ。プラスチックや金属に囲まれて過ごす友人たちから見れば、さぞかし奇妙に映ることだろう。
しかし、彼女は孤独ではなかった。友人は多いし、ピアノ教師として生活していくだけの生徒にも恵まれている。ピアノの上の花かごも、生徒たちからのプレゼント。何ひとつ、不満はなかった……。
(あら。また停電)
いつのまにか、部屋の電気が消えていた。
急速に進む都市の電脳化のためか、ときどきこうして停電が起きる。彼女は軽い溜息をついて、目の奥の赤外線スコープをオンにした。一目見ただけでは人間と区別のつかない指先を動かし、電波を操作する。街の中枢コンピューター・システムにちょっと侵入することなど、彼女にはたやすいことだ。
(こういうとき、アンドロイドは便利ね)
くすっと笑って、彼女は愛する古いピアノに向き直った。