野を囲む空が、淡い藍色に染まる。
林を揺らして、一陣の風が吹いた。林の奥で、鳥が騒いだ。
林の中にぽかりとひらけた緑の野。
「……ふう」
かすかな溜め息を、風は聞き逃さなかった。
「どうしたのさ、退屈そうに」
野原には、2本のアーモンドが立っていた。1本は樹齢90年を超えようかという木、もう1本はまだ若々しい木。溜め息のあるじは、年かさの木のほうだった。
「耳ざといですね、風神さま」
しかしその声は、思いがけず若者のそれだ。逆に若木のほうから、重々しい声がした。
「そろそろまた、旅に出たくなったんじゃないのか、フアン」
「……お見通しだね、父さん」
伝わる、苦笑の気配。
「隣り合っとる親子だ。息子の考えぐらいわかるさ」
「ここは静かでいいとこだけど、時々やけに懐かしくなるんだ。母さんと旅した、都会の賑わいやざわめきが」
沈黙。
近づく、夜の足音。
「行ってきたらどうだ、フアン」
「──え、でも」
「母さんには、わたしから話しておこう」
ほどなく、ひとりの若者が、すっかり暗くなった野を抜けて林の奥へ消えていった。
林を揺らして、一陣の風が吹いた。林の奥で、鳥が騒いだ。
林の中にぽかりとひらけた緑の野。
「……ふう」
かすかな溜め息を、風は聞き逃さなかった。
「どうしたのさ、退屈そうに」
野原には、2本のアーモンドが立っていた。1本は樹齢90年を超えようかという木、もう1本はまだ若々しい木。溜め息のあるじは、年かさの木のほうだった。
「耳ざといですね、風神さま」
しかしその声は、思いがけず若者のそれだ。逆に若木のほうから、重々しい声がした。
「そろそろまた、旅に出たくなったんじゃないのか、フアン」
「……お見通しだね、父さん」
伝わる、苦笑の気配。
「隣り合っとる親子だ。息子の考えぐらいわかるさ」
「ここは静かでいいとこだけど、時々やけに懐かしくなるんだ。母さんと旅した、都会の賑わいやざわめきが」
沈黙。
近づく、夜の足音。
「行ってきたらどうだ、フアン」
「──え、でも」
「母さんには、わたしから話しておこう」
ほどなく、ひとりの若者が、すっかり暗くなった野を抜けて林の奥へ消えていった。