SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

竜の唄を継ぐもの 第7話

2022-08-10 14:51:33 | 書いた話
細くたおやかな調子でありながら、息吹(イブ)の声は、側仕えの山吹を一言で下がらせるほどに凛と響いた。そしてその声は、水神の胸のうちにもまた、まっすぐなひと筋の光のように届いたのだった。そのとき、水神はあらためて確信した。息吹が山神であることを。彼女の声から伝わるもの、それはまさしく、健やかな地の力をあやつる山神ならではの、魂の息吹きであった。「……ま」「……」「……水神さま」呼ばれていることに気づき、われにもなく水神はうろたえた。「──ご無礼を」息吹は再び、水神の前に深くこうべを垂れる。「一世一代のお願いがございまする」「──なんなりと」同情した、わけではない。だが、自分にできることなら、叶えてやりたいと思った。息吹というこの健気な“新妻”に、力が残っているうちに。息吹の白い頬に、微かな安堵と感謝の色が浮かぶ。「わたくしを、その身にお納めくださいませ」言い切ったその言葉は、水神を驚かせた。