AIで「もうひとりの自分」遺して死ぬ「生」への執念(東洋経済オンライン) - Yahoo!ニュース
人類初「AIと融合」した61歳科学者の壮絶な人生 | 読書 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
そんなピーター博士の前に「ラスボス」として立ちはだかったのがALSだった。
ALSだけではない。ALSは「手の施しようのない病」であるという固定観念にとらわれた医療業界や社会そのものが、「発症から5年生存できれば御の字」という前提に立って、ALS患者から「人生を楽しむ」という選択肢を奪っている。
そう確信したピーター博士は、この現状に猛然と立ち向かう。
「ALSになっても消化管は問題なく機能しつづける。したがって、胃に直接チューブで栄養を送り込むことで、容易に命をつなぐことができるはずだ。これはきわめて一般的な措置にすぎない。
また、肺を膨らませる筋肉が衰えるだけで肺そのものは機能しているのだから、ポンプで空気を送り込んでやれば呼吸の問題も解決される。
(中略)私の目には、しかるべきテクノロジーを用いて適切にケアをすれば、ALSは死に至る病には見えなかった。どちらかといえば慢性疾患に近い病気ではないか」(『ネオ・ヒューマン』より)
「いまとは違う自分」になりたいと闘うすべての人に
じわじわと進行する病気をおとなしく受け入れるのではなく、先手を打って病気に対抗するために、ピーター博士はサイボーグ=「ピーター2.0」になることを選択した。
手始めに、胃には栄養チューブ、結腸には人工肛門、膀胱にはカテーテルを装着。さらには、人工呼吸器を使用しているALS患者の多くが「誤嚥性肺炎」で亡くなっている事実に注目し、自らの「声」を手放すことと引き換えに喉頭摘出の手術を受けるという、勇気ある決断をする(喉と気管を完全に分離するため)。
また、顔筋が動かせなくなることと、声帯を切除することによって失われるであろう「自分らしさ」を守るため、表情と声のサンプルもありったけ保存。テクノロジーの進化に合わせて、その時々で最先端のアバターと合成ボイスを構築できるよう、準備は万端だ。
これに、AIによる精度の高い予測変換を組み合わせれば、病気になる前の自分と変わらない自然さで、外部とコミュニケーションができるようになるだろうと博士は意気込む。
こうした前例のない取り組みへの熱意が、次第に医師たちにも浸透し、医療の現場すら変えていく様子は感動的だ。ALSが「最も残酷な病気」とは呼ばれなくなる日も、そう遠くはないかもしれない。
「宇宙に変化を起こす」のは、人類が「生まれながらにして持っている権利」だとピーター博士は言う。
本書は、人生をかけてそのメッセージを証明してきた博士の足跡そのものだ。1つひとつのエピソードが、「今とは違う自分」になるために闘うすべての人々に、勇気と強さを与えてくれることだろう。