ピアノは得意ではない。しかも、目の前にあるのは長いこと調律もされていないピアノ。
曲になるだろうか。
ニコラスは我知らず、ティトに祈っていた。
(頼む、ぼくに力を貸してください)
鍵盤に指を下ろす。
覚悟していたビリついた音を、思わぬ美声が救った。
雷に打たれたように、ベロニカが叫ぶ。
「──おじいちゃん!」
ニコラスも、自分の指を動かしているのがティトらしいと悟るまでに、時間はかからなかった。
林を渡る風に似た、懐かしげな曲が鳴る。
そこに、今度は歌が加わっていた。美声だが、技巧を弄した歌いぶりではない。むしろ、あたたかなうたごころに満ちていた。
知らない言語だった。
知らないはずなのに、ベロニカにもニコラスにも、その意味が伝わってきた。
「鳥よ鳥、
われは異国の鳥なりき
ふるさと離れ歌いおり……」
ティトの歌声に支えられて、ピアノの音の狂いはまったく気にならなくなっていた。
「ニコ、この歌……!」
ベロニカが肩を震わせる。ニコラスも頷く。画用紙に浮かんだ文字を、エストが読み解いてみせた、あの文言。
そして、歌がひと呼吸ついたとき。
「きゃ」
「ベロニカ!?」
ニコラスがピアノを離れて駆け寄る。ベロニカの手の中で、写真が変貌を始めていた。いや、正確には“鳥”が。金色の翼を再びはためかせているが、その先が何かを指し示している。
「針箱……?」
二人は針箱を見る。蓋に文字が表れていた。
Chori──チョーリ、の文字が。
曲になるだろうか。
ニコラスは我知らず、ティトに祈っていた。
(頼む、ぼくに力を貸してください)
鍵盤に指を下ろす。
覚悟していたビリついた音を、思わぬ美声が救った。
雷に打たれたように、ベロニカが叫ぶ。
「──おじいちゃん!」
ニコラスも、自分の指を動かしているのがティトらしいと悟るまでに、時間はかからなかった。
林を渡る風に似た、懐かしげな曲が鳴る。
そこに、今度は歌が加わっていた。美声だが、技巧を弄した歌いぶりではない。むしろ、あたたかなうたごころに満ちていた。
知らない言語だった。
知らないはずなのに、ベロニカにもニコラスにも、その意味が伝わってきた。
「鳥よ鳥、
われは異国の鳥なりき
ふるさと離れ歌いおり……」
ティトの歌声に支えられて、ピアノの音の狂いはまったく気にならなくなっていた。
「ニコ、この歌……!」
ベロニカが肩を震わせる。ニコラスも頷く。画用紙に浮かんだ文字を、エストが読み解いてみせた、あの文言。
そして、歌がひと呼吸ついたとき。
「きゃ」
「ベロニカ!?」
ニコラスがピアノを離れて駆け寄る。ベロニカの手の中で、写真が変貌を始めていた。いや、正確には“鳥”が。金色の翼を再びはためかせているが、その先が何かを指し示している。
「針箱……?」
二人は針箱を見る。蓋に文字が表れていた。
Chori──チョーリ、の文字が。