「……伝言? 誰から」
ボーイは、入り口のほうを目で示す。ベロニカは顔を曇らせた。男がひとり、足早に立ち去っていくところだった。
「あれは……メンドーサだわ」
「メンドーサ?」
「パスクアルとつるんでた連中のひとりよ」
ベロニカとニコラスは、嫌な予感に駆られてメモに目をやった。
「──えっ」
ベロニカが、グラスを倒さんばかりにして立ち上がった。テーブルについた両手が、かすかに震える。足許でおとなしくなっていたまん丸い犬が、驚いたように起き上がる。
ニコラスもベロニカを気遣いながら、メモを確認する。
乱雑な文字で、短い用件が書かれてある。
「ペドロと、ひと騒動。
例のギターで、返してやろう。 P」
それと、ねぐららしい宿屋の名前。
ニコラスは、ギターケースを手にとった。
(……仕方ない、よね)
その手を、ベロニカが押さえる。
「行くことないわ、ニコ。しばらく頭を冷やさせたらいいのよ、あの子」
「そんなわけにはいかないよ、ベロニカ」
「──なら、わたしが行く」
「それは絶対だめだ!」
ニコラスは本気で慌てた。
「あなたは、ワン君と一緒に帰っていて。必ず、ペドロを連れて帰るから。……ギターのことなら、心配しなくていいから」
「……ニコ……」
ベロニカの瞳に、涙の粒が盛り上がる。
「……ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「大丈夫だ、ベロニカ。泣かないで」
ふたりは身を寄せ合い、そして、同じひとつの声を聞いた。
──心配ない。
古酒のようにコクのある、響く声だった。
ボーイは、入り口のほうを目で示す。ベロニカは顔を曇らせた。男がひとり、足早に立ち去っていくところだった。
「あれは……メンドーサだわ」
「メンドーサ?」
「パスクアルとつるんでた連中のひとりよ」
ベロニカとニコラスは、嫌な予感に駆られてメモに目をやった。
「──えっ」
ベロニカが、グラスを倒さんばかりにして立ち上がった。テーブルについた両手が、かすかに震える。足許でおとなしくなっていたまん丸い犬が、驚いたように起き上がる。
ニコラスもベロニカを気遣いながら、メモを確認する。
乱雑な文字で、短い用件が書かれてある。
「ペドロと、ひと騒動。
例のギターで、返してやろう。 P」
それと、ねぐららしい宿屋の名前。
ニコラスは、ギターケースを手にとった。
(……仕方ない、よね)
その手を、ベロニカが押さえる。
「行くことないわ、ニコ。しばらく頭を冷やさせたらいいのよ、あの子」
「そんなわけにはいかないよ、ベロニカ」
「──なら、わたしが行く」
「それは絶対だめだ!」
ニコラスは本気で慌てた。
「あなたは、ワン君と一緒に帰っていて。必ず、ペドロを連れて帰るから。……ギターのことなら、心配しなくていいから」
「……ニコ……」
ベロニカの瞳に、涙の粒が盛り上がる。
「……ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「大丈夫だ、ベロニカ。泣かないで」
ふたりは身を寄せ合い、そして、同じひとつの声を聞いた。
──心配ない。
古酒のようにコクのある、響く声だった。