お客様から当社の滑り台の滑走角度について聞かれることがあります。滑り台の滑面を何度で設計したら良いかは遊具を作る側としては根本的な問題です。近くの公園に設置してあるステンレス製の滑り台では滑面の直線部分の角度は35度で、FRP製では33度でした。勿論キーワードは「摩擦係数」です。
摩擦係数は斜面に平行な摩擦力と斜面に直角な抗力の比として定義されます。物体を斜面に置いて角度を大きくして行くと物体が滑り始めます。この滑り始める時の摩擦係数を最大静止摩擦係数と定義します。物体が滑り始めると斜面の終端まで加速しながら滑ります。このことから、静止摩擦係数>動摩擦係数であることが分かります。
静止摩擦係数は滑り始めの角度を測定し、その正接(タンジェント)を計算すれば分かります。先の例では、ステンレス製の場合0.7以下、FRPの場合0.65以下であることが分かります。
しかし、動摩擦係数を測定するには動いている物体の運動を観察して、そこから数値を引き出すことが必要になります。動摩擦を力学の中で初めて扱ったのはオイラー(Leonhard Euler,1707-1783)です。彼の理論は曾田範宗さんの『摩擦の話』(岩波新書、1971年初版、現在絶版)に詳しく記されていますのでご紹介します。図版も曾田さんのを引用します。ただし、表記は重力単位系ではなくてSI単位に変更しました。
図に示す斜面上でA点にあった重さW(mg)の物体が、初速0で静かに滑り出し、時間tのうちに距離sだけ滑ってB点まできたとする。するとこの物体がA点から重力の方向にs・sinθだけ低い位置に移るために失った位置エネルギー mgssinθ は、一部摩擦仕事に使われ、残りは運動エネルギーに転化するので次の関係が成り立ちます。
『新科学対話』にはこのような図版で説明されています。
写真に示した滑り台は滑面に超高分子量ポリエチレンを採用した試作品です。メーカーのスペックではかなり低い値になっていますが、これは測定条件が違うのでこの数値をそのまま使うことは出来ません。それで役所のご好意で近くの公園に試作機を設置することが出来、実際に滑ってもらいその時間をストップウォッチで測りました。衣服の材質やそのときの温度・湿度に依存しますが、私が得た動摩擦係数は約0.3でした。
この0.3に相当する正接の角度は約17度になります。この角度ではずるずる滑るか滑らないかの境界で遊具としては面白くもありません。当初20度で設計したのですが、少し滑りが悪かったので約22度に変更しました。
この22度というのはもう一つ根拠があって、この滑り台は2mを1ユニットとして製作します。この滑走長2mで0.75m落ちる角度が22.0243・・度なのです。arcsin(0.75/2.0)ですね。角度をラウンドナンバーにすると1ユニット当りの高低差がすっきりしないのです。現場的には「2m滑って750mm落ちる」方が断然直感的で、レベルも出しやすいのです。
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摩擦係数は斜面に平行な摩擦力と斜面に直角な抗力の比として定義されます。物体を斜面に置いて角度を大きくして行くと物体が滑り始めます。この滑り始める時の摩擦係数を最大静止摩擦係数と定義します。物体が滑り始めると斜面の終端まで加速しながら滑ります。このことから、静止摩擦係数>動摩擦係数であることが分かります。
静止摩擦係数は滑り始めの角度を測定し、その正接(タンジェント)を計算すれば分かります。先の例では、ステンレス製の場合0.7以下、FRPの場合0.65以下であることが分かります。
しかし、動摩擦係数を測定するには動いている物体の運動を観察して、そこから数値を引き出すことが必要になります。動摩擦を力学の中で初めて扱ったのはオイラー(Leonhard Euler,1707-1783)です。彼の理論は曾田範宗さんの『摩擦の話』(岩波新書、1971年初版、現在絶版)に詳しく記されていますのでご紹介します。図版も曾田さんのを引用します。ただし、表記は重力単位系ではなくてSI単位に変更しました。
図に示す斜面上でA点にあった重さW(mg)の物体が、初速0で静かに滑り出し、時間tのうちに距離sだけ滑ってB点まできたとする。するとこの物体がA点から重力の方向にs・sinθだけ低い位置に移るために失った位置エネルギー mgssinθ は、一部摩擦仕事に使われ、残りは運動エネルギーに転化するので次の関係が成り立ちます。
『新科学対話』にはこのような図版で説明されています。
写真に示した滑り台は滑面に超高分子量ポリエチレンを採用した試作品です。メーカーのスペックではかなり低い値になっていますが、これは測定条件が違うのでこの数値をそのまま使うことは出来ません。それで役所のご好意で近くの公園に試作機を設置することが出来、実際に滑ってもらいその時間をストップウォッチで測りました。衣服の材質やそのときの温度・湿度に依存しますが、私が得た動摩擦係数は約0.3でした。
この0.3に相当する正接の角度は約17度になります。この角度ではずるずる滑るか滑らないかの境界で遊具としては面白くもありません。当初20度で設計したのですが、少し滑りが悪かったので約22度に変更しました。
この22度というのはもう一つ根拠があって、この滑り台は2mを1ユニットとして製作します。この滑走長2mで0.75m落ちる角度が22.0243・・度なのです。arcsin(0.75/2.0)ですね。角度をラウンドナンバーにすると1ユニット当りの高低差がすっきりしないのです。現場的には「2m滑って750mm落ちる」方が断然直感的で、レベルも出しやすいのです。
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樹脂の摩擦係数測定は、曾田範宗先生の考え方でいいのですが、最近測定方法のJISが設定されてまして、そこでは、重錘をプッシュプルゲージを持って、θ=0の条件で測定することになりました。
私も思い当たるのですが、この測定法(傾斜法)はブロックAが下の板に平滑、均一に相対する保障がなく、点接触の結果木の葉のように回りながら落ちていったなら摩擦係数の再現性が求められないことです。あと板の温度設定によるμの差もあります。実態設計としてマイクロマシンに適用した経験では、このJISの考え方がどちらかと言うと正鵠を得てると考えます。駄文失礼しました。
コメントありがとうございます。
おしゃることは良く分かります。私ももう一度JISのプラスチックの試験法の当該箇所(JIS K 7125)を読み返しました。ただし私の持っているのはやや古く1999年版です。
メーカーの新製品のページ
http://www.saxin.com/products/nlsuper.html
でもこの試験方法で測定されています。従来品ではASTMの試験方法である旨の記述があります。
http://www.saxin.com/products/newlight01.html
しかし、私の得た値約0.3とは大きな隔たりがあるのです。現実の滑り台は泥足で駆け上がる、直射日光には曝されるなど悪条件の塊ですね。小さなテストピースでは分からないことが多すぎます。
やはり現物=人間で試すのが一番です。設置当初は飛び出すくらい滑るのですが、ほんの数日で落ち着きます。
おもしろいお仕事をされているようで、とても興味深く拝見させていただきました。また、どうぞよろしくお願いします。
興味を持っていただけて大変嬉しく思います。物としては単純な遊具ですが使用者がお子様なので、その点に気を使います。
何か楽しいことが話し合えたら素敵ですね。
解説が丁寧で,普通高卒・文学部中退(似てますね)の僕にもたいへんわかりやすい記事ですね。
公園等にある遊具が大好きなうちの娘(6歳ですが)が横から覗いて,写真やCGを興味深げに眺めていました。内容を娘用語に翻訳するのは大変ですが,これからも一緒に楽しませていただきます。
コメントありがとうございます。私の記事が分かりやすかったとしたら、それは元々曾田さんの解説が優れていたため、それに私の学歴がそれを求めていたためでしょう。
機械科卒のスタッフに「重い人が早く落ちる訳ではないということを、どうしたらお客さんに説明出来る?」と聞きました。
「それは運動方程式の両辺に質量mがあるから、mで割れば消えるから・・・」
これではねぇ。