SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

木の若者と火の娘 プロローグ

2014-05-31 12:51:06 | 書いた話
 野を囲む空が、淡い藍色に染まる。
 林を揺らして、一陣の風が吹いた。林の奥で、鳥が騒いだ。
 林の中にぽかりとひらけた緑の野。
「……ふう」
 かすかな溜め息を、風は聞き逃さなかった。
「どうしたのさ、退屈そうに」
 野原には、2本のアーモンドが立っていた。1本は樹齢90年を超えようかという木、もう1本はまだ若々しい木。溜め息のあるじは、年かさの木のほうだった。
「耳ざといですね、風神さま」
 しかしその声は、思いがけず若者のそれだ。逆に若木のほうから、重々しい声がした。
「そろそろまた、旅に出たくなったんじゃないのか、フアン」
「……お見通しだね、父さん」
 伝わる、苦笑の気配。
「隣り合っとる親子だ。息子の考えぐらいわかるさ」
「ここは静かでいいとこだけど、時々やけに懐かしくなるんだ。母さんと旅した、都会の賑わいやざわめきが」
 沈黙。
 近づく、夜の足音。
「行ってきたらどうだ、フアン」
「──え、でも」
「母さんには、わたしから話しておこう」
 ほどなく、ひとりの若者が、すっかり暗くなった野を抜けて林の奥へ消えていった。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

双子の虹のハーモニー・あとがきにかえて

2014-05-13 08:08:28 | 書いた話
物語を終えてから、ずいぶん間が開いてしまったことを初めにお詫びします。
実は作者が、先日までスペインに行っておりました。
とはいえ、スペインへの途上でこの物語のエピローグは書き上げましたし(初めて海外から投稿したので少しドキドキでしたが( ̄▽ ̄;))、後程詳しく述べますが、あちらで、この物語のモデルのひとりとも会えたのでご勘弁ください。
さて、『350字の神話』シリーズ以来の本格的な(自分で言うな!)王道ファンタジーとなった本作、『双子の虹のハーモニー』と言いながら、本来傍役のはずの風神がつい動かしやすくて(笑)準主役のように話を進めてくれたおかげで、まずまずのペースで書き進めることができました。何しろ肝腎の主役は3歳の双子。まあ神々の娘たちですから人間と違っていてよいのですが、ふつう3歳の女の子というのはどれぐらいのことができるものなのか、つい気になって街で密かに観察してみたり……。不審者扱いされなくてよかったです(爆)。
7つの竪琴それぞれの色と音のイメージ、及びタイトルは、友人のピアニストに提供してもらいました。以前からわたしの作品を愛読してくれている彼女は、スペイン・中南米音楽のスペシャリスト。そして、黒髪の妹姫のモデルでもあります。もっとも、妹姫よりはずっと気丈でしっかり者ですが(笑)。で、幼くしてデビューを飾り、弾けないものはないとまで言われるスペインはアンダルシアの都セビージャ出身のギタリストで、さきのピアニストの友人としばしば見事なデュオを組む友人が、金髪の姉姫のモデルというわけです。
ふたりはこの物語にも好感触で、音楽と物語のコラボレーションで何かできたらいいね、と嬉しいことを言ってくれています。まだ具体的には形になっていませんが、ぜひ良い方向に動くよう、これから考えてみたいと思っているところです。
さて、物語書きというのは気まぐれなもので、ひとつの話を書きあげると目先の違う物語を書きたくなります。おかげさまでかなり良い反応を頂いた今回の物語ですが、スペインで受けてきた刺激もありますし、少し練ってまた紡いでいきたいと思います。しばしお待ちいただければありがたいです。
ではまた、次回作でお目にかかりましょう。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

双子の虹のハーモニー エピローグ

2014-05-01 00:01:03 | 書いた話
 二重の虹が、空にかかる。
 竪琴の美しい調べが、高みから響く。
 力強く深い音色を奏でるのは金髪の女神。
 優しく気高い音色を奏でるのは黒髪の女神。
 音色は重なり合い、みごとなハーモニーをつくりだす。
 時折ふたりは、互いに竪琴を取り替えてみる。ふだんは明確な輪郭を描く旋律は穏やかな癒しの気を帯び、寄り添うような安らぎの和音は高く華やかに歌いだす。天上や地上のそこかしこで、神々や人々が、少しふしぎそうに耳傾ける。
 ふたりの女神はそっくりの顔を見合わせて、「やっぱりだめね」と愉快そうに微笑み交わす。そのかたわらを、
「なにを遊んでるんだか」
 風神が、これも笑顔で過ぎてゆく。
「お兄さま」
「ごきげんよう」
 双子は、かつて旅を共にした従兄を、にこやかに見送る。おとなになった今も、3人は仲の良い従兄妹どうしだ。
 そして再び、ふたりはハーモニーを奏ではじめる。ふたりいてこそ輝かせることのできる、虹のハーモニーを。

(了)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする