271828の滑り台Log

271828は自然対数の底に由来。時々ギリシャ・ブラジル♪

追悼、大谷杉郎先生

2010-07-03 05:18:26 | Weblog
一昨日(2010/07/01)の夜、私の携帯電話が鳴った。出てみると「群馬高専の小島です。大谷先生のことはお聞きになりましたか?」大谷杉郎先生逝去の知らせでした。私はしばし呆然としてしまった。ご高齢だとは分かっていてもこんなにも早く、こんなお知らせを頂くとは。先生と直接話すことの出来た最後は、炭素が導電性もつ理由を解説する記事を書くに当たって図版の使用許可をお願いした時でした。

私と先生の付き合いはもう随分昔に遡ります。炭素繊維のプロジェクトがきっかけでした。先生は車を運転しないので、現場や会議からの移動の際、私が運転手を勤めながら、二人で技術的なことばかりでなく文学の話でも盛り上がったりしました。ですから私も門前の小僧の一人なのかも知れません。以下に先生の略歴を記します。

1925年、新潟県加茂市に生まれる。桐生工専卒、工博(京都大学)、群馬大学教授、東海大学教授を経て、群馬大学名誉教授、(財)群馬大学科学技術振興会理事長。専門は炭素材料の研究で、炭素材料学会会長9年、炭素化過程の基礎研究と新材料開発に従事。啓蒙から専門実務書にわたる著書多数。日本化学会化学技術賞(1972)、石川カーボン賞(1994)、米国アクロン大学高分子加工の栄誉殿堂入り(2001)。趣味は俳句、俳号は杉子(さんし)、水彩画など。

先生の業績については今年の『産学官連携ジャーナル』にインタビュー「ピッチ系炭素繊維 哲学を持った研究と企業の優秀なキーマンとの出会い」が掲載されています。炭素材料の開発に大きな足跡を残されたことが分かります。

プロジェクトのまとめに入った頃、群馬大学科学技術振興会が主催するセミナーにも参加したことがあります。工学部の各科の教官が自分の研究分野を一般の人々に分かりやすく講演し、その後、自らの研究室を案内します。大学と企業の橋渡しがその目的です。この企画の旗振り役の大谷先生は最前列に陣取って鋭い質問を連発したことを覚えています。
私は前から3列目あたりに座って聞いていました。面白い講座では居眠りするどころではありませんが、なかには「××概論」みたいなものをネタにして話す人もいます。自分研究ではなく受け売りでは起きていることが不可能です。寝ます。こんな私を先生は失礼な奴だと怒ったことはありません。「271828君は講座のリトマス試験紙みたいだね。」私と先生の評価は近かったのでしょうね。


門前の小僧は先生の著作も頂くことになります。冒頭に掲げた書籍で、見返しにあるサインの日付は1997年4月22日です。書名の『火瓮』とは、奈良、平安時代に一般に使われた鍋形、土製の木炭火鉢を指します。当時の高級品には、石または青銅製の、脚のついた「火舎」があります。

昨晩読み返して、頂いた当時に印象的だったエッセイに出会えました。それが「一流、二流、三流」です。少し抜粋します。(同書、11ページ)

「私は、研究でも、それ以外の分野でも、達人とか一流と呼ばれる人達の条件は、次の三つだと思っている。
一つは、その分野についての童話が書けることである。現実の報告ではなく、簡単な筋で、夢のあるこれから先の物語が書けることである。
二つ目は、当然のことながら、その分野の専門知識を持っていることである。ある程度の知識がなくては専門家とは言いにくい。
三つ目は、その分野に関する何か一つの職人芸的な腕前をもつことである。
私の規準は簡単で、三つの条件が揃った人が一流、二つなら二流、一つだけなら三流である。お断りしておくけれども、私はこんな規準を、昨今流行の科学評論家になったつもりで書いている。評論家は概して自分のことは棚に上げて書くものだと承知しているからである。」

多分、一番難しいのは「童話が書けること」でしょう。

略歴に「趣味は俳句、俳号は杉子(さんし)、水彩画など。」とありますが、本書の表紙・挿絵は自筆です。表紙は水彩画ではなく色鉛筆で描かれています。俳句・漢詩・詩も入っていますが、俳句「兄」の一句が眼に留まりました。

   医科研(61・8・28)
病む兄のこの奥にあり蝉しぐれ

私が一冊だけ持っている医学関係の書籍の著者が「病む兄」であると直ぐに分かりました。

『火瓮』に続いてこの本も読んでみよう。

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