「……聞いたことがあるわ」
ベロニカが呟く。
「わたしたちが踊りで使う扇は、ずっと東のほうの国から来たものなんだって」
その黒い瞳が、たおやかな女性の所作を追う。
「あなたの瞳も、黒いのね。なぜかしら。よく見たら似ていない? わたしたち」
ベロニカも、腕をかざしてみせる。
「……間違いないわ。踊り手なのね、あなたも」
ベロニカの言葉は、半ば自分に言い聞かせる独り言のようでもあった。だから、答が返ったときには息を呑んだ。
──うれしや。あなたとなら、話が通じる。
「ベロニカ? きみ、誰と喋って──」
「パパ。大丈夫、このひとは」
ベロニカと同じ台詞で、今度はエストがニコラスをなだめる。
「……“ドン”、ね」
人の智を超えた力、ドン。妻と娘がそれを持って生まれついてきたことを、ニコラスは今さらのように痛感する。こうなっては、見守るしかなさそうだ。
ベロニカは、女性の次の言葉を待つ。
やがて。
──後生だから、探してほしい、わたしの、扇。
「それはわかったわ。で、どこに行けばいいの、この見知らぬ世界で」
ベロニカが言うのはもっともだった。三人が今いる露地は、自分たちの土地とあまりにも違っている。
──ご案じなく。行く先は、わたしの連れが案内する。
「え──シルクロ?」
エストが思わず大きな声を出す。
どこからともなく現れた、まん丸い犬。それは確かに、シルクロそっくりだった。
──わたしの犬じゃ。まる、と申す。
ベロニカが呟く。
「わたしたちが踊りで使う扇は、ずっと東のほうの国から来たものなんだって」
その黒い瞳が、たおやかな女性の所作を追う。
「あなたの瞳も、黒いのね。なぜかしら。よく見たら似ていない? わたしたち」
ベロニカも、腕をかざしてみせる。
「……間違いないわ。踊り手なのね、あなたも」
ベロニカの言葉は、半ば自分に言い聞かせる独り言のようでもあった。だから、答が返ったときには息を呑んだ。
──うれしや。あなたとなら、話が通じる。
「ベロニカ? きみ、誰と喋って──」
「パパ。大丈夫、このひとは」
ベロニカと同じ台詞で、今度はエストがニコラスをなだめる。
「……“ドン”、ね」
人の智を超えた力、ドン。妻と娘がそれを持って生まれついてきたことを、ニコラスは今さらのように痛感する。こうなっては、見守るしかなさそうだ。
ベロニカは、女性の次の言葉を待つ。
やがて。
──後生だから、探してほしい、わたしの、扇。
「それはわかったわ。で、どこに行けばいいの、この見知らぬ世界で」
ベロニカが言うのはもっともだった。三人が今いる露地は、自分たちの土地とあまりにも違っている。
──ご案じなく。行く先は、わたしの連れが案内する。
「え──シルクロ?」
エストが思わず大きな声を出す。
どこからともなく現れた、まん丸い犬。それは確かに、シルクロそっくりだった。
──わたしの犬じゃ。まる、と申す。