271828の滑り台Log

271828は自然対数の底に由来。時々ギリシャ・ブラジル♪

ローラー滑り台(その1)

2010-10-23 12:41:03 | 遊具
ブログの題名が「滑り台Log」になっていますが、最近はこの話題から離れてしまったようです。それで原点に帰るつもりで、滑り台の物理を取り上げることにします。と言っても超高分子量ポリエチレンを滑面に採用した「グリッサンド」ではなくて、それ以前に開発した「ローラー滑り台」について、昔の記憶を呼び戻したり、最近考え直したりしたことも交えて語りたいと思います。
滑り台に限らず長い斜面を滑り降りること自体が楽しく、長時間・長距離を滑りたい、滑らせたいと思うのは人間の本性かもしれません。1990年頃は社会の情勢もそれを許し、各自治体が競って長い滑り台を設置しました。現在でもまだ滑れる状態にある滑り台は多く存在しています。冒頭の画像は19年物のループを持ったローラー滑り台です。
ローラーを使わない滑り台は滑って遊ぶ人の着衣と滑面との摩擦係数・滑走角度が運動を決定するパラメータであり、その人の体重には依存しないことが分かっています。通常の滑り台の滑面の材質や滑走速度では摩擦に関するクーロンの法則が良く当てはまるからです。


ところがローラー滑り台では体重の重い大人は子どもより速い速度で滑走することが観察されます。子どもを先に滑らせて、後から大人が滑ると追いついてしまいます。このように滑走速度が質量に依存する運動は、油の中を落下する錘や大きな雨粒が落ちるのと同じです。ローラー滑り台上を滑る物体の運動を理解するために最も単純なモデルを考えてみました。以下の図です。

人間は抽象化して十分長い板で表現します。実際の滑り台ではローラーは沢山並べてありますが、たった2本で代表させます。板とローラーは剛体として扱います。つまりヤング率は無限大で撓んだり、凹まないとします。またローラーと板とは滑らず、ころがり摩擦も無いと仮定します。
板の質量をM、ローラーの半径はr、その質量はmとし、ローラー滑り台の滑走角度はθとします。速度0で板が滑り始め、斜面に沿ってxだけ滑り降りた時の速度vを求めようというのです。

板の重心Gが斜面に沿ってxだけ変位した時、重心G'はhだけ下がったことになります。

落ちる前のこの板が持っていたポテンシャルエネルギーは以下になります。gは重力加速度です。

板がこの高さだけ落ちた時の速度をvとすると、ローラーは滑らないのでローラーの角速度ωをとすると以下の関係が成り立ちます。

ローラーの慣性モーメントをIとすると

と計算されます。ローラーの長さとは無関係であることに注意しましょう。
板と2本のローラーの運動エネルギーTは以下になるはずです。

摩擦が無いと仮定していますので、エネルギーの保存則から速度が計算できます。

この簡単なモデルでも自由落下の速度を越えないこと、板の質量が大きくなれば速度も大きくなることが分かります。ローラーの質量が小さければ速度が大きくなりますが、ローラーと板の質量比に依存すると言ったほうが正確かも知れません。
この簡単なモデルを考える場合でも、力(トルク)や運動量(角運動量)のようなベクトル量ではなく、エネルギーというスカラー量に目をつけた方が楽に解けます。工学の複雑な問題を解くには力の分解をするニュートン流よりも、エネルギーを考察するラグランジュ流が便利なのはこのためでしょう。スカラー量ならば座標変換しても不変です。
評価の高い『物理数学の直感的方法』でも最速降下線のような難しい問題から始めますが、これでは初心者の腰が引けてしまいます。

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