ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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〔メモ〕 精神症状の発現とコルチゾールの過剰

2013年01月22日 |  症例(報道ベース)

 本来なら「コルチゾール過剰症候群 (11) 精神症状」の項で扱うべきだろうが、カキ氷でも食べる頃になりそうで忘れてしまうだろうから、メモしておこう。

 ストレスで分泌されるホルモンが精神症状に関連しているという先週金曜日の記事をそれぞれNHKと日経新聞から、

うつ病の発症メカニズム解明
1月18日 6時42分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130118/k10014881231000.html

 研究を行ったのは、名古屋市にある名城大学の鍋島俊隆特任教授と名古屋大学などからなる研究グループです。

 研究グループでは、うつ病などを発症しやすくしたマウスを、集団と一匹ずつ隔離した場合に分けて、それぞれヒトの思春期に当たる時期から3週間にわたって飼育しました。
 そうしたところ、集団飼育したマウスには異常は見られなかったものの、隔離したマウスには、▽認知力が低下する、▽動きに活発さがなくなるなど、うつ病や統合失調症の症状が見られ、脳を刺激する「ドーパミン」という物質を作る遺伝子の働きが大幅に低下していたということです。

 こうした症状は、集団飼育に戻しても治らなかった一方で、飼育の前に、あらかじめストレスで分泌されるホルモンの働きを抑えておくと現れなかったということです。
 こうしたことから研究グループは、ストレスによって脳の活動を調節する遺伝子の働きが低下してうつ病などが発症するというメカニズムが初めて分かったとしています。 (強調は引用者)

思春期のストレスがうつ病の一因に 名城大、マウスで解明
2013/1/18 4:00
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO50710740Y3A110C1CR8000/

 名古屋大学や京都大学などとの共同研究成果。18日付の米科学誌サイエンスに掲載される。・・・

 研究チームは精神疾患の発症に関係するとされる遺伝子を持つマウスを人為的に作製。人間の思春期にあたる生後5~8週に集団から隔離して飼育した。音に過敏に反応したり、意欲が低下したりするなどの症状が表れた。集団で飼育した場合はマウスの行動に異常はなかった。

 発症したマウスは血液中のストレスホルモンの量が増えていた。注意力や意思決定に関係する神経回路で、神経伝達物質のドーパミンが減り、働きが鈍っていることがわかった。一方、幻覚や妄想にかかわるとされる脳の部分では、刺激を受けるとドーパミンが増えた。


 二つの記事の主な内容をまとめておくと、

 (1) 遺伝子操作マウスを隔離飼育(3週間) 
→(2) 過剰なストレスのため血中の抗ストレスホルモンが増加
→(3) 注意力や意思決定に関係する神経回路においてドーパミンが減少
→(4) 認知力が低下する、動きに活発さがなくなるなどの症状(うつ病や統合失調症の症状に類似)

いうことらしい。

 関係の論文がサイエンスに掲載されたらしいのでくぐってみると、他力本願によれば、ブログ「Hashigozakura」の次の記事に同論文の要旨(英文)が紹介されているようだ。

うつ病発症メカニズム解明⇒思春期のストレスがうつ病の一因に|名城大学・鍋島俊隆特任教授らの研究成果
2013/01/19
http://hashigozakura.wordpress.com/2013/01/19/%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85%E7%99%BA%E7%97%87%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0%E8%A7%A3%E6%98%8E%E2%87%92%E6%80%9D%E6%98%A5%E6%9C%9F%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%81%8C/

 ちなみに、同論文のタイトルは(なお、和訳は仮訳)、

“Adolescent Stress―Induced Epigenetic Control of Dopaminergic Neurons via Glucocorticoids”
思春期ストレス - 糖質コルチコイド経由で誘発されたドーパミン作動性ニューロンの後成的制御
Science 18 January 2013: Vol. 339 no. 6117 pp. 335-339

 この要旨を読む限りでは、上記(3)については、ドーパミン作動性ニューロンの遺伝子の変化によるものらしく、また、「ストレスで分泌されるホルモン」というのは糖質コルチコイドのことらしい。但し、この遺伝子の変化は、通常マウスでは発現せず、糖質コルチコイド受容体の拮抗剤の投与で阻止可能ということらしい。なお、用語をおさらいしておくと、糖質コルチコイドの代表的なものの一つがコルチゾールである(詳しくは、過去記事ココ)。

 また、上記(4)の症状については、同要旨では「several neurochemical and behavioral deficits」(幾つかの神経化学的な及び行動的な障害)と表現されていて、これらを研究グループが「うつ病に似ている」と判断したようだ(マウスのうつ病と統合失調症をどう区別したのか興味あるところだが・・・)。

 問診もせずにうつ病と決め付けるのはマウス道に反するだろうから、冒頭の二つの記事にある「うつ病」のタイトルは言い過ぎの感があり、精神症状という用語の方が適当かもしれない。また、予め行った遺伝子操作が実験全体にどう影響しているかよくわからないので、NHKの記事のタイトル(「発症メカニズム解明」)は、その可能性もあるかもしれないが、この点も言い過ぎのような印象を受ける。


 いずれにせよ、今回の報告(論文)において、コルチゾールの過剰が精神症状(特に子供について)をもたらす可能性があることが動物実験で実証された点には大きな意味があるだろうと考えられる。

 以前のブログ記事で、3.11で被災した動物(犬)でコルチゾールの過剰がみられたとの報告についての報道を紹介した(過去記事ココ。ちなみに、被災犬の場合には、学習能力や愛着行動が低下していたらしいので、これも「神経化学的な及び行動的な障害」の一種とみられるであろうか)。個人的には、その過剰は●の影響の可能性があると考えているところ、今回の報告とあわせると、

●の影響 →体内でのコルチゾールの過剰 →精神症状の発現

という流れが明確になったとも考えられる。

 実際、3.11後において、東北の子供達におかしな状況が起きている点や被ばくと精神的疾患との関連性については、次のような過去記事でも紹介してきたところ。

〔メモ〕福島の子供のメンタル症状と糖尿病  2012-5-17
〔メモ〕仙台市の全小中生ストレス調査  2012-5-12
ぜんそく、胃潰瘍、PTSDなど精神的疾患は関連するのか・・・  2012-05-27


 今回の報告において、ストレス環境(隔離飼育)下でのマウスの飼育期間は3週間で、発現した精神症状は通常環境(集団飼育)に戻しても回復しなかったということだが、マウスの3週間は、ヒトにするとどの程度の期間にあたるのだろうか。既に22か月が経過しており、福島やその周辺の子供達のことが気にかかる。


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