goo blog サービス終了のお知らせ 

ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

2023年8月にテーマ・タイトルを変更(旧は外国語関連)
2015年4月にテーマ・タイトルを変更(旧は健康関連)

はじめに・・・

 gooのサービス終了に伴い移行を迫られているところ、推奨移行先の一つの "Hatena Blog" に本年8-11月の間に移行予定です。(2025年5月記)

 動物の生活様式の本質は遺伝因子に刻まれており、ヒトにおいても難しいことをせずにそのような生活様式を取り入れてみることが健康への第一歩と思います。なぜなら、生物の進化を眺めると、生息環境内で成り立ち得るある種の特徴を持った生態系があり、そこに依存する姿・形が想定する生活様式に倣うことが最も簡単と考えるからです(姿・形は生物側による長期間にわたる最適な変化の蓄積の賜物。例:チンパンジーはツル植物に覆われた密林での果実食に適応し、そのために手及び口の形や移動方法もこれに対応)。
 動物であれば何を食べて生きていくのかということが課題で、生活様式を変えようとすると、野生動物の場合は形質形態を変えるべく遺伝因子の変化を伴います。ヒトはいつの頃からか文化を持つようになり道具・技術を進展させてきましたが、これまでの生活様式を反映した遺伝子による自動制御を活用しないのは勿体ないと思います。(2024年9月記)


 外国語テーマも長く続かずなので、従来の健康ブログに戻してみようかと思いまして・・・ 備忘録的に残しておくと旧タイトルは「タイ語、漢字を使って覚えるの?」でした。(2023.8月記)


 従来の健康ブログ時に記事を書いていて、何故か、そろそろ外国語でも勉強した方がより良いかなーと思いつきまして、以来ちょこちょこと続けてきましたが、なんとなく、ある事を覚えると別の事を忘れてしまうモードに入ってしまったようで、知識量が停滞しつつあるような感じになりました。
 そこで、本ブログを外国語学習ブログに変更して、自分の備忘録的にまとめておこうかなと思いまして・・・。
 しかしながら、少し飽きたのか内容を増やしすぎたのか、書くのに手間がかかるようになり、時間がとれない時は、別ブログ「単語帳の素材?」にてライトな記事を書くことにしました。(この別ブログも徐々にライトでなくなり、記事を500本ほど書いたところで滞り中・・・)
 なお、健康ブログ時代の記事は、コチラの 入り口 からどうぞ。(2015.4月記)
 最近の健康系記事はカテゴリー「タイ語以外(健康2019)」からどうぞ。

「コルチゾール過剰症候群」 (7-Q) 黄色ブドウ球菌の感染症

2012年10月09日 |  症例(その他)

 短くコツコツと。

(7) 易感染性 (つづき)

 定量的に把握できる感染症のネタは尽きたので、次は、定性的になるけど、個人的な感触でなんとなく気になるものを幾つかみていこう。

(Q) 黄色ブドウ球菌の感染症

 黄色ブドウ球菌は、ヒトの皮膚での常在菌の一種なので、易感染性があるならば影響がより大きくなるであろう。少し手抜きをして、wikiから、

黄色ブドウ球菌 - 感染症
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E8%89%B2%E3%83%96%E3%83%89%E3%82%A6%E7%90%83%E8%8F%8C#.E6.84.9F.E6.9F.93.E7.97.87 (リンクはココ

 黄色ブドウ球菌による感染は、表皮およびその直下の組織に限局した部位に見られることが多い。毛孔や創傷部から感染が起きると、伝染性膿痂疹(とびひ、インペティーゴ)、癤(せつ、フルンケル)、癰(よう、カルブンケル)、蜂巣炎など、表皮限局性の化膿性疾患の原因になる。・・・


 関連しそうな項目の解説を列挙しておくと、gooヘルスケアから、

(ア) 伝染性膿痂疹(とびひ)

伝染性膿痂疹(とびひ) http://health.goo.ne.jp/medical/search/10OC0600.html (リンクはココ

伝染性膿痂疹(とびひ)とはどんな病気か
 黄色ブドウ球菌あるいは連鎖(れんさ)球菌が皮膚の浅い部分に感染し、水疱(すいほう)あるいは膿疱(のうほう)をつくる化膿性の病気です。・・・
 膿痂疹は、細菌で起こる皮膚の病気のなかで最も多い病気です。・・・

 従来は問題なかったもしれないが、今後は、蚊などに刺された跡を安易にかきつぶさない方がよいということだろう。


(イ) 毛包炎、おでき、せつ腫症、癰

毛嚢炎(毛包炎) http://health.goo.ne.jp/medical/search/10OC0100.html (リンクはココ

毛嚢炎(毛包炎)とはどんな病気か
 ひとつの毛包(毛穴の奥で毛根を包んでいるところ)にブドウ球菌が感染して起こる皮膚の病気です。

原因は何か
 黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(主に表皮ブドウ球菌)、あるいは両方が同時に感染する場合があります。毛包部にごく軽い傷がついた時、皮膚の湿った状態が長く続いた場合、あるいは、副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬を塗っている場合などが誘因となります。

せつ(おでき)、癰 http://health.goo.ne.jp/medical/search/10OC0200.html (リンクはココ

せつ(おでき)、癰とはどんな病気か
 せつは、毛包(もうほう)および毛包周囲の細菌感染によって起こり、膿瘍(のうよう)(皮膚のなかにうみがたまった状態)となって炎症は皮下の脂肪組織まで及ぶことがあります。顔にできたおできを面疔(めんちょう)と呼びます。癰は、隣同士の数個以上の毛包や毛包の周囲に同時に細菌感染が生じたものです。
 毛包炎・せつが一度に混じってたくさんできたり、これらが次々と出る場合を、せつ腫症(せつしゅしょう[、フルンクロージス])と呼びます。

原因は何か
 皮膚の小さい傷や皮膚が湿った状態が長く続くと、それが誘因となり、黄色ブドウ球菌が毛包・脂腺に感染して増殖し、炎症が周囲の皮膚組織に広がります。黄色ブドウ球菌がつくる種々の毒素によって膿瘍ができます。

 チェルノブイリ事故の際のロシア在住者によると、汚染肉を食べたため「フルンコ」という皮膚症状を患ったらしい。その体験談によると、多分せつ腫症(フルンクロージス)ではないかと思われる。ブログ「自閉症、パニックなど複数の障害をもつ子育て&私日記」から、

放射能の恐怖!経験者は語る!
March 17 [Thu], 2011
http://yaplog.jiheisyo.com/archive/121 (リンクはココ

とにかく皮膚が腐るんです。ニキビの小さな患部が黄色い膿になるんです。
針を黄色の膿の患部に刺してみるとドロッとした腐った皮膚が針先に付着します。
でもそのドロッと化膿した皮膚を抉ってとらない限り激痛のフルンコは治りません。


(ウ) 蜂窩織炎(蜂巣炎)

蜂窩織炎(蜂巣炎) [ほうかしきえん(ほうそうえん)]
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10OC1000.html (リンクはココ

蜂窩織炎(蜂巣炎)とはどんな病気か
 皮膚の深いところから皮下脂肪組織にかけての細菌による化膿性炎症です。

原因は何か
 主として黄色ブドウ球菌によりますが、化膿連鎖(れんさ)球菌など他の細菌によって生じることもあります。菌は、毛穴や汗の出る管、小さい傷、あるいは骨髄炎(こつずいえん)など深い部分の感染症から、皮下脂肪組織に侵入して発症します。リンパのうっ滞や浮腫がもとになる場合もあります。

 

 このシリーズの(2)で浮腫を扱ったけど(記事はココ)、リンパ浮腫があれば易感染性に拍車がかかるので問題となるのであろう。サイト「がんサポート情報センター」の記事から、

渡辺亨チームが医療サポートする:子宮頸がん編―2
2004年08月号
http://www.gsic.jp/cancer/cc_07/sp/02c.html#03 (リンクはココ

*3 リンパ浮腫

・・・また放射線治療だけでも、リンパ管が障害を受けてリンパ浮腫が起こることがあります。リンパ浮腫がひどいと、仕事や家事など、日常生活に重大な影響が出がちです。さらにリンパのう胞やリンパ膿瘍という障害に結びついたり、蜂窩織炎というやっかいな感染症にかかりやすくなります。 ・・・


 また、持病として糖尿病(心臓病も合併か)があったようなので間接的な影響しかなかったような気もするけど、亡くなる前に蜂窩織炎を患っていたらしい。かなり感染抵抗力が落ちていたのだろう。日刊スポーツ新聞から、


鳴戸親方急死 心臓病に肺炎…ストレスも
2011年11月8日8時26分
http://www.nikkansports.com/sports/sumo/news/p-sp-tp3-20111108-860568.html (リンクはココ

・・・埼玉在住の主治医は「両足に蜂窩織炎(ほうかしきえん)があり、40度の熱を出すことがあった」と証言。・・・


 最後に、易感染性の下では、普段は稀なことも珍しくなくなるかもしれないので、頭の片隅には留めておいたほうがよいのかもしれない。ブログ「俺のマウスは超合金」から、

おでき→敗血症→入院
2012-08-30 (木)
http://vstome.blog35.fc2.com/blog-entry-10931.html (リンクはココ

818 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2012/08/27(月) 09:19:59.05 P
おできができてから3日ぐらいで敗血症で入院した。
40度超えの熱が出て死ぬかと思った。

敗血症なんて戦場で兵士がかかるもんだと思ってたよ…
 [以下略]


「コルチゾール過剰症候群」 (7-O) 輸入感染症 (2)

2012年10月05日 |  症例(その他)

(7) 易感染性
(O) 輸入感染症(デング熱、チクングニヤ熱) (つづき)

 前回記事の内容に特に追加すべき内容はないのだが、今後も尾を引きそうな話だし、メモ代わりにまとめておこう。

 デング熱と聞くたびに天狗のたたりに違いないと思う人が自分以外にもいるかもしれないので、先ずは「デング」や「チクングニヤ」の由来について、サイト「横浜市感染症情報センター」から、

デング熱・デング出血熱について
http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/dengue1.html (リンクはココ

 デング熱は英語では単に"dengue(デング)"あるいは"dengue fever"ですが、この"dengue"はスワヒリ語(東アフリカで使われている言語。ケニア・タンザニア・ウガンダで公用語となっています)での呼称"kidingapopo"(dinga)に由来するようです。

チクングニヤ熱について
http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/chikunguniya1.html (リンクはココ

 チクングニヤ(chikunguniya : CHIK)というのは、モザンビークとタンザニアの国境付近のMakonde高原に住むMakonde族が話すMakonde語で、「曲がった」を意味します。強い関節痛により、患者が身体を丸めた状態を指します。


 両感染症の件数の推移については、デング熱に関しては国立感染症研究所のサイトから(感染症法に基づくデング熱患者届出数 http://www.nih.go.jp/niid/ja/dengue-report.html)、

図1 感染症法に基づくデング熱患者届出数 (1999-2012)


 なお、2012年は、最新のデータでは146件(38週、9/23まで。感染症発生動向調査週報 (IDWR) http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl.htmlから)。


 チクングニヤ熱に関しては冒頭2番目の「横浜市感染症情報センター」のリンクから、

 

図2 チクングニヤ熱患者年間発生数 (2006-2011。公的機関での把握分)

 なお、2012年のデータは、4件(38週、9/23まで。感染症発生動向調査週報 (IDWR) http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl.htmlから)。


 いずれの感染症も蚊が媒介するウイルスによる感染症であり、蚊の種類は両者で共通している(ネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカ)。

 詳しい解説については、デング熱に関し冒頭の「横浜市感染症情報センター」のリンクから興味ある点を適宜抜き出すと、

流行は?
 ・・・
 主な媒介蚊であるAedes aegypti (ネッタイシマカ)については、日本では、南西諸島で昔生息していましたが、現在は生息が確認されていません。なお、米国や日本でも生息しているAedes albopictus (ヒトスジシマカ)については、日本で患者が発生すれば媒介する可能性があると考えられています。1942-1945年に西日本でデング熱の流行がありましたが、このときはAedes albopictus (ヒトスジシマカ)が媒介したと考えられています。・・・

 媒介蚊となる可能性がある、日本でも生息しているAedes albopictus (ヒトスジシマカ)については、近年、アジアからアフリカ・アメリカ・ヨーロッパへと生息範囲が広がりました。日本などで中古タイヤの内側に卵が産みつけられていて、国際間で取引されて、海外で雨などで戸外に置かれた中古タイヤに水がたまって卵がかえることで、国際的に生息範囲が広がっていったと考えられています。卵は水がない状態でそのまま何か月も生き延びることができ、水につかる事で孵化(ふか)します。

どんな病気?
 デング熱について、人間が感染している蚊に刺されてから発病するまでの潜伏期は3-14日(平均的には4-7日)です。症状が見られない感染も多いと考えられています。

 デング熱はインフルエンザのような発熱を起こす感染症です。発熱は2-10日続きます。赤ちゃんや小さなこどもたちでは発疹も見られます。大きなこどもたちや大人たちでは、軽い発熱だけのこともありますが、高熱に頭痛、目の後ろの痛み、筋肉痛、関節痛、悪心・嘔吐、発疹などを伴うこともあります。発疹については熱が下がってから出現することが多いです。デング熱はデング出血熱と呼ばれる重症の状態にならない限り、死因となることはまれです。

 デング出血熱は、突然の発熱で始まり、発熱は2-7日続き、41度に達することがあります。点状出血(皮膚の溢血点など)や鼻粘膜・口腔粘膜(歯茎など)からの出血が見られることがあります。消化管出血や婦人の性器出血が見られることもあります。発熱がおさまって軽快する場合もありますが、発熱がおさまるとともに循環不全・ショックとなり12-24時間で死に至る場合もあります。血管内の血漿の漏出から胸水・腹水の貯留や循環血液量の減少が起こり、ショックに至る場合もあると考えられます。
 なお、デング出血熱では、出血傾向が認められますが、出血傾向に加えショック症状が認められるデング出血熱をデングショック症候群(dengue shock syndrome : DSS)と呼ぶことがあります。

 デング熱に対する特効薬はありません。しかし、重症のデング出血熱でも、適切な医療がなされれば、救命される場合が多いです。・・・

病原体は?
 デング熱・デング出血熱の病原体はフラビウイルス科フラビウイルス属に属するデングウイルス(dengue virus : DEN)です。他には、黄熱ウイルス(yellow fever virus: YFV)、ウエストナイルウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルスなどがフラビウイルス属に属します。デングウイルス(dengue virus : DEN)には4種類の血清型(1型[DEN-1]・2型[DEN-2]・3型[DEN-3]・4型[DEN-4])があります。

 初めてデング熱に感染すると、感染した血清型のデングウイルスに対する終生の免疫を獲得します。感染した血清型以外の血清型のデングウイルスの免疫も一過性に2-3か月程度の間獲得しますが長続きしませず、消失してしまいます。こうして、今度は、終生免疫を獲得した血清型以外の血清型のデングウイルスに感染すると、重症のデング出血熱となる確率が高くなるとされています。 ・・・

 
 ついでに、国立感染症研究所のサイトの解説のアドレスも貼っておくと、

デング熱とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ta/dengue/392-encyclopedia/238-dengue-info.html (リンクはココ

 更に興味があれば、上記リンク先の右端のリンク欄から次の記事でもどうぞ。

「デング熱」日本人の誤解を解くコーナー
http://www.nih.go.jp/niid/ja/dengue-mistake.html

病原微生物検出情報 (IASR) (No.376) Vol.32 No.6 June 2011 デング熱関連特集
http://www.nih.go.jp/niid/ja/dengue-m/dengue-iasrtpc/889-iasr-376.html (チクングニア熱に関する記事を一部含む)


 次に、チクングニア熱の解説に関し、冒頭2番目のリンクから興味ある点を適宜抜き出すと、

はじめに
 ・・・
 2007年6-9月には、イタリア北東部のEmilia-Romagna地区のRavenna県とForli-Cesena県とで小さな流行がありました。第一例の患者は、インドのKeralaのチクングニヤ熱流行地域から帰国した人でした。このイタリアでの小さな流行は、ヒトスジシマカが媒介したものでした。この流行は334人の疑い例のうち284人について確定のための検査が実施され、204人でチクングニアウイルスの感染が確認されました。死亡例が1人ありました。 ・・・

 フランスでは、南東部のヒトスジシマカが生息する地域で、2010年9月に、デング熱の国内感染例2人とチクングニヤ熱の国内感染例2人とが、認められました。チクングニヤ熱の国内感染例2人は、同じ中学に通う12歳の女子です。アジアから帰国した近所に住む国外感染例の7歳の女子患者由来のウイルスに感染したものと考えられました。 ・・・

 日本におけるチクングニヤ熱の患者発生は、下のグラフのように、2011年では年間10人程度です。いずれも海外で感染しています。海外の渡航国としては、インド、スリランカ、ミャンマー、マレーシア、タイ、インドネシアです。媒介する蚊については、ネッタイシマカは日本には生息しませんが、ヒトスジシマカは沖縄地方から東北地方まで生息が確認されており、その北限は青森県にまでおよんでいます。今後、海外で感染した患者が日本でヒトスジシマカに吸血されることで、イタリアやフランスのように国内感染例が発生しないか心配されます。・・・

 チクングニヤ熱は、主としてAedes属(ヤブカ属)の蚊によって媒介されます。Aedes属(ヤブカ属)の蚊は、デング熱も媒介します。卵をつくるためにメスのみが吸血するので、メスの蚊のみが媒介します。アフリカでは、人間の存在がなくても、脊椎動物(猿など)とAedes furcifer 、Aedes vittatus 等の蚊との間で森林型(ジャングル型)感染サイクル(sylvatic cycle)が成立しています。アジア・アフリカでの人間での流行時には、人間とネッタイシマカ(Aedes aegypti )・ヒトスジシマカ(Aedes albopictus )との間で都会型感染サイクル(urban cycle)が成立するものと考えられます。アジア・アフリカでは、モンスーン後の蚊の多い時期に大きな流行が見られます。Aedes属(ヤブカ属)の蚊は、水溜りで殖えます。捨てられた空き缶・放置された古タイヤなども、水が溜まれば殖える可能性があります。蚊は日陰の涼しい所に潜んでいて、夜明けから夕暮れまでの日中に人間から吸血します。特に早朝と夕方に吸血活動が盛んです。しかし、夜間でも潜伏している場所の近くに人間が近づけば吸血する可能性があります。・・・

どんな病気
 チクングニヤ熱(chikungunya fever : CF)は、すべての年齢層の男女で見られます。潜伏期は3-7日(1-12日の範囲)です。突然の摂氏39度以上の発熱、一つ以上の強い関節痛で発症します。2006年1-9月に南インドのある病院に入院したチクングニヤ熱患者876人の症状の分析では、突然の短期間の発熱(100%)、膝、足首、手首、手や足の関節痛(98%)、出血(3%)、劇症肝炎(2%)、髄膜脳炎(1%)です。一方で、無症状の不顕性感染もあり、全感染の3-28%程度とされます。 ・・・

病原体は
 原因ウイルスはトガウイルス科アルファウイルス属のチクングニヤウイルス(chikunguniya virus : CHIKV)です。・・・エンベロープを有するため有機溶媒や界面活性剤により不活化されます。アルコール消毒が有効です。58℃以上の高温や乾燥にも弱いです。もともとはアフリカの風土病だったものが、世界各地に広がり始めたのではと思われます。アジア・アフリカの熱帯・亜熱帯を中心に存在するものの、アメリカ大陸には存在しません。しかしながら、媒介する蚊はアメリカ大陸にも存在するので、今後アメリカ大陸にも侵入するのではと心配されています。

 チクングニヤ熱(chikungunya fever : CF)は、一度罹って治ると長期に亘る免疫が成立し、再感染を防ぐと考えられています。 ・・・

予防のためには
 ・・・
 チクングニヤ熱の場合、蚊が吸血をしてから2日目から蚊は感染力を持つようになります。そこで、患者の発生が確認された場合、患者宅周辺に潜伏している感染蚊をできるだけ速やかに防除することが必要です。日本で主要な媒介蚊と成りえるヒトスジシマカの飛翔範囲は約100~200m と考えられていますが、住宅の密集度などを考慮して、周囲300m を防除対象地域として選定します(参考文献4)。

 ウイルス血症は、発病から4-7日以内までとされます。発病から7日までは、患者は蚊帳(bednets)の中で過ごすなどして蚊に刺されないよう注意が必要です。 ・・・


 ついでに、国立感染症研究所のサイトの解説のアドレスも貼っておくと、

チクングニア熱とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ta/chikungunya/392-encyclopedia/437-chikungunya-intro.html (リンクはココ

 更に興味があれば、上記リンク先の右端のリンク欄から、次の記事をどうぞ。

チクングニア熱のカンボジアからの輸入例―福岡市 2012年09月20日
http://www.nih.go.jp/niid/ja/chikungunya-m/chikungunya-iasrd/2603-pr3914.html
チクングニア熱の輸入症例―千葉市 2012年09月20日
http://www.nih.go.jp/niid/ja/chikungunya-m/chikungunya-iasrd/2597-pr3912.html
フィリピンから帰国後に発症し確認されたチクングニア熱輸入症例―千葉県 2012年09月20日
http://www.nih.go.jp/niid/ja/chikungunya-m/chikungunya-iasrd/2607-pr3917.html


 最後に、件数の増加がそれほど顕著ではない時点で今回の報道がでてきた背景の一つは、当局が両感染症の国内での感染の流行をかなり警戒しているためではないだろうか。デング熱は過去に国内で流行したことがあるようだ(当時は戦時中で、南方との往来も活発な中で、栄養不足による影響(免疫力の低下?)もあったのかもしれない)。

 ●の影響による易感染性は今後長期にわたり続くものである点を考えると、今年は蚊の季節もほぼ終わり大丈夫だったと思われるが、来年はどうなるのだろうか。

 他方、汚染地であれば、蚊の増殖場所である水溜りにも●の影響があるだろう。噂話だと、最近蚊が少なくなった、蚊がのろのろと飛んでいた、などの指摘も耳にした。媒介動物(ヤブカ)の方も影響を受けていて、前回戦時中の時と比べると、話はそれほど単純でないのかもしれない。


「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (7-7)

2012年09月17日 |  症例(その他)

(7) 易感染性 (つづき)

 定量把握が可能な感染症で、昨年増加したとみられるものについての続き。定点把握対象となっているものから3つみておこう。前回同様、記録を整理してまとめておこうという趣旨なので、少々退屈かもしれない。

(K) 手足口病

 先ずは関連の報道を振り返っておこう。薬事日報から、

【手足口病】流行の兆し‐西日本を中心に広がり
2011年7月7日 (木)
http://www.yakuji.co.jp/entry23602.html (リンクはココ

 手足口病が、過去10年間で最も流行の兆しを見せている。流行は西日本地域が中心。夏場に流行のピークを迎えることから、国立感染症研究所は「感染症週報」で注意喚起している。

 手足口病の週間報告件数の推移については、国立感染症研究所のサイト「感染症発生動向調査週報(IDWR)」(2011年51週・52週。旧サイトの方 http://idsc.nih.go.jp/idwr/pdf-back26.html)から、


           図1 手足口病の定点当たり報告数の推移 (2001~2011年)

 2012年を含む最新のグラフは、

手足口病
http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1649-06hfmd.html (リンクはココ


 手足口病の解説については、同研究所のサイトから、

手足口病とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ta/hfmd/392-encyclopedia/441-hfmd.html (リンクはココ

 手足口病(hand, foot and mouth disease:HFMD)は、その名が示すとおり、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス感染症で、幼児を中心に夏季に流行が見られる。1950年代後半に認識された比較的歴史の新しいウイルス性発疹症であり、我が国では1967年頃からその存在が明らかになった。本疾患はコクサッキーA16(CA16)、CA10、エンテロウイルス71(EV71)などのエンテロウイルスによりおこり、基本的に予後は良好な疾患である。
 しかし、急性髄膜炎の合併が時に見られ、稀であるが急性脳炎を生ずることもあり、なかでもEV71は中枢神経系合併症の発生率が他のウイルスより高いことが知られている。

疫 学
 本症は4歳位までの幼児を中心とした疾患であり、2歳以下が半数を占めるが、学童でも流行的発生がみられることがある。また、学童以上の年齢層の大半は 既にこれらのウイルスの感染(不顕性感染も含む)を受けている場合が多いので、成人での発症はあまり多くない。・・・

 最近の動向については、同研究所の感染症発生動向調査週報(IDWR)から、

IDWR 2012年第26号<注目すべき感染症> 手足口病
2012年7月1日
http://www.nih.go.jp/niid/ja/hfmd-m/hfmd-idwrc.html (リンクはココ

・・・例年4月頃から患者数が増加し始め、流行のピークは7月の中旬か下旬となり、8月に入ると減少していく、という経過を辿る。


 ついでに、同研究所の病原微生物検出情報(IASR)から、

The Topic of This Month - 手足口病 2002 ~2011年
(IASR Vol. 33 p. 55-56: 2012年3月号)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/hfmd-m/hfmd-iasrtpc/1765-tpc385.html (リンクはココ

・・・2011年には、感染症発生動向調査開始(1981年7月)以来最大の手足口病流行が起こり、今までヘルパンギーナの主要な原因ウイルスのひとつであったコクサッキーウイルスA6型(CVA6)が最も多く検出された。・・・

 手足口病の合併症:1990年代後半以降、東アジア地域を中心として、多数の死亡例を伴う大規模な手足口病流行が断続的に発生している。最近では中国(2008~2010年、2010年は死亡例905例)やベトナム(2011年)で死亡例が報告されている(http://www.wpro.who.int/topics/hand_foot_mouth/en/")。重症例の多くは、EV71急性脳炎に伴う中枢神経合併症によるものと考えられている(IASR 30: 9-10, 2009)。・・・

・・・CVA6による手足口病の症状は、従来の手足口病より水疱が大きく大腿部や臀部にも出現すると報告されている(IASR 32: 230-231, 2011)。また、手足口病回復後の爪甲脱落症が報告されており(本号5ページ&8ページ、Emerg Infect Dis 18: 337-339, 2012)、脱落した爪からもCVA6が検出された(IASR 32: 339-340, 2011)。


 以上でおしまいにしようかとも感じるけど、気になる話なので、とりあえずメモしておこう。今年の4~7月頃に発生したカンボジアでの疾患については、当初(7月初め)原因不明との報道であったが、カンボジア政府は、手足口病の重症例と判断した模様である。CNNとAFPの記事から、

原因不明の病気で子どもが相次ぎ死亡、WHOが調査 カンボジア
2012/7/5
http://www.cnn.co.jp/world/30007248.html (リンクはココ

カンボジアの子供を襲う謎の病気、「手足口病」の可能性 WHO
2012/7/9
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2888735/9229588 (リンクはココ


 これだけなら、東南アジアでみられる死亡例を伴う大流行の一つであろうから、特に何も言うことはないようにも思える。

 ただ、この感染症の発生とカンボジアへのODA食料援助(原発被災関連の魚缶詰)のタイミングとが妙に一致していて、不思議なのである。「脱原発の日のブログ」の次の記事で引用された現地英字紙(プノンペン・ポスト紙)によると、過去10年間行われている貧困地域の学校での朝食支給プログラムの食材として件の魚缶詰が使われたらしいのである。

被災地域からの魚をカンボジアの学校児童に:プノンペ・ンポスト紙
2012-07-13 18:54:02
http://ameblo.jp/datsugenpatsu1208/entry-11301602124.html (リンクはココ


WFP to feed schoolchildren Fukushima fish
The Phnom Penh Post [2012.7.4]

訳文:世界食料計画(WFP)、福島の魚を子どもたちの給食に

 日本政府と国連世界食料計画(WFP)は、昨年発生した東日本大震災と福島第一原発事故の影響を受けた地域の魚(缶詰)を、カンボジアの学校給食として配布する計画をしている。
 この計画は、日本の反原発グループが抗議をしている。しかし、WFPは、福島第一原発事故による放射能汚染の可能性はなく、厳しい検査をしており、放射性物質はないというのがWFPの見解である。
 この食料援助は、日本の政府開発援助案件として、被災地の魚をカンボジア、ガーナ、コンゴ共和国、セネガル、スリランカに提供される。
 今年の3月に124トンの魚(缶詰)がカンボジアに到着し、放射能汚染がされていないことを承認する前には、日本政府と日本政府ではない別の二人の検査官により検査が行われたと、WFPカンボジア代表のJean-Pierre de Margerie氏は答えた。・・・

 Jean-Pierre de Margerie氏によると、カンボジアの貧困地域では、親たちが子どもたちを学校に通わせるように、朝食を学校で支給しており、このプログラムは過去 10年間行われている。日本政府が支給した魚(缶詰)は、今年3月にカンボジアに到着し、このプログラムを通し10月まで支給される。・・・

 WFPは内部規則により、この魚(缶詰)の放射線量の検査結果は公表していない。

 ちなみに、このカンボジアなどへのODA食料援助の実施については、その大枠が外務省のサイトでも公表されている。

国連世界食糧計画(WFP)を通じたガーナ等5か国に対する無償資金協力(食糧援助)に関する書簡の交換
2012/3/16
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/24/3/0316_09.html (リンクはココ


(L) 伝染性紅班

 伝染性紅班(いわゆる「リンゴ病」・「リンゴほっぺ病」)については、3.11前から流行の兆しがあった感染症とみられる。例えば、ブログ「産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ」の3.11前に掲載されたとみられる記事から、

リンゴ病が妊娠におよぼす影響 ~前編~
2011-03-06 09:58:51
http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10821259650.html (リンクはココ

 先頃、国立感染症研究所よりリンゴ病が流行しつつあることが発表されました。患者数が最も多くなる夏に向けて、今後も流行が続く見通しとのことです。2002年・2007年に次ぐ大流行になりそうだということです。

 伝染性紅班の週間報告件数の推移については、国立感染症研究所のサイト「感染症発生動向調査週報(IDWR)」(2011年51週・52週。旧サイトの方 http://idsc.nih.go.jp/idwr/pdf-back26.html)から、


           図2 伝染性紅班の定点当たり報告数の推移 (2001~2011年)

 2012年を含む最新のグラフは、

伝染性紅斑
http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1650-07parvo.html (リンクはココ


 伝染性紅斑の解説については、同研究所のサイトから、

伝染性紅斑とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ta/5th-disease/392-encyclopedia/443-5th-disease.html (リンクはココ

 伝染性紅斑(Erythema infectiosum)は第5病(Fifth disease)とも呼ばれ、頬に出現する蝶翼状 の紅斑を特徴とし、小児を中心にしてみられる流行性発疹性疾患である。両頬がリンゴのよう に赤くなることから、「リンゴ(ほっぺ)病」と呼ばれることもある。本症の病因は長く不明であっ たが、1983年にヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:以下B19)であることが提唱され、その後の研究によって確実なものとなった。病因が明らかになったことに伴って、本症の周辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、多彩な臨床像があることなども明らかになった。

疫 学
 感染症発生動向調査(1981年7月から)によると、1987年、1992年、1997年、2001年とほぼ5年ごとの流行周期で発生数の増加がみられている。年によって若干のパターンの違いはあるものの、年始から7月上旬頃にかけて症例数が増加し、9月頃症例が最も少なくなる季節性を示すが、流行が小さい年には、はっきりした季節性がみられないこともある。・・・

臨床症状
 10~20日の潜伏期間の後、頬に境界鮮明な紅い発疹(蝶翼状−リンゴの頬)が現れ(写真1)、 続いて手・足に網目状・レ−ス状・環状などと表現される発疹がみられる(写真2)。胸腹背部にもこの発疹が出現することがある。これらの発疹は1 週間前後で消失するが、なかには長引いたり、一度消えた発疹が短期間のうちに再び出現することがある。成人では関節痛・頭痛などを訴え、関節炎症状により1~2日歩行困難になることがあるが、ほとんどは合併症をおこすことなく自然に回復する。なお、頬に発疹が出現す る7~10日くらい前に、微熱や感冒様症状などの前駆症 状が見られることが多いが、この時期にウイルス血症をおこしており、ウイルスの排泄量ももっとも多くなる。発疹 が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルスの排泄はほとんどなく、感染力はほぼ消失している。通常は飛沫または接触感染であるが、ウイルス血症の時期に採取された輸血用血液による感染もある。

 伝染性紅斑は当初異型の風疹として発表され、その後独立疾患であることが確立された。これまでも、伝染性紅斑は風疹の流行時期と重なることが少なくなく、典型的な伝染性紅斑では臨床診断を誤ることはないが、非典型例では風疹との鑑別が困難である。英国において行われた血清調査では、風疹と診断された患者の半数がB19感染であったことが述べられている。また不顕性感染があり、特に成人に多い。さらに、成人では発症しても典型的な発疹を伴う頻度が低く、風疹と診断されている例は小児より多いと推察される

B19感染像の拡がり−伝染性紅斑のみではないB19感染症
 伝染性紅斑は典型的なB19感染症の臨床像であるが、B19感染症の臨床像は単に伝染性紅斑にとどまらない。溶血性貧血患者がB19感染を受けると重症の貧血発作(aplastic crisis)を生ずることがある他、関節炎・関節リウマチ、血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群 (VAHS/HPS)や、免疫異常者における持続感染なども伝染性紅斑に合併、あるいは独立してみられる。 (強調は引用者)


 上記解説のなかでは、現状我が国では風疹が流行しているとされているので、「英国において行われた血清調査では、風疹と診断された患者の半数がB19感染であったことが述べられている」との指摘は、特に興味深いと思われる。

 また、ヒトパルボウイルスB19感染症の臨床像はかなり多彩とされているようである。サイト「みんなのカルテ保管庫」でも、成人の非典型感染の例が報告されていたので、リンクを置いておこう。

484 咳・喉・声枯れと体調変化
http://sos311karte.blogspot.jp/2012/05/484.html (リンクはココ。「追記 2012-08-06 (Mon)」以降あたり)


(M) 急性出血性結膜炎

 急性出血性結膜炎の週間報告件数の推移については、国立感染症研究所のサイト「感染症発生動向調査週報(IDWR)」(2011年51週・52週。旧サイトの方 http://idsc.nih.go.jp/idwr/pdf-back26.html)から、


           図3 急性出血性結膜炎の定点当たり報告数の推移 (2001~2011年)

 2012年を含む最新のグラフは、

急性出血性結膜炎
http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1655-14ahc.html (リンクはココ


 急性出血性結膜炎の解説については、同研究所のサイトから、

急性出血性結膜炎とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ka/ahc/392-encyclopedia/388-ahc-intro.html (リンクはココ

 急性出血性結膜炎(AHC [acute hemorrhagic conjunctivitis])は、主としてエンテロウイルス70 (EV70)とコクサッキーウイルスA24変異株(CA24v)の二つのエンテロウイルスによってひきおこされる、激しい出血症状を伴う結膜炎である。両ウイルスともヒトからヒトへ直接接触伝播する。・・・

疫 学
・・・わが国においては、1990年の宮崎県、1994 年の熊本県の流行からのウイルス分離は成功していないものの、EV70の遺伝子が検出されている。一方、CA24vは1985年の沖縄県、1993年の宮崎県および鹿児島県、1994年の東京都、1997年の岡山県および熊本県などで流行がみられ、ウイルスも分離されている。・・・

  [中略]

臨床症状
 EV70とCA24vによる結膜炎は臨床的に酷似するので、臨床症状による病原ウイルスの鑑別は難しい。突然の強い目の痛み、異物感、羞明などで始まり、結膜の充血、特に結膜下出血を伴うことが多い。眼瞼浮腫、眼脂、結膜濾胞、角膜表層のび慢性混濁が高頻度にみられる(図2)。
 全身症状としては頭痛、発熱、呼吸器症状などがみられる。潜伏期はEV70が平均24時間であるのに対し、CA24vでは2~3日とやや長い傾向にある。通常、約1週間で治癒するが、EV70では 罹患後6~12カ月に四肢に運動麻痺を来すことがあるので、経過観察をする上で注意が必要である。


 沖縄県では、前年の流行の影響が大きいとも思われるが、1986年(チェルノブイリ事故の年)にも流行していたらしい。同研究所の病原微生物検出情報 (IASR)から、

2011年に沖縄県で発生した急性出血性結膜炎の流行およびコクサッキーウイルスA24変異型の分離
(IASR Vol. 33 p. 168-170: 2012年6月号)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/ahc-m/ahc-iasrd/2273-kj3887.html (リンクはココ

まとめ
 [沖縄]県では1985~1986年以来、約25年ぶりにCA24vによるAHCの大流行が発生した。当時の流行と比較すると、1985年と1986年の流行のピークはそれぞれ9月と10月に認められたのに対し3) 、2011年のピークは7月であった。・・・

 急性出血性結膜炎の2011年の流行の原因については、易感染性の問題というより、放射性降下物の混入による結膜炎様症状が「急性出血性結膜炎」として報告されたためではないかとの説(誤認報告説)がある。ブログ「院長の独り言」の記事から

急性出血性結膜炎の爆発的な流行と原発災害との関連
2011年12月31日
http://onodekita.sblo.jp/article/52662085.html (結膜下出血の拡大写真に注意! リンクはココ

 おわかりでしょうか。症状さえ揃えば、この病名がつくのです。ウイルス性の疾患のほとんどは、このような診断基準と言って良いでしょう(もちろん、いくつかの病気は簡易迅速判断キットで確定することもあります。例えば、インフルエンザなど)・・・

 例年にない増加を見せたのは、
22週くらい・・5/30 - 6/5
43週くらい・・10/24-10/30

およそ,2ヶ月程度遅れて、症状が出てきている印象です。3月は、言わずもがなですが、8月の下旬には、広範囲でヨウ素が検出されています。できすぎなくくらい、話しが合います。人間の身体の中で、ほぼ無防備といってよい状態で粘膜が露出しているのは目くらいですから、このような症状が出てくるのは全くおかしくありません。

 この指摘は、正しいかもしれないとの印象を受ける。ただ、易感染性の影響が全くない訳ではなく、易感染性による急性出血性結膜炎の増加と放射性降下物の混入による結膜炎様症状の発生(純増)とが混在していた(混在割合は不明)というのが真実に近いのかもしれない。

(つづく)


「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (7-5)

2012年09月07日 |  症例(その他)

(更新履歴: 9/8追記2ヶ所。9/22追記)

 今回も以前の記事からの続き。

(7) 易感染性 (つづき)

 全数把握対象の感染症で一つ忘れていたので、追加しておこう。
   
(H) 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(劇症型溶連菌感染症)

 溶血性レンサ球菌(あるいは溶血性連鎖球菌)は細菌の一種で、「溶連菌」と略されることが多い。定義は、例えば、サイト「コトバンク」から、

溶血性連鎖球菌
http://kotobank.jp/word/%E6%BA%B6%E8%A1%80%E6%80%A7%E9%80%A3%E9%8E%96%E7%90%83%E8%8F%8C (リンクはココ

 溶連菌と略称。連鎖球菌の一種。ストレプトリジンO・Sという菌体外毒素(溶血毒)を産生し,血液寒天培地上に溶血環を形成する。・・・


 劇症型溶連菌感染症にはなじみがないと思うけど、「人食いバクテリア」による感染症の一種として知られている。最近だと国外の事例が報道されていた。東京スポーツの記事から、

米国で猛威!人食いバクテリア
2012年07月10日 18時00分
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/22017/ (リンクはココ

 「人食いバクテリア」が米国を震撼させている――。感染すると手足の皮膚が食い荒らされて壊死し、高い割合で多臓器不全に陥り死亡するという恐怖のバクテリアだ。


 「人食いバクテリア」の定義ははっきりしないけど、推測するところ、その感染による典型的な症状として上記記事のような症状が出るものを指しているようで、とりあえず次の3種類が知られているらしい。薬局「漢方のマルミ屋」のサイト「ナオルコム」から、

人喰いバクテリア
http://www.naoru.com/hitokui.htm (リンクはココ

人喰いバクテリアの種類
(1) 劇症溶連菌感染症
(2) ビブリオ・バルニフィカス感染症
(3) アエロモナス菌(アエロモナス・ハイドロフィラ)

 東スポの記事では、ジョージア州、アラスカ州、サウスカロライナ州の3つの事例に言及しているけど、原因菌がわかっているのはジョージア州の例のみのようだ(3番目の菌)。

 国内でも1番目の菌による感染症が増加しているみたいなのだが、報道をみかけた記憶がない。海外の例を報道しているところをみると、「また、パニックにならないようにとか、訳のわからない配慮でも働いているのであろうか」と心配になってしまう。

 さて、劇症型溶連菌感染症の解説については、国立感染症研究所のサイトから(同研究所は「溶血性レンサ球菌」の表記がお気に入りのようだ)、

劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ka/tsls/392-encyclopedia/341-stss.html (リンクはココ

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は突発的に発症し、急速に多臓器不全に進行するA群溶血性レンサ球菌による敗血症性ショック病態である。メデイアなどで「人食いバクテリア」といった病名で、センセーショナルな取り上げ方をされることがある。

   [中略]

臨床症状
 劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症(severe invasive streptococcal infection 、または streptococcal toxic shock‐like syndrome ;TSLS)の患者は、免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず、突然発病する例が多い。初期症状としては四肢の疼痛、腫脹、 発熱、血圧低下などで、発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群 (ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショック状態から死に至ることも多い。近年、妊産婦の症例も報告さ れている。・・・


 この解説はいろいろ分かってそうな雰囲気で書いてあるけど、肝心な点には言及していないようだ。肝心な点というのは、何故劇症型になるのかメカニズムはよく分かっていない、とされている点である。つまり、溶連菌自体はごくありふれた常在菌の一種なので、発症メカニズムが分かっていないということは、誰でも感染し得る可能性が否定できないということであり、免疫力が低下するならば、残念ながらより一層その可能性が高まるわけである。


・9/8追記
 劇症型溶連菌感染症の発症メカニズムについて解説した記事をみつけたので紹介しておこう。大阪大学歯学大学院のサイトの記事から、

A群レンサ球菌感染症の重症化メカニズムの解析
http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~mcrbio/kenkyuuterao1.html (リンクはココ



 上記の引用でいう「軟部組織壊死」については、「人食いバクテリア」との俗称の元となっている症状のようだが、その典型的な例には壊死性筋膜炎との病名が付いている。壊死性筋膜炎については、Yahoo!ヘルスケアから、

丹毒・蜂巣炎・壊死性筋膜炎
http://health.yahoo.co.jp/katei/detail/ST121020/2/ (リンクはココ

概説
・・・表皮の下には真皮、さらにその下には皮下脂肪織、その下には筋膜が存在しますが、表皮の下の皮膚感染症は、・・・丹毒、・・・蜂巣炎(蜂窩織炎〈ほうかしきえん〉)、A群溶連菌や混合感染による真皮から皮下脂肪織にかけての感染症で、浅層筋膜を中心として急速に周辺に拡大する壊死(えし)性筋膜炎に分類されています。

 
 劇症型溶連菌感染症の最近の動向については、国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)から、

溶血性レンサ球菌感染症 2006年4月~2011年
(IASR Vol. 33 p. 209-210: 2012年8月号)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrtpc/2485-tpc390j.html (リンクはココ

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症[(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)]:・・・2006年4月~2011年末までに報告されたSTSS患者は698例で、2011年に急増した(表1)。死亡例は248例であり、そのうち半数以上が発病から3日以内に死亡していた。

   [中略]

速報:2012年第28週現在、STSS患者報告数は146例であり、2011年第28週時点での127例を上回っている(図1)。このペースでいくと、2012年は200例を超える可能性がある。 (強調は引用者)


 上記引用で言及された「表1」についてはリンク先を参照してほしいが、「図1」については、以下のとおり。なお、2012年の最新のデータでは、第34週現在で169例となっている(8/26までの報告分)。
 

         図1 劇症型溶連菌感染症の患者月別報告数 (2006.4月~2012.6月)


 ついでに、溶連菌感染症一般について触れておこう。解説は、wikiから、

溶連菌感染症
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%B6%E9%80%A3%E8%8F%8C%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87 (リンクはココ

 最も一般的なのは「急性咽頭炎・急性扁桃炎」であろう。このうちA群溶連菌咽頭炎というのが感染症法上の定点把握対象の感染症に指定されている。その解説については、国立感染症研究所のサイトから、

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/alphabet/group-a-streptococcus/392-encyclopedia/340-group-a-streptococcus-intro.html (リンクはココ

 A群溶連菌咽頭炎の定点当たり報告数、最近の動向のまとめ(少し古いけど)については、同研究所のサイトから、

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 [定点当たりの週間報告数のグラフ、2002~2012年]
http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1646-03strepta.html (リンクはココ

IDWR [感染症発生動向調査週報] 2012年第20号<注目すべき感染症> A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
2012年5月20日
http://www.nih.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-idwrc/2252-idwrc-1220.html (リンクはココ

 定点当たりの報告数は全国ベースでみると過去10年に比して増加しているとはいえないものの、最新の感染症発生動向調査週報 (IDWR)では「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去発生動向総覧5年間の同時期と比較してやや多い」とされており(2012年第34週号の表紙。http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl.html。リンクはココ)、増加の兆しが観察されているのかもしれない。


・9/8追記
 重症型の溶連菌感染症に関し、平成22年(2010年)度予算において厚労省の研究班で関連の研究が行われていたようだ(「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析,その診断・治療に関する研究」)。その成果物がサイトで公開されているので紹介しておこう。

β溶血性レンサ球菌 2011年度版
http://strep.umin.jp/beta_hemolytic_streptococcus/index.html
(計9頁の構成で左欄の目次をクリックして閲覧可能)

 興味のある方は各自でリンク先をみてほしいが、一つだけ指摘しておこう。「2. 感染症例の疫学」の頁の上から5番目のQ&Aに重症型の溶連菌感染症(侵襲性感染症例)の疾患別の内訳に関する次のデータが掲載されているようだ。



        図2 重症型の溶連菌感染症の疾患の内訳(菌種別、成人例のみ)
        注)「GAS」はA群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)を、
      「SDSE」C群・G群溶血性レンサ球菌(Streptococcus dysgalactiae subsp.equisimilis)を、
      「GBS」はB群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)を示す。
    

 図2において「STSS」と表示された領域が劇症型溶連菌感染症にあたる部分である。免疫力の低下によって劇症型が増加しているということならば、敗血症・菌血症などの劇症型以外の重症型の溶連菌感染症も同様に増加傾向にあるのかもしれない。

 

・9/22追記

 ようやく報道で注意喚起がなされたようだ。読売新聞の記事から、

「人食いバクテリア」感染急増、昨年1・6倍に
2012年9月20日14時51分
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120920-OYT1T00675.htm (リンクはココ

 筋肉を覆う「筋膜」が手足で壊死(えし)したりする「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の患者数が昨年、前年の1・6倍に増えたことが、国立感染症研究所のまとめで分かった。・・・

・・・今年は9月上旬までに176人に達し、昨年の同時期より23人多い。60歳以上の男女と30歳代の女性の発症が多いが、増加の原因は分かっていない。


(つづく)


「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (7-4)

2012年09月02日 |  症例(その他)

〔更新履歴:9/23追記〕

 今回も前回記事(ココ)の続き。

(7) 易感染性 (つづき)

(F) マイコプラズマ肺炎

 噂話のベースだと、個人的な体感に基づいて呼吸器系の感染症全体の増加を訴えるものが多いように感じられる。例えば、少し信ぴょう性のありそうなものだと、ツイッターから、

@kimuratomo
昨夏からの、マイコプラズマ肺炎を始めとした呼吸器感染症の増加、多くの臨床医が実感してることと思うが、まだその勢いが止まらない。平均100人/日の診療所で、週2~3人ペースで「ご新規」肺炎患者さん。これは尋常でない。被ばく問題に全く興味を示さなかった同僚も、さすがに首を捻り始めた。
10:32 AM - 24 Aug 12

 従って、易感染性(すなわち免疫力の低下)を背景として、呼吸器系の感染症の全般的な増加という状況が先ずあって、その一部として既に述べた結核、風疹、インフルエンザなどの増加や、今回記事で扱う肺炎、特にマイコプラズマ肺炎の増加があるととらえることができるだろう。

 とりあえず、肺炎についての一般的な解説については、gooヘルスケアから、

肺炎 http://health.goo.ne.jp/medical/search/10P30500.html (リンクはココ

 マイコプラズマ肺炎については、一般的な解説だと、厚労省のサイトから、

マイコプラズマ肺炎に関するQ&A 平成23年12月
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou30/index.html (リンクはココ

 少しマニアックな内容にになると、国立感染症研究所のサイトから引用すると、

マイコプラズマ肺炎とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ma/mycoplasma-pneumonia/392-encyclopedia/503-mycoplasma-pneumoniae.html (リンクはココ

疫 学
・・・本疾患は通常通年性にみられ、普遍的な疾患であると考えられている。欧米において行われた罹患率調査のデータからは、報告によって差はあるものの、一般に年間で感受性人口の5~10%が罹患すると報告されている。本邦での感染症発生動向調査からは、晩秋から早春にかけて報告数が多くなり、罹患年齢は幼児期、学童期、青年期が中心である。病原体分離例でみると7~8歳にピークがある。・・・

病原体
 病原体は肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae )であるが、これは自己増殖可能な最小の微生物で、生物学的には細菌に分類される。他の細菌と異なり細胞壁を持たないので、多形態性を示し、ペニシリン、セフェムなどの細胞壁合成阻害の抗菌薬には感受性がない。・・・
 感染様式は感染患者からの飛沫感染と接触感染によるが、濃厚接触が必要と考えられており、地域での感染拡大の速度は遅い。感染の拡大は通常閉鎖集団などではみられるが、学校などでの短時間での暴露による感染拡大の可能性は高くなく、友人間での濃厚接触によるものが重要とされている。病原体は侵入後、粘膜表面の細胞外で増殖を開始し、上気道、あるいは気管、気管支、細気管支、肺胞などの下気道の粘膜上皮を破壊する。特に気管支、細気管支の繊毛上皮の破壊が顕著で、粘膜の剥離、潰瘍を形成する。気道粘液への病原体の排出は初発症状発現前2~8日でみられるとされ、臨床症状発現時にピークとなり、高いレベルが約 1 週間続いたあと、4~6週間以上排出が続く。

臨床症状
 潜伏期は通常2~3週間で、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などである。咳は初発症状出現後3~5日から始まることが多く、当初は乾性の咳であるが、経過に従い咳は徐々に強くなり、解熱後も長く続く(3~4週間)。特に年長児や青年では、後期には湿性の咳となることが多い。鼻炎症状は本疾患では典型的ではないが、幼児ではより頻繁に見られる。嗄声、耳痛、咽頭痛、消化器症状、そして胸痛は約25%で見られ、また、皮疹は報告により差があるが6~17%である。喘息様気管支炎を呈することは比較的多く、急性期には40%で喘鳴が認められ・・・


 肺炎マイコプラズマは自己増殖可能な最小の微生物とされており、大きさで言えば、ヘルぺスウイルス(ウイルスなので自己増殖には宿主が必要)と同じ位である(前者は0.2×0.15μm程度、後者で0.1~0.2μm程度。ちなみに肺炎球菌の大きさは0.5~1.0μm)。肺炎マイコプラズマは顆粒球で処理するには大きさが小さすぎるので、リンパ球で対処していると思われるが、コルチゾールの過剰環境などのようにリンパ球の機能低下が起きると問題となる面が出てくるだろうと推測される。

 ちなみに、マイコプラズマ肺炎は、米国では「歩く肺炎(walking pneumonia)」と呼ばれているらしい。横浜市のサイト「横浜市感染症情報センター」の記事から、

マイコプラズマ肺炎について
http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/mycoplasma.html (リンクはココ)

 アメリカ合衆国では、マイコプラズマ肺炎のことを「歩く肺炎(walking pneumonia)」と呼ぶことがあります。それは、肺炎の中では症状が軽く、入院を必要としない場合が多いからです。歩いて通院治療を受ける患者が多いのです。しかしながら、重症の肺炎となることもあります。


 さて、マイコプラズマ肺炎の週間報告件数の推移については、国立感染症研究所のサイト「感染症発生動向調査週報(IDWR)」(2012年33週、8/19の報告まで。http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl.html。リンクはココ)から、


        図1 マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数の推移(2002~2012年)


 図1をみれば昨年・今年における増加は明確であり、最新のIDWR第33週号の表紙には「マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い」とも記載されている。なお、最近の動向のまとめについては、少し古いけど、同研究所のサイトから

IDWR 2012年第21号<注目すべき感染症> マイコプラズマ肺炎
2012年5月27日
http://www.nih.go.jp/niid/ja/mycoplasma-pneumonia-m/mycoplasma-pneumonia-idwrc/2263-idwrc-1221.html (リンクはココ

 マイコプラズマ肺炎の増加は、昨年9月頃から予想されていたと記憶している。例えば、某掲示板の緊急自然災害板から、

935 : 地震雷火事名無し(関東・甲信越) : 2011/09/09(金) 01:14:50.81 ID:U+A9OvsrO [1/1回発言]
  もう3週間咳が治まらない
  最新は風邪だったんだけど…
  さすがに続き過ぎて病院に行くのがコワイ

990 : 地震雷火事名無し(四国) : 2011/09/09(金) 12:55:14.95 ID:hyeY6BiJO [1/1回発言]
  >>935
  それマイコプラズマでは?

994 : 地震雷火事名無し(東京都) : 2011/09/09(金) 13:02:42.65 ID:aHOApjmw0 [3/4回発言]
  >>990
  マイコプラズマ ttp://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/18myco.html
  今年は多い。宮城・岩手は、津波ヘドロの影響もありそうだけど、多分増えそう。

  インフルエンザ ttp://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html
  さて、どういう風に動くでしょうか。
   [以下略]

 東京在住の子供と高齢者の代表ともいえる方々も、一時期マイコプラズマ肺炎を患っていたらしい。これらの事例からは、仮に医療的に恵まれていても、気をつけるべきポイントを外してしまうと意味がない、という教訓が得られるのではなかろうか。

愛子さま、マイコプラズマ肺炎の可能性
2011年11月4日
http://www.asahi.com/national/update/1104/TKY201111040341.html (リンクはココ

天皇陛下、マイコプラズマ感染か 軽度の気管支肺炎
2011年11月18日
http://www.asahi.com/national/update/1118/TKY201111180188.html (リンクはココ


 マイコプラズマ肺炎に関する第一の疑問は、今回の流行の原因は何か、ということであろう。上述の厚労省のQ&Aによると、「増加した理由はよくわかっていません」とされている。

 しかし、個人的には、●の影響(ここではコルチゾール過剰を経由したもの)による易感染性(免疫力の低下)がその原因だろうと考えている。つまり、先ずは免疫力の低下により、喉の痛み・咳・風邪などが起こり易くなり、起きた場合には関係の粘膜組織で炎症がおこり、感染防御のバリアー機能(機械的な感染抵抗性)の低下にみまわれることとなる。そこに、「歩く肺炎」の病原菌がばら撒かれることになると、バリアー機能と免疫力との低下から感染が拡大していくこととなると推定される。

 また、マイコプラズマ肺炎の今回の流行においては、どうも従来より難治例が増加しているようで、難治例の増加の原因は何か、というのが第二の疑問であろう。

 その原因の一つとして言われるのが、抗生物質(マクロライド系)に耐性のある肺炎マイコプラズマによるのではないかという説がある。この説は、耐性菌増加原因説ともいえるだろう。この点について、昨年11月にNHKで報道されたようだけど、オリジナルの記事がみあたらないので、サイト「Ceron.jp」から引用すると、

抗生物質効かない肺炎が流行 NHKニュース
http://ceron.jp/url/www3.nhk.or.jp/news/html/20111116/k10013989031000.html (リンクはココ

11月16日 6時11分 マイコプラズマという細菌による肺炎が、ことし、子どもを中心に流行していますが、これまで効くとされていた薬が効かない「耐性菌」が多いことが分かり、専門家は、症状が長引いて重症化するおそれがあるとして、注意を呼びかけています。 ・・・

 この説については、従来から耐性菌の割合は漸増状態にあった模様であり、難治例の増加の全てをこれで説明するのは無理があるのではないだろうか(耐性菌の割合が漸増状態にあった点については、ブログ「内科開業医のお勉強日記」の記事「マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎」(2011年11月16日) http://intmed.exblog.jp/14015817/を参照(記事内の最初の図))。

 難治例の増加の原因として別の説だと、耐性菌パワーアップ原因説があるようだ。ブログ「新小児科医のつぶやき」の主は、次の記事で、マイコプラズマ肺炎の難治例が体感的に増加している点を説明しつつ、難治例の増加の原因は、耐性菌増加原因説か、あるいは耐性菌パワーアップ原因説かのどちらかであろうと指摘している。

耐性マイコプラズマ菌 2011-11-07
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20111107 (リンクはココ) 

 本当に漠然たる印象で申し訳ないのですが、考えられる仮説は2つで、

   1. 耐性菌自体がパワーアップしている
   2. 耐性菌の増加率が非常に高くなり、その中の難治例が目立っている

 耐性菌パワーアップ原因説についてみておくと、これは他の感染症(赤痢、病原性大腸菌など)でもみられる病原菌パワーアップ原因説と同根なのだけど、個人的には余り信じていない。

 なぜなら、●の影響を考えても、病原菌が突然変異によってパワーアップする確率はそもそもかなり低く、パワーダウンする確率の方が大きいとみられるからだ。個人的には、新たにパワーアップした病原菌の存在が明確に確認されない限り、別の理由による説明の方がより蓋然性が高いと感じられる。

 また、発病という現象はヒトの免疫力と病原菌の病原力とのバランスの問題なので、病原菌パワーアップ原因説というのは、免疫力低下原因説の裏返しともいえるのである。問題の原因として一旦病原菌パワーアップ原因説と免疫力低下原因説との両方を提示した上で、具体的理由をあげて病原菌パワーアップ原因説を採用する主張するのなら傾聴に値するのだが、何故か免疫力の低下には言及されないことが多いのではないだろうか。何か免疫力の低下を言い出せない事情があるということかもしれない。

 仮に耐性菌増加原因説、耐性菌パワーアップ原因説も違うとすれば、では、何が難治例の増加の原因だろうか。個人的には、当然に免疫力低下が関与したものを考えているのだけど、せっかくなので、この点を少し掘り下げておこう。なぜ掘り下げるかというと、マイコプラズマ肺炎の難治例ではステロイド剤の投与が有効な場合もあるとされており、単純な免疫力低下原因説では余り適切ではないだろうからだ(つまり、ステロイド剤の投与で免疫抑制が進むはずで、単純な免疫力低下原因説だと病状が悪化する傾向の筈)。

 掘下げのために先ずは、マイコプラズマ肺炎の発症メカニズムをみておこう。ラジオNikkeiの番組サイト「アボット感染症アワー」内の記事から、

マイコプラズマ肺炎重症化のメカニズム
2007年11月9日放送
http://radio848.rsjp.net/abbott/html/20071109.html (リンクはココ

マイコプラズマ肺炎における感染病態と肺病変の形成
 なぜ一部の症例で重症化するのでしょうか?その機序を理解し易くするため、まずマイコプラズマ感染による病態形成について説明します。マイコプラズマは増殖過程で産生される過酸化水素や活性酵素によって、直接的に呼吸器粘膜を障害することの他に、菌体表面に存在するリポプロテインが引き起こす免疫反応を主体とする間接的な細胞障害があります。したがって、マイコプラズマ感染症における肺炎の病像は必ずしもマイコプラズマによる直接侵襲ではなく、宿主の免疫応答がむしろ有害に作用した結果と考えられています。この観点からマイコプラズマ感染症における肺炎の病変形成は、様々なサイトカインが産生され炎症が惹起されている可能性が報告されています。

 [中略]

マイコプラズマ肺炎の治療
 以上をまとめると、マイコプラズマが気道感染を起こすと全例に多少なりとも免疫学的な反応を起こすが、とりわけツベルクリン反応が陰性化するような肺局所へのリンパ球の一過性の過剰集積、Th1の過剰反応とその結果としての全身性の一過性の細胞性免疫能の低下が起こるような例では急激な呼吸不全を来たす可能性があります。・・・


 この記事によれば、肺炎マイコプラズマによる組織障害は、直接障害と間接障害があるとされている。前者は、同菌の増殖過程で産生される過酸化水素(つまり酸化ストレス)によるものとみられ、後者は、同菌が引き起こす免疫反応を主体とするものであるとされ、記事全体の趣旨を踏まえると、この免疫反応とは細胞性免疫の過剰反応のことであることがわかるであろう。

 先ず、間接障害について考えてみよう。肺炎マイコプラズマに感染すると、感染した患者の体質によっては、細胞性免疫の過剰反応が出て重症化するようである。この点については、出現した細胞性免疫の過剰というのは、その患者の免疫系(自律系なので患者の意思で制御は不能)が決めたものであって、その患者の体内から肺炎マイコプラズマを退治するのに十分と判断された水準(強さ)と考えられる。ただ、ここで問題が生じるのは、患者の身体がその過剰な水準の負担に耐えられない場合であり、そのような際にマイコプラズマ肺炎の重症化がみられると推測される。

 少し免疫の話のおさらいをしておこう。免疫系では、細胞性免疫(Th1細胞が媒介するもの。古いリンパ球による免疫)と液性免疫(Th2細胞が媒介するもの。進化したリンパ球による免疫)が互いに拮抗してバランスをとっているとされている。この点については、「酒井医院のホームページ」から、

Th1/Th2細胞のバランスの乱れ
http://homepage2.nifty.com/fwkx2334/link33.htm (リンクはココ)

 乳幼児への安易な抗菌薬投与が、花粉症やアトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患増加の一因と考えられている。・・・この免疫応答の基礎となっているのが、ヘルパーT(Th)1細胞とTh2細胞の拮抗作用、つまりTh1/Th2細胞バランスである。・・・通常、両細胞は相互にバランスを保ち免疫応答を制御しているが、何らかの原因でTh2細胞が過剰になるとカビやダニに対するIgE抗体が産生され、アレルギー疾患が生じる。一方,Th1細胞が過剰になると自己免疫疾患を引き起こすといわれる。

 さてここで、コルチゾールの過剰などによって免疫抑制状態にある人の集団が肺炎マイコプラズマに感染し、細胞性免疫が過剰に反応する場合を想定してみよう。このような場合を模式的に書くと、以下のよようになるのではないだろうか。なお、横軸が免疫の強さを表していると仮定している。


├─────────→ Th1  〔免疫抑制がない通常の場合・感染前)          
├─────────→ Th2   一定の範囲でバランスしている(健康な状態)          

├───→ Th1        〔免疫抑制がある場合・感染前〕
├───→ Th2         免疫力が低下し通常より低い水準となるも、バランスしている。


                ├→  過 剰 分 ←┤    〔免疫抑制がない通常の場合・感染後〕
├───────────────────→ Th1  Th1細胞の過剰が生じ対応不能の人は重症化。
├─────────→ Th2                       

        ├→      過 剰 分     ←┤    〔免疫抑制がある場合・感染後〕
├───────────────────→ Th1   過剰の度合いが通常より増大し、
├───→ Th2                   対応不能の人の割合が増加。



 感染前は、免疫抑制状態にあることから、このような人々は細胞性免疫と液性免疫の両方が通常の水準より抑制されていことが多いであろう。言い換えれば、Th1細胞とTh2細胞の能力はいずれも低下しているが、その低い水準でTh1/Th2細胞の比率はバランスしているということである。

 感染後に細胞性免疫の過剰反応が出たとすると、その過剰な反応で達すべき水準は、免疫抑制状態にない場合と同様に、体内から肺炎マイコプラズマを退治するのに十分と免疫系が判断した水準と考えるのが自然であろう。とすると、免疫抑制によって低い水準でTh1/Th2細胞の比率はバランスしていたことから、Th2細胞によるTh1細胞の抑制作用は、免疫抑制状態にない場合に比べると、小さくなっているものと考えられる。つまり、Th2細胞の機能が低下していた分だけ、Th1細胞の過剰に対するブレーキが弱くなっているものと考えられる。

 このように、肺炎マイコプラズマの間接障害作用については、●の影響がある場合には免疫抑制状態になることから、細胞性免疫の過剰反応が起きた際には、この過剰に対抗して過剰による弊害を抑制させる作用が小さくなっていると考えられる。このようなメカニズムを通じて、もともと肺炎マイコプラズマが持っていた間接障害作用が大きくなっている可能性があるだろう(免疫抑制状態原因説)。

 また、肺炎マイコプラズマの直接障害作用についても、●の影響がの場合には以前記事で触れたように酸化ストレスが亢進することになることから、これがバックグラウンドとして存在するならば、もともと肺炎マイコプラズマが持っていた直接障害作用を大きくしている可能性もあり得るだろう(酸化ストレス亢進原因説)。

 以上をまとめると、肺炎マイコプラズマの間接障害作用と直接障害作用は、それぞれ免疫抑制状態と酸化ストレスの亢進を通じて、その効果が大きくなり、難治例の増加に寄与しているものと考えられる。


(G) クラミジア肺炎

 マイコプラズマ肺炎の流行の背景にある事情については肺炎一般に言える部分もあり、繰り返すのも長くなるだけなので、クラミジア肺炎については、簡単にみるだけにしよう。

 クラミジア肺炎の週間報告件数の推移については、国立感染症研究所のサイト「感染症発生動向調査週報(IDWR)」(2012年33週、8/19の報告まで。http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl.html)から、

図2 クラミジア肺炎の定点当たり報告数の推移(2002~2012年)

 一般的な解説については、、同研究所のサイトから、

クラミジア肺炎とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ka/chlamydia-pneumonia/392-encyclopedia/395-chlamydia-intro.html (リンクはココ

 本来、クラミジア肺炎とは、クラミジアによる肺炎という意味であり、肺炎クラミジア [C. pneumoniae]、トラコーマ・クラミジア [C. trachomatis]、オウム病クラミジアによる肺炎が含まれる。・・・感染症法では前2者をまとめてクラミジア肺炎(オウム病を除く)として分類している。

   [中略]

疫 学
・C. trachomatis 肺炎
 C. trachomatis 肺炎の発生は新生児、乳児期にほぼ限られる。感染母体からの新生児・乳児肺炎の発症は3~20%と高率であると報告されているが、本症は4 類感染症定点報告の疾患であり、正確な発生数の把握はされていない。成人では、性感染症として咽頭に感染することが知られているが、免疫低下時以外は肺炎 にいたることはきわめてまれである。

・C. pneumoniae 肺炎
 C. pneumoniae による疾患としては急性上気道炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎、また慢性閉塞性肺疾患(COPD)を主とする慢性呼吸器疾患の感染増悪、および肺炎である。C. pneumoniaeは 市中肺炎の約1 割に関与するが、発症年齢がマイコプラズマ肺炎と異なり、小児のみならず、高齢者にも多い。性差ではやや男性が多い。また、他の細菌との重複感染も少なくない。家族内感染や集団内流行もしばしば見られ、集団発生は小児のみならず高齢者施設でも報告されている(IASR Vol.22 No.6 p10 (144 ))。感染既往を示すC. pneumoniae IgG 抗体保有率は小児期に急増し、成人で5~6 割と高い。この抗体には感染防御の機能はなく、抗体保有者も何度でも感染し発症し得る。

 ついでに、gooヘルスケアからも、

クラミジア肺炎 http://health.goo.ne.jp/medical/search/101C2100.html (リンクはココ


 易感染症の項は、趣味に走るとなかなか終わらないな。 (つづきは、ココ

 

・9/23追記:
 上記以外の肺炎についても、増加している気配があるのだろう。ツイッターから、

@FRCSRJP
2011年死因順位:1.悪性新生物 2.心疾患 3.肺炎 4.脳血管疾患 5.不慮の事故 6.老衰 7.自殺 8.腎不全 9.慢性閉塞性肺疾患 10.肝疾患....肺炎が脳血管疾患を抜いて3位
9:13 PM - 7 Sep 12


「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (7-2)

2012年08月26日 |  症例(その他)

〔更新履歴:9/2追記、9/23追記〕


(7) 易感染性 (つづき)

 前回記事の続きで、ウイルス性感染の代表例とされたヒト・ヘルペスウイルスについてみていこう。

 ヘルペスウイルスは100種類以上あるといわれていて、人に病原性を示すものとして次の8種類のヒト・ヘルペスウイルス(human herpesvirus、HHV)が知られている。

(a) HHV-1:単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus-1、HSV-1)
(b) HHV-2:単純ヘルペスウイルス2型(herpes simplex virus-2、HSV-2)
(c) HHV-3:水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus、VZV)
(d) HHV-4:エプスタイン・バー・ウイルス(Epstein-Barr virus、EBV)

(e) HHV-5:サイトメガロウイルス(cytomegalovirus、CMV)
(f) HHV-6:ヒト・ヘルペスウイルス6型
(g) HHV-7:ヒト・ヘルペスウイルス7型
(h) HHV-8:ヒト・ヘルペスウイルス8型(あるいはカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus、KSHV))

 前回記事のラジオNIKKEIのサイトの記事で言及されていた「サイトメガロウイルス」はHHV-5であり、「ヘルペスウイルス」はHSV-1及びHSV-2のことであろう。

 ヒト・ヘルペスウイルスによる感染症の解説については、例えば、博多インフェクションコントロールフォーラム(HICA)内のサイト「感染症講義室」から、

ヘルペスウイルス感染症
http://hica.jp/kono/kogiroku/herpes/soron.html (リンクはココ

・ヘルペスherpes (ラテン)とは小水疱・小膿疱の集簇した状態である疱疹(ホウシン)のことである。
・ヘルペスウイルスは、DNA ウイルスである。・・・
   [中略]

・ヘルペスウイルス科のウイルスのほとんどは、人体(宿主)に初感染の後、潜伏感染する。これは、いわば冬眠状態みたいなものである。やがて、潜伏感染したヘルペスウイルスは、宿主が免疫不全に陥ることで、再び目覚め(再活性化)病的状態を来す。これを回帰発症recurrenceという。(重要事項)・・・

 具体例として、「水痘」と「帯状疱疹」の関係が挙げられる。この二つは、共にヘルペスウイルス科に属する水痘帯状疱疹ウイルスvaricella zoster virusによって生じる発疹性の疾患だが、同じウイルスによる違う時期に現れる病気の呼び名である。つまり、初感染で全身に水疱が出現するのが「水痘」(いわゆる水ぼうそう。好発時期は幼児・学童期)。そのウイルスの中で、神経節に潜伏して生体の老化・免疫低下によって回帰発症し、知覚神経に沿っての移動の後に知覚神経支配領域(皮膚デルマトームに相当)に多くの場合、片側性の有痛性水疱を形成したのが「帯状疱疹」

   [中略]

・回帰発症を引き起こす「再活性化への刺激」には日光(とくに紫外線)、外傷、ストレス、疲労、月経、発熱、神経に対する外科的侵襲、免疫抑制剤(ステロイド・シクロスポリンなど)がある。 

 

 コルチゾールの作用による免疫抑制は、前回記事でみたとおり、リンパ球を減少させるので、ウイルスなどの小さな異物に対する防御が特に手薄になることを意味している(顆粒球の直径は好中球で12~15μm程度であり、百分の1程度の大きさのヘルペスウイルス(0.1~0.2μm程度)を効率的に処理するのには難がある)。

 ヒト・ヘルペスウイルスによる感染症をまとめた一覧表については、上記リンク先でもみられるけど、潜伏部位などの情報が載ったものをサイト「医学用語集めでぃっく」から引用すると(ヒトヘルペスウイルス
http://meddic.jp/%E3%83%92%E3%83%88%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%9A%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9。リンクはココ


                     表 ヒト・ヘルペスウイルスによる感染症


 上記表中の「主な疾患」欄に関し代表的なものについて、gooヘルスケアからのリンクを置いておくと、

HHV-1 & 2
単純疱疹(ヘルペス) http://health.goo.ne.jp/medical/search/10P80300.html (リンクはココ
性器ヘルペス症 http://health.goo.ne.jp/medical/search/10341100.html (リンクはココ
HHV-3
水痘(みずぼうそう) http://health.goo.ne.jp/medical/search/10PA0800.html (リンクはココ
帯状疱疹 http://health.goo.ne.jp/medical/search/10P80200.html (リンクはココ
HHV-4
伝染性単核(球)症 http://health.goo.ne.jp/medical/search/10PA0500.html (リンクはココ
HHV-5
サイトメガロウイルス感染症 http://health.goo.ne.jp/medical/search/10PA0600.html (リンクはココ
HHV-6 & 7
突発性発疹(小児バラ疹) http://health.goo.ne.jp/medical/search/10PA0300.html (リンクはココ


 ついでに、発がんとの関連することがかなり明確になっているのは、4種類ある(上記の表には載っていないものもあるけど、HHV-2の子宮頸がん、HHV-4のバーキットリンパ腫・胃がん・上咽頭がん、HHV-5の前立腺がん、HHV-8のカポジ肉腫)。

 また、HHV-6については、上記の表では触れられていないが、慢性疲労との関連性が指摘されている。この点については、書き始めると長くなりそうので別の機会に扱うことにして、関連記事のリンクを一つだけ紹介するに留めておこう。サイト「Co-Cure-Japan」(慢性疲労症候群とその関連疾患に関する情報提供のサイト)の記事から、

ヒトヘルペスウイルス6(HHV6)と慢性疲労症候群
http://co-cure.org/jp/CFS/mm66.htm (リンクはココ

 最後におまけで、ヒト・ヘルペスウイルスに関し病理像に興味があれば、国立感染症研究所の感染病理部のサイトから、

感染症の病理 http://www0.nih.go.jp/niid/pathology/kansensho-byouri.html (リンクはココ。リンク先からウイルスの種類を選択可能)


 易感染性とコルチゾールとの関係の話はこれくらいにして、次に、易感染性に関連する疑わしい症例をみていこう。

(A) 一般論

 一般的な話で噂話のレベルだと、例えば、某掲示板の緊急自然災害板から、

112 名前:地震雷火事名無し(中国地方) 投稿日:2012/08/13(月) 07:23:04.22 ID:MeJWKHmL0
  色んな感染症やインフルエンザが夏にでも流行るのって、免疫がなくなって
  身体が相当弱ってる人が多いってことだよね。
  去年からずっと色んな感染症がウナギのぼりだなと。
  性感染症も調査したら激しく増えてそう。
  肝炎は感染力が強くて感染しやすいから、凄く増えてそうな気がする。

113 名前:地震雷火事名無し(やわらか銀行) 投稿日:2012/08/13(月) 07:47:56.89 ID:b8mHaGt40
  そのうちエイズ感染して無くても、カリニ肺炎とか起こすレベルになるんだろうね。
  少しずつ、気づかない程度に進行する白血病のようなイメージか・・・

116 名前:地震雷火事名無し(新潟県) 投稿日:2012/08/13(月) 09:08:18.09 ID:HTHqx1YS0
  インフルエンザくらいならいいけど
  結核が蔓延したらと思うとgkbr.
  昨年家族が高熱続いて入院して、結核の疑いがあるって言われたんだけど
  生きた心地がしなかった。
  結局、結核ではなくて原因は不明のままだったんだけど。

120 名前:地震雷火事名無し(中国地方) 投稿日:2012/08/13(月) 09:56:30.13 ID:MeJWKHmL0
  >>116
  結核は薬が全く効かない、多剤耐性結核が増えてるのも怖い。
  超多剤耐性結核なんてものあるらしい。
  元々身体が弱ってるから結核に感染するんだろうけど、多剤耐性結核になったら自分の免疫力で
  勝負するしかなくなるわけで、その免疫力がないのに治るわけがないという…

 少し確かなソースでの一般的な話だと、例えば、みんなのカルテ保管庫から、

509 私:生理不順 家族:免疫力弱く
http://sos311karte.blogspot.jp/2012/07/509.html (リンクはココ
(インフルエンザ、風邪、帯状疱疹、胃腸炎、溶連菌感染を指摘)


 次に、もう少し定量的にみることとして、公的な発表ベース(主に厚労省系)、あるいはそれらに基づく報道ベースでみていこう。ここでは、全国ベースの数値でみることにするけど、地域的な動向については、興味があるなら、都道府県ベースの数値もある筈なので各自でチェックしてほしい(例えば、北海道だと道のサイト「北海道感染症情報センター」 http://www.iph.pref.hokkaido.jp/kansen/index.html)。


(B) 結核

 厚労省により全数把握感染症に指定されている。年別の数値みておくと、2011年から増加傾向にあることがわかる。

表 結核の年別報告数(全国)
  西 暦  2007 *1  2008   2009   2010   2011  2012 *2
  報告数 21,946  28,459  26,996  26,866  30,810  17,836
注)*1. 2007.4.1からの集計のみ。 *2. 32週(8/12日分)までの集計。
出典)国立感染症研究所のサイト「感染症発生動向調査週報(IDWR)」 http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.html。

 最近の傾向だと、全国ベースで拡大しているのか、長くみられなかった地域で集団感染がみられる点であろうか。最初の香川の例は毎日新聞から、次の沖縄の例はサイト「QLife Pro」から、

結核:小豆郡の病院で集団感染 入院患者ら31人 /香川
2012年07月25日
http://mainichi.jp/area/kagawa/news/20120725ddlk37040641000c.html (リンクはココ

 県内での結核集団感染は99年以来13年ぶり。・・・


沖縄で結核集団感染で妊婦が死亡 広がる不安
2012年08月03日
http://www.qlifepro.com/news/20120803/unrest-maternal-mortality-in-tuberculosis-outbreaks-in-okinawa.html  (リンクはココ

 11年ぶりの集団感染


 忘れていたので結核の一般的な解説を貼っておくと、gooヘルスケアから、

肺結核 http://health.goo.ne.jp/medical/search/10730100.html (リンクはココ

 ついでに取り上げておくと、一度肺結核に罹った人では、3.11後では呼吸器系の感染抵抗力に問題が生じているとの指摘もある。木下黄太のブログから、

肺結核既往歴の死亡例増加。橋本病の悪化、都内在住で好転しない人と移住で好転した人という違い。
2012-04-17
http://blog.goo.ne.jp/nagaikenji20070927/e/65e8e54b6729953132ef0b8a6ab339ce (リンクはココ

 

(つづく)

 

・9/2追記: 上記の「木下黄太のブログ」記事に記載されていた状況と類似していると思われる、結核感染で肺炎を合併する例をみかけたので記録しておこう。某掲示板の緊急自然災害板から、

318 名前:地震雷火事名無し(東日本) 投稿日:2012/08/29(水) 23:23:27.21 ID:P7OE/rUE0
  医療関係者の中の人から情報。

  首都圏の高線量地帯で、今夏の初め、肺結核患者が複数出た。
  いずれも成人で、未成年者ではない。
  それも、「何とか肺炎」という、珍しい肺炎を併発しているケースが多かった。
  そのため、ある患者などは
  「この人エイズじゃないか?」と医者に疑われ、エイズ検査まで受けさせられた。
  患者側にも、思い当たる節があったのだろうか…?
  しかし、幸いにしてエイズではなかったようだ。

  エイズ患者と疑われるほどに、免疫力が低下している人が多くいるようだ。

 ここでいう肺炎は、エイズとの関連が疑われているので、多分ニューモシスチス肺炎(かつてのカリニ肺炎)であろう。これについては、gooヘルスケアから、

ニューモシスチス肺炎
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10721200.html (リンクはココ

 

・9/23追記:
 東京のホットスポット周辺での集団感染の事例。報道振り及び当局の公表をそれぞれ産経新聞及び東京都のサイトから、

都内で結核集団感染 足立の男性ら63人
2012.9.20 21:24
http://sankei.jp.msn.com/region/news/120920/tky12092021240011-n1.htm

結核集団感染の発生について
平成24年9月20日
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2012/09/20m9k800.htm


「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (5)

2012年08月15日 |  症例(その他)

 今回も前回記事の続き。ステロイド剤(ステロイド系抗炎症剤)の副作用の項目別に、問題の症状へのコルチゾールの関与の仕方、関連する疑わしい症例をあげていこう。

(5) 骨粗しょう症

 骨という組織も、日々の管理・修繕があってその機能を維持している。一説によけば、骨は新陳代謝(再構成(リモデリング)とも呼ばれる)のため3年程で全て作り替えられるとの話もある。脆くなったり古くなったりした部分を壊す作業(破骨。あるいは骨吸収(カルシウムが血液中に出て行く点を強調した名づけ方))と新たに骨を作る作業(骨形成)とがバランスよく行われ、骨の機能が維持されているのである。このあたりについては、例えば、武田薬品のサイト「骨粗しょう症のはなし」から、

骨の再構築(リモデリング) http://www.takeda.co.jp/pharm/jap/seikatu/osteoporosis/shikumi/04.html (リンクはココ

 以前の記事でも触れたけど、縄文人が野生動物に囲まれて危険を感じて身を隠しているような状況では、生命の危険というストレスを受けてコルチゾールが分泌されるフリージング(すくみ)反応が起こり、その反応は、筋肉などを分解して近く起きるであろう闘争・逃避反応の準備をしいると解されるのであった。

 さて、このような危険な状況で待機しているとして、筋肉を分解しつつエネルギーを得て、通常どおり骨の新陳代謝の水準を維持する必要があるのだろうか。多分ないだろう。コルチゾールの基本的な作用には、以前の記事で触れたように、抗炎症作用と免疫抑制作用とがあった。骨の新陳代謝よりも重要そうな分野(炎症、免疫)で活動水準を下げてまでエネルギーを節約しているわけで、骨の管理・維持もエネルギー節約のため当然に手抜きも許されるだろうと考えられる。なぜなら、2、3日間手抜きをしたところで、即座に影響はでないと推測されるからだ。

 この議論は今後も何度も出てきそうなので、この観点からコルチゾールの基本的作用を再整理すると、次のようになるだろう:

(a) 抗ストレス作用、
(b) 闘争・逃避反応に役く立ちそうな機能・作用の増強(糖新生・血糖値の上昇、脂肪分解促進など)、
(c) 闘争・逃避反応との関連性が薄い機能・作用については、エネルギー節約のために抑制(抗炎症性、免疫抑制など)。


 前置きはこれ位にして、骨粗しょう症の一般的な解説については、例えば、gooヘルスケアから、
 
骨粗鬆症 http://health.goo.ne.jp/medical/search/109A0100.html (リンクはココ

骨粗鬆症とはどんな病気か
 骨量の減少と骨組織の微細構造の異常の結果、骨に脆弱性(ぜいじゃくせい)(もろくて弱くなること)が生じ、骨折が生じやすくなる疾患です・・・

症状の現れ方
 通常、骨量の低下のみでは症状が出現することはありません。骨折に伴って疼痛や変形が出現します。
 原発性骨粗鬆症では、股関節の骨折(大腿骨頸部骨折)、手首の骨折(撓骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ))、脊椎(せきつい)圧迫骨折が多く発症します。一方、ステロイドによる二次性骨粗鬆症では脊椎椎体(ついたい)骨折が多く、関節リウマチによる二次性骨粗鬆症では、脊椎、四肢に限らずあらゆる部位に骨折がみられます。
 脊椎椎体圧迫骨折では、後弯(こうわん)の進行や潰れた椎体により脊髄が圧迫され、後になってから下肢の運動・知覚麻痺や排尿・排便障害が現れることがあるので注意が必要です。また、骨折した脊椎が癒合(ゆごう)しないため(偽関節(ぎかんせつ))、頑固な腰背部痛が残ることもあります。


 症状の現れ方については、簡単な記述しかないので少し補足しておくと、厚労省作成の資料から(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構のサイトから入手可能。なお、同種のマニュアルの一覧は同サイト内 http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/juutoku_index.htmlを参照。リンクはココ)、
 
重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け) 骨粗鬆症 平成21[2009]年5月
http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0905013.pdf (リンクはココ。pdfファイル)

2.副作用の概要
 ステロイド性骨粗鬆症とは、経口ステロイド薬による骨代謝系への直接または間接作用により骨粗鬆症が生じ、骨折が生じやすくなる状態である。骨折が生じる部位により関連した部位に疼痛、神経麻痺症状など多彩な症状を呈する。

(1) 自覚的症状
 原則的に骨折が生じなければ自覚症状はない。骨粗鬆症性の骨折は一般的に軽微な外傷により生じるが、骨の脆弱性が特に著しい場合には、外傷がなくとも骨折を生じる場合がある(体幹荷重や通常歩行のみによる慢性的な負荷がかかった場合や筋の強力な緊張がかかった場合など)。骨折部の疼痛は安静時よりも運動時に強い。骨粗鬆症による骨折は海綿骨が豊富な部位に生じやすいため、脊椎椎体と四肢長管骨の骨幹端部が好発部位である。また、骨折は肋骨にも好発する。骨折が治癒しても変形を残す場合には持続的な疼痛などの症状が生じることがある。

脊椎椎体骨折による症状:腰背部痛(骨折による急性の疼痛と、骨折後に残存する椎体変形に由来する脊柱変形により生じる慢性の疼痛)のほか、骨折椎体高位の神経支配域の放散痛(体側部痛)や殿部痛を伴う場合がある。脊柱管内への骨片の突出が大きければ下肢の筋力低下や知覚障害、膀胱直腸障害などの神経麻痺症状を生じる。骨折が治癒せずに偽関節を生じると、不安定性による遅発性の脊髄麻痺を生じることがある。また、椎体骨折や脊柱変形に伴い身長が低下する。50 歳以後で2cm以上、若い頃から4cm 以上身長が低下した場合には椎体骨折が生じている可能性がある6)8)。

四肢の骨折による症状:骨折部の疼痛、腫脹、変形などが生じる。下肢骨骨折の場合は歩行困難または不能となる。 (同資料9-10頁から)

 ついでに、公益財団法人 骨粗鬆症財団のサイトから、骨粗しょう症関係の用語集と、イラスト入りの症状の現れ方も紹介しておこう。

用語集 [骨粗鬆症関係]
http://www.jpof.or.jp/grossary.html (リンクはココ
骨粗鬆症ってなに? - どんな症状がでるの?
http://www.jpof.or.jp/about-sympson.html (リンクはココ


 次に、骨粗しょう症へのコルチゾール関与の仕方については、わかりやすそうな解説をみつけたので、先ずは他力本願でいくと、「六号通り診療所所長のブログ」から、

ステロイド性骨粗鬆症は何故起こるのか?
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2011-07-12 (リンクはココ

 このように有用性の高い薬であるステロイドですが、皆さんも御存知のように、多くの副作用が存在します。
その中で、これまでやや軽視されることの多かったのが、ステロイドにより骨の健康が損なわれ、骨折や骨壊死などが起こるという、骨への有害作用です。
ステロイドの使用は骨粗鬆症の原因となり、かつまた骨壊死という特殊な骨の病変の、原因ともなります。

 ステロイドによる骨の病変は、どのくらいの頻度で起こるのでしょうか?
 [長いので、中略]

 しかし、事前の骨塩量が正常でも、ステロイドによる骨折のリスクは増加し、そのし易さを、その数値で推測することは出来ないのです。
何故そうなのか、ということを考えるには、ステロイドが何故骨を脆くするのか、という原因を考える必要があります。

 骨には骨細胞があり、それ以外に骨を造る働きを持つ骨芽細胞と、骨を壊す働きを持つ破骨細胞があります。
通常の閉経後の骨粗鬆症では、破骨細胞の機能が相対的に高まるので、骨は破壊される方向に働き、骨の破壊が進行して、それにつれて骨塩量も減少します。
つまり、こうしたタイプの骨粗鬆症では、骨塩量すなわち骨量を、定期的に測定することが、骨折のリスクをある程度推測する上で、意味のあることなのです。

 一方でステロイドによる骨病変では、病変の主体は骨細胞そのものにあります。
ステロイドの影響により、骨細胞は壊死をし易くなり、その寿命が短縮するので、骨自体の栄養状態が悪化し、骨の中の細胞数が減少します。これはステロイドが骨の成長因子を、強く抑制する作用によると考えられています。
破骨細胞や骨芽細胞は、双方とも壊死し易くなり減少しますが、より骨芽細胞の減少の影響の方が大きいので、長期的には骨の破壊は進行し、骨塩量も減少に向かいます。


コルチゾールの働きによって、骨細胞も早死にするし、破骨細胞や骨芽細胞も早死にするらしい。細胞数が減るのだから、確かにエネルギーの節約にはなりそうだ。

 一般向けの解説ならこれでいいと思うけど、趣味に走ると(カルシウムの代謝に興味があると関連性が気になるよね)、より詳しく知るために先程と同じ厚労省作成の資料から、
 
2.副作用の概要
   [中略]


                  図1  ステロイド性骨粗鬆症の発症機序

(6) 発生機序
 ステロイド性骨粗鬆症の発症機序には、骨芽細胞などの骨形成系細胞への抑制を主体とする骨代謝系への直接作用と、内分泌系などを介した間接作用がある(図1)。

骨代謝系への直接作用:
 経口ステロイド薬の骨代謝系への直接作用の主因は、間葉系幹細胞から骨形成系細胞(骨芽細胞前駆細胞など)への分化を抑制し、さらに骨芽細胞と骨細胞のアポトーシスを促進することである9)10)。また、経口ステロイド薬は破骨細胞のアポトーシスを抑制し、破骨細胞の寿命を延長させる11)。結果として、骨組織において骨形成は著しく抑制されるとともに骨吸収は促進されるため、骨量は次第に減少し、骨粗鬆症を発症する。

内分泌系などを介した間接作用:
 経口ステロイド薬は性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の産生を抑制し、それに伴い黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)を減少させる。その結果、性ホルモン(エストロゲンやテストステロンなど)の分泌抑制を引き起こし、骨粗鬆症を誘発する12)。また、下垂体での成長ホルモン(GH)の産生を抑制することにより全身性および局所のインスリン様成長因子(IGF-I)の産生を減少させる。さらに、腸管からのカルシウムの吸収の低下と腎尿細管からのカルシウム再吸収の抑制に起因する二次性の上皮小体機能亢進症を誘発する。 (同資料11-12頁)
 

 「六号通り診療所所長のブログ」の主が言うところの「通常の閉経後の骨粗鬆症」は、主に内分泌系などを介した間接作用が大きく寄与するとみられる一方、ステロイド性骨粗しょう症は、これとは少し異なった病態になるとの指摘があるので、骨代謝系への直接作用が主なのではないかと推測される(深く掘り下げると余計分かり難くなったのは多分気のせいだろう・・・)。

 ついでに一言付け加えると、ここで、コルチゾールには性ホルモンや成長ホルモンの分泌を抑制させる働きがある、と指摘されているに留意してほしい(この点については、それぞれ後で記事にまとめる予定なので、今回は指摘のみ)。


 さて、関連する疑わしい症例を挙げていこう。

 軽度の症状の場合、骨折あるいは骨折後の変形により腰や背中の痛みが出るとされている。腰背部痛の報告はいろいろみかけたけど、個人的な認識だと、骨粗しょう症との関連性までみえてきたと思えた事例は残念ながらなかった(様々なことが原因で腰背部痛になり得るし・・・)。ということで、骨折を中心にみていこう。

 骨折については、以前の記事でも紹介したように、噂話のベースだと、件数が増加しているのでは、との印象を受ける。

〔メモ〕 骨折がはやっている???  2012/3/22


 また、最近は、芸能人が骨折したとの報道も、個人的には以前より多いのではないかと感じている。幾つか怪しい事例をあげてみると、例えば、サイト「Techinsight Japan」の記事から、

【エンタがビタミン♪】「医者には動くなと言われている」。肋骨を骨折していた杉本彩。休まずに予定通り活動を続ける模様。
2011年10月17日 19:00
http://japan.techinsight.jp/2011/10/sugimotoaya-rokkotu20111017.html (リンクはココ

 タレントの杉本彩がテレビ番組で肋骨を骨折したことを明かした。彼女は以前、テレビ番組で社交ダンスを踊る企画に挑戦した際にも肋骨を骨折した状態で踊ったことがある。・・・

 番組で彼女は気管支炎を患い、数日間「夜中じゅう咳き込んでいたら、ある日肋骨が大変なことになっていた」と状況を語った。咳をして肋骨が折れるという話は杉本彩も聞き知っていたが、「まさか本当になるとは」と自分が経験して驚いたそうだ。

 別の例だと、j-castニュースの記事から、

川島なお美が肋骨骨折 夫は「なんも心配してくれない!」
2012/5/26 16:22
http://www.j-cast.com/tv/s/2012/05/26133439.html (リンクはココ

 タレントの川島なお美が5月25日(2012年)のブログで、肋骨を骨折していたことを明かした。

 6月中旬に始まるミュージカルのため5月5日、ポールダンスのスタジオに行った。苦手だという「ポールでの逆上がり」を何度も練習したら「ガツン」とポールに肋骨をぶつけてしまった。痛いのを我慢して翌日以降も仕事をするなどしていたが、ゴールデンウィーク開けに整形外科に行ってレントゲンを撮影したところ、肋骨にひびが入っていたという。

 最近の例だと、元はテレビ朝日の記事なのだけどみあたらないので、同記事に関連したものを某掲示板の芸能・音楽・スポーツ ニュース速報板から、

【芸能】品川庄司の品川祐、酔って走って止まって全治1ヵ月の骨折
2012/07/28(土)
http://awabi.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1343464291/ (リンクはココ

 品川庄司の庄司智春(36)が28日、山梨県・富士急ハイランドの新迷宮脱出アトラクション
「絶望要塞」のオープニング記念イベントで、相方・品川祐(40)が骨折していたことについて語った。 ・・・

 庄司は「(番組の)収録で会った時に、(品川から)ブログで書いていたような説明は受けましたけど。はしゃいで、走って、立ち止まったら、着地に失敗したのか、膝を骨折したって言ってました」と説明。
品川のブログでも、担当医から「走って止まって折れるなんて聞いたことないですね」と呆れられたと明かしていた・・・

 ついでに、メモ代わりに、この報道に関連した議論を某掲示板の放射能板から発掘すると(レス番819の内容は、上記の品川祐氏の骨折報道)、

822 : 名無しに影響はない(愛知県) : 2012/07/29(日) 10:22:12.11 ID:zdkFR4DW [2/3回発言]
  >>819 緊急自然災害板の方でも書いたけど、詳しい人いたら意見くださいな。

  >158 :地震雷火事名無し(関東地方):2012/07/29(日) 08:52:53.75 ID:9000qbbfO
  >イタイイタイ病きたか

  >159 :地震雷火事名無し(長野県):2012/07/29(日) 09:13:38.04 ID:BriNL3K30
  >>>157
  >長野の40代も、躓いて足を捻ったら(?)骨折したと言って入院した
  >健康でよく運動してる人だからびっくりしたが

  >これからは迂闊に転べないし躓けない

  >160 :地震雷火事名無し(愛知県):2012/07/29(日) 09:40:47.75 ID:X3Jbe1RG0
  >ガレキにはカドミウムも含まれているかもしれない、と言っていたが。
  >そんな大量に含まれてはいないよな。

  >161 :地震雷火事名無し(関東地方):2012/07/29(日) 09:46:20.25 ID:9000qbbfO
  >>>160崩壊後カドミウムになる核種があったはず

  >163 :地震雷火事名無し(愛知県):2012/07/29(日) 10:17:21.37 ID:X3Jbe1RG0
  >>>161
  >いいページがあった。放射性銀 110Ag → β崩壊 → 110Cd
  >http://trustrad.sixcore.jp/ag-110m.html

  健康被害を及ぼすほどの量を摂取するのかどうかはわからない。
  該当のページでは放射線ばかり注目して、β崩壊後のカドミウムの影響は
  考察されていない。

835 : 名無しに影響はない(東京都) : 2012/07/29(日) 14:51:54.17 ID:1AnUSChZ [1/1回発言]
  >>822 >>819
  詳しくないけど、カドミウム原因説かどかは、よくわからん。一般論だと、

  病的骨折 ttp://health.goo.ne.jp/medical/search/10510800.html

  汚染状況を踏まえると、

  骨内部に取り込まれた放射性ストロンチウム崩壊 →粗骨化 →易骨折性 
  あるいは
  放射能誘発の酸化ストレス →何かの異常? →カルシウム代謝の異常 →粗骨化 →易骨折性

  「何かの異常?」の部分は、いろいろ考えられるので、より詳しいデータが望まれる。

  山勘だと、初期被ばくで甲状腺にかなり負担がかかったようだから、
  副甲状腺機能亢進が関与しいてるのか???

  副甲状腺機能亢進症 ttp://www.ito-hospital.jp/02_thyroid_disease/03_2about_php.html


 この記事の前提であるコルチゾール過剰原因説のほか、放射性ストロンチウム原因説、カルシウム代謝異常原因説(例えば副甲状腺機能亢進原因説)あたりは、骨折の原因としてあり得るかもしれないと思われる。

 ただ、カドミウム原因説は、個人的には現状ではほとんど信じていない(疑わしい症状として、イタイ、イタイと叫ぶ症状のあるヒトが出現していないと思われるため)。


(つづく)

 

============

注) ・8/22 タイトル変更。


「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (4)

2012年08月13日 |  症例(その他)

 前回記事につづき、ステロイド剤(ステロイド系抗炎症剤)の副作用の項目別に、問題の症状へのコルチゾール関与の仕方、関連する疑わしい症例をあげていこう。

 なお、この作業は、別の見方をすれば、疑わしい症状の中から「「コルチゾール過剰症候群」に該当しそうなものを、ステロイド剤の副作用の知見を活用して拾い上げ分類しているとも言えるだろう。

(4) 脂質代謝異常

 まずは用語の解説で、脂質代謝異常は、かつての「高脂血症」のことなのだけど、gooヘルスケアから、

脂質代謝異常(高脂血症) http://health.goo.ne.jp/medical/search/10280300.html (リンクはココ

どのような状態か
 高脂血症はLDLコレステロール140mgdl以上、中性脂肪150mgdl以上、HDLコレステロール40mgdl未満のいずれかを満たすものと定義されます。・・・高脂血症の名称も脂質異常症と変更されましたが、本稿では高脂血症として統一します。
 さて、高脂血症の基準にあるLDLコレステロールはいわゆる悪玉コレステロールであり、HDLコレステロールはいわゆる善玉コレステロールです。一般的にはLDLコレステロールが上がれば上がるほど、HDLコレステロールが下がれば下がるほど動脈硬化が起こりやすいと考えられています。中性脂肪に関しても動脈硬化、糖尿病、急性膵炎(すいえん)との関連が示されているので、注意が必要です。
 高脂血症そのもので自覚症状を起こすことはほとんどなく、検診により指摘され、受診するケースがほとんどだと思われます。高脂血症は動脈硬化を進行させる重要な危険因子であり、これにより脳血管障害や虚血性(きょけつせい)心疾患など動脈硬化性疾患を合併し、生命に危険をもたらすことがあります。・・・

血液中のコレステロールや中性脂肪が高くなることであり、これにより何らかの自覚症状が出るというより、動脈硬化の危険因子として注意する必要があるものである。

 脂質代謝異常へのコルチゾール関与の仕方は、以前の記事で触れたコルチゾールの基本的な作用のうち「脂肪分解促進」と関連している。この場合の脂肪分解とは主に、

中性脂肪(トリグリセリド) ─────→ 脂肪酸 + グリセロール(グリセリン)

 「トリグリセリド」というのが脂肪(酸アルカリ的に中性なので「中性脂肪」と呼ばれる)として体内に貯蔵される時の形態であり、これは栄養状態に応じて、体内で合成・貯蔵されたり、取崩し・分解されたりしているものである。分解により得られた脂肪酸は、肝臓ほかの臓器(脳以外)でエネルギー源として活用(分解)され、グリセロールは肝臓での糖新生の原材料とされることとなる。このあたりの脂肪分解の生化学反応の詳細については、例えば、サイト「脂質と血栓の医学」から、

絶食時の代謝 http://hobab.fc2web.com/sub4-zesshoku.htm (リンクはココ

1.絶食が始まった時
 [中略]
 b.脂肪組織が分解されて、脂肪酸が放出される
 脂肪組織のホルモン感受性リパーゼ(注4)が活性化されて、中性脂肪(トリグリセリド)が分解され、脂肪酸が、血液中を、アルブミンと結合した遊離脂肪酸として、運ばれます。
 ・・・なお、脂肪酸は、心筋や、骨格筋では、β-酸化によりアセチル-CoAに分解された後、さらに、TCA回路で代謝され、二酸化炭素と水にまで、分解されますが、肝臓では、β-酸化によりアセチル-CoAに分解された後、ケトン体に生成されます。それから、脂肪酸からは、グルコースは合成できません(奇数炭素の脂肪酸は、例外)。
 絶食時(飢餓時)には、グルコースの供給が不足するので、肝臓は遊離脂肪酸を分解(β-酸化)し、生成されるNADH2+を利用し、グルコースを生成(糖新生)します。・・・
 [中略]
 中性脂肪の分解に伴い生成される、グリセロール(グリセリン)は、肝臓で、グルコースに糖新生されます。

 コルチゾールによる中性脂肪の分解促進というのは、以前の記事で触れたように、もともとフリージング反応での作用であり、お腹がすいても動けるように準備するという趣旨だと考えられるのだが、そのような中で食事を十分にとったりすると、何かよくないことが起きそうな予感がするのではないだろうか。

 中性脂肪は、上述のとおり本来栄養状態に応じて、体内で合成・貯蔵されたり、取崩し・分解されたりしているものである。コルチゾールによる「脂肪分解促進」というのは、詳細にみれば、中性脂肪の分解の促進と中性脂肪の合成の抑制ということを意味している。

 食事をすると消化・吸収した糖質、脂質などの栄養素が血液中に増加するけど、コルチゾールが過剰にある環境だと、中性脂肪の合成が抑制されるため、中性脂肪となれずに余った原材料が血液中に増加し、高脂血症を引き起こすことになるようだ。このあたりの詳細については、同じくサイト「脂質と血栓の医学」から、

ステロイドホルモン http://hobab.fc2web.com/sub4-Steroid.htm (リンクはココ

・コルチゾールは、脂肪組織(や肝臓)では、中性脂肪(トリグリセリド)合成を抑制する。
 コルチゾールは、脂肪組織では、インスリンの作用を抑制し、脂肪分解作用を、亢進させる(インスリンの作用の抑制により、グルコース取り込みが抑制され、グリセロール 3-リン酸とアシル-CoAから、中性脂肪が合成されない)。インスリンは、脂肪組織のリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性を上昇させるので、コルチゾールにより、インスリンの作用(インスリン受容体との結合)が抑制されると、LPLにより分解されないカイロミクロン、VLDL、LDLが増加し、高脂血症(高中性脂肪血症、高コレステロール血症)を来たす。コルチゾールは、糖新生を促進させ、血糖値を上昇させ、インスリン分泌を促進させ、その結果、一部の脂肪組織では、脂肪動員(脂肪分解)を上廻って、脂質合成が、促進される。
 その結果、血中への脂肪酸やグルセロール放出が、増加する。グリセロールは、肝臓で、グルコースに糖新生される。

 ちょっと難しくて余りピンとこないので、少し用語の解説「カイロミクロン」、「VLDL」(超低比重リポ蛋白)、「LDL」(低比重リポ蛋白)については、いずれもリポ蛋白とよばれるものでる。血液は水が主成分であり、そのままではコレステロールや中性脂肪を運搬できないので、リポ蛋白が輸送体となりこれらの脂質を血液中で運んでいるのである。この点については、何故かタカノフーズ株式会社のサイト「納豆はコレステロール0」から、

血液とコレステロールの関係は?
http://www.takanofoods.co.jp/fun/cholesterol/cholesterol002.shtml (リンクはココ

 コレステロールは中性脂肪(=脂肪)とともに、血流にのって全身へ運ばれます。しかし、コレステロールも中性脂肪も脂質なので、そのままでは水が主成分である血液には溶けず、単独では移動できません。
そこで、水になじむよう、「アポたんぱく」という特殊なたんぱく質と結合し、「リポたんぱく」という粒子状の物質になって、血液中に存在、移動しています。
リポたんぱくは、カイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDLの5種類に大別され、大きさや比重、組成が異なります。

カイロミクロン
 最も大きなリポたんぱくで、小腸で合成されます。食品から吸収した脂質(おもに中性脂肪)を、筋肉などエネルギーが必要な組織へ運び、残りを肝臓へ運びます。肝臓で再合成され、VLDLとなります。

VLDL(超低比重リポたんぱく)
    肝臓で合成された脂質(半分以上が中性脂肪)を、全身の末梢組織まで運びます。その途中で中性脂肪が分解され、筋肉や脂肪細胞に送られます。残りはIDLに換わります。
 [中略]

LDL(低比重リポたんぱく)
    最も大きなリポたんぱくで、小腸で合成されます。食品から吸収した脂質(おもに中性脂肪)を、筋肉などエネルギーが必要な組織へ運び、残りを肝臓へ運びます。肝臓で再合成され、VLDLとなります。 [以下略]

 次に、「リポ蛋白リパーゼ(LPL)」については、酵素の一種であり、血液中を脂質がリポ蛋白で輸送されている際、リポ蛋白から中性脂肪を取り卸す役割を果たすものである。同じくサイト「脂質と血栓の医学」から、

リポ蛋白リパーゼ(LPL) http://hobab.fc2web.com/sub4-LPL.htm (リンクはココ

【ポイント】
 リポ蛋白リパーゼ(LPL)は、脂肪組織などで合成・分泌され、毛細血管の血管内皮細胞表面(脂肪細胞外)に存在する。リポ蛋白リパーゼ(LPL)は、細胞外で、血液中の中性脂肪(トリグリセリド)を、遊離脂肪酸とグリセロールに分解し、細胞内(脂肪細胞内など)に、遊離脂肪酸を取り込ませる。脂肪細胞では、リポ蛋白リパーゼ(LPL)により分解されて取り込まれた遊離脂肪酸は、アシル-CoAを経て、中性脂肪に再合成され、貯蔵される(LPLは、脂肪細胞の中性脂肪貯蔵を促進する)。
 なお、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)は、脂肪細胞内に存在して、トリグリセリドを、遊離脂肪酸とグリセロールとに分解し、遊離脂肪酸を、血液中に、放出させる(HSLは、脂肪細胞の中性脂肪分解を促進する)。

 リポ蛋白とリポ蛋白リパーゼとの意味がなんとなくわかると、結局、食事によって消化・吸収した脂質などが問題を起こすのだろうという点が垣間見れるのではなかろうか(書いてる本人も未だにピンときていないので、そろそろ先へ進もう)。


 脂質代謝異常に関連する疑わしい症例は、例えば、某掲示板の緊急自然災害板から、
 
862 : 名無しさん@お腹いっぱい。(関東・甲信越) : 2011/11/04(金) 14:17:11.46 ID:JrNX0Gtx [1/3回発言]
  何でこんなに荒れてんだよ…。体調不良書かれたら都合の悪い奴でもいんの?

  マイコプラズマの薬貰って飲んでたら、マジで下痢になる。
  副作用でなる、ってあったけど、咳で胸が痛い上に下痢で肛門まで痛めるって…orz

  あ。中性脂肪がかなり高くなってたけど、予防食材が今危険な玄米や雑穀…。
  皆ならどうする?中性脂肪高いままだと、直ちに健康に影響出るんだよな…。

864 : 名無しさん@お腹いっぱい。(東京都) : 2011/11/04(金) 14:41:44.61 ID:bSUHmSHi [1/1回発言]
  >>862
  揚げ物と酒をやめるだけで全然違うんでないの?
  あとは北海道か九州の胚芽米位にしといたらどーかな。
  [以下省略]

875 : 名無しさん@お腹いっぱい。(関東・甲信越) : 2011/11/04(金) 17:51:34.66 ID:JrNX0Gtx [2/3回発言]
  >>864
  酒、煙草、揚げ物無し。
  素うどんとかだと炭水化物が中性脂肪になるから、毎日野菜350g食えって医者に今さっき言われたorz
  そんな大量に無理だよ!トマトで重さ稼げって言われたんだけど、地元のしかトマト無いよ@栃木
 

 無理に少し脱線して、終わりの方で出てきた医者のアドバイスについて一言(前回記事の耐糖能障害に関連して触れようと思ったのだけど眠たくて断念したので・・・)。

 野菜を多く食えというのは、抗酸化物質を多く含んでいるのでそのとおりだと思うけど、コルチゾールの過剰の環境下だとすると、炭水化物を減らしすぎるのも問題となるのではないだろうか。なぜなら、血液中の糖分が上がらないようだと、コルチゾールの作用からすると、筋肉などのタンパク質の分解が活発になるおそれが否定できないからだ。

 特に、糖質制限食や低炭水化物ダイエットについては、先月、警鐘を鳴らす記事が某新聞社から出ていたので、ちょっと気になっているところ(額面どおり受け取っていいのか、悪いのか? 額面どおり受け取ると、これらの食事法はもともと危ない性質のもので、コルチゾールの過剰の環境下にあると、より一層危なくなりそうな予感)。

極端な炭水化物制限「生命の危険も」…学会警鐘
2012年7月27日 読売新聞
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=62329

低炭水化物ダイエットご用心…発症リスク高まる
2012年7月8日 読売新聞
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=61435


(つづく)

 

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注) ・8/22 タイトルなど変更。


「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (1)~(3)

2012年08月10日 |  症例(その他)

 前回の記事で取り上げた仮説、コルチゾール過剰原因説(●による健康影響の症状の多くがコルチゾールの過剰分泌に起因するものと考える説。影響の結果出現した症状の総体が「コルチゾール過剰症候群」。なお、コルチゾールは副腎皮質ホルモンの一種(糖質コルチコイド))に関連して、様々な場で報告された症状をみていこう。

 その前に仮説の背景を一言だけ述べておくと、以下のとおり:

放射線被曝 →酸化ストレスの亢進 →抗ストレス・ホルモンの分泌亢進 →コルチゾールの過剰


 では、前回記事の図中のステロイド系抗炎症剤(ステロイド剤)の副作用の項目(17項目)別に、問題の症状へのコルチゾールの関与の仕方、関連する疑わしい症例をあげていこう。


(1) 高血圧
 この症状にコルチゾールが関与するのは、コルチゾール(糖質コルチコイドの一種)が電解質コルチコイドの作用をあわせ持つためである。この点の解説は、例えば、サイト「調剤薬局日記」から、

ステロイド内服剤 の副作用
http://www.jade.dti.ne.jp/~ma-hata/20_suteroido.htm (リンクはココ

・・・このうち鉱質コルチコイドは、アルドステロンに代表され、「遠位尿細管において Naを再吸収し、Kを排泄する」という電解質代謝作用を持っています。

 一方、合成の副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)も、鉱質コルチコイドと同様の電解質代謝作用を示し、Naの再吸収やKの排泄を促進します。Na再吸収促進の結果、水分の貯留が起きやすくなり、副作用として浮腫や 高血圧が現われることがあります。 ステロイド剤の中で、リンデロンは この電解質代謝作用はほとんど無いのですが、それでも高血圧の患者に原則禁忌となっています。

 関連する疑わしい例は、以前の記事で紹介した、岩手の高血圧、栃木の高血圧の例があげられるだろう。ただ、高血圧に至る経路は他にもいろいろあるので(例えば、アルドステロン症など)、コルチゾール過剰という経路の寄与は高くはないのかもしれない。

栃木の中学生の高血圧 (2011年度調査)  2012/7/26
http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=cb0bc6d408fc69f3be5b715f3aac40a7
岩手における高血圧 2011.11月調査  2012/4/23
http://ameblo.jp/ak-47-feb11/entry-11230997303.html
 

(2) 浮腫
 この症状にコルチゾールが関与するのは、(1)の場合と同様で、電解質の代謝異常が起こるためだろう。

 関連する疑わしい例は、例えば、某掲示板の緊急自然災害板から、

262 : 地震雷火事名無し(大阪府) : 2012/05/18(金) 20:08:02.82 ID:xD/n3DhN0 [1/2回発言]
  足(スネから下)が両足むくむ。 被曝@横浜
  求む、被爆時の対処療法

  おそらく、靴下に付着した放射性物質で足が被曝か?
  この冬 急に悪貨
  とりあえず挙上して足首を大きく動かすと少し改善する

 なお、以前の記事で、放射線療法の副作用との類似性について触れたけど、長期的な副作用の一つに「リンパ浮腫」が含まれることを指摘しておこう。

放射線療法の副作用との類似性 (4) 症状のまとめ  2012/6/11
http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=6ac170b277184448c7093a5c6566a273

 ついでに、リンパ浮腫の解説は、例えば「むくみのページ」から、

リンパ浮腫の出来かた
http://www.mukumi.com/02_01_02.html (リンクはココ


(3) 耐糖能障害
 耐糖能障害とは、ブドウ糖が消費されにくくなった状態をいい、その原因は、インスリンの不足あるいはインスリン抵抗性によるとされている([医学用語辞典 MeDic」から、耐糖能障害 http://word.e-medic.net/word/%E8%80%90%E7%B3%96%E8%83%BD%E9%9A%9C%E5%AE%B3)。

 この障害にコルチゾールが関与するのは、以前の記事で触れたように、コルチゾールが「糖新生・血糖値の上昇」という作用を持つからであろう。インスリンが以前と同様の量で分泌され、インスリン抵抗性にも変化がなくとも、タンパク質を分解して糖の不足を防止する機構が働き糖の総供給が増えるので、異常がでやすくなっているのであろう。

8/13追記(コルチゾールとインスリンの関係に触れておかないと不十分なので追記):
 糖新生で高まったせっかくの血糖値をインスリンによって下げられてしまうと元の木阿弥になるので、コルチゾールは、インスリンのブドウ糖の取込みを抑制する作用を持っている。例えば、サイト「脂質と血栓の医学」から、

ステロイドホルモン
http://hobab.fc2web.com/sub4-Steroid.htm (リンクはココ

2.コルチゾールの作用
 [中略]
 生体は、ストレス(飢餓、寒冷、外傷など)の際に、脳の下垂体のACTH分泌を介して、副腎皮質からのコルチゾール分泌を急増させ、エネルギー源となるグルコースの供給を、促進させる。しかし、コルチゾールが、血中へのグルコースの供給を増加させることは、糖尿病を悪化させる恐れがある。コルチゾールは、インスリンの、インスリン受容体との結合親和性を低下させ(インスリン受容体数は減少させない)、インスリンによるグルコース取り込み促進作用を、抑制する。

 この症状に関連する疑わしい例は、以前の記事で紹介した、福島の子供の糖尿病の例であろう。

〔メモ〕福島の子供のメンタル症状と糖尿病  2012/5/17
http://ameblo.jp/ak-47-feb11/entry-11252711608.html
福島の子供の糖尿病の原因は? (1/2)  2012/5/22
http://ameblo.jp/ak-47-feb11/entry-11258132823.html


 また、以前の記事(ココ)で紹介したスイス人医師フェルネックス氏は今年5月の訪日後にインタビューを受け、その内容が7月にフランスの新聞(ラルザス紙)に掲載されたらしい。同氏は、その中で、若年性の糖尿病にも言及している。「Canard Plus ♡ Tomos und Entelchens Blog」にその記事の和訳があるので一部引用すると(なお、原文は仏文だが、リンクを探すと英訳文もあり)、

ミシェル・フェルネックス:チェルノブイリの教訓を無視する福島
lundi 6 août 2012
http://vogelgarten.blogspot.co.nz/2012/08/blog-post.html (リンクはココ

[記者]- 福島医大の医師達と意見交換された感想は?

[フェルネックス氏]- 私は同大学の教授四人に会うことが出来た。心臓科、泌尿器科、内科そして眼科の医者だ。彼らは全員放射能汚染に起因する疾患に関してまったく無知だったようだ。そして若い患者の間に心筋梗塞や糖尿病、眼科疾患が出現するのを見て大変驚いていた。・・・


 糖尿病に至る経路は他にもいろいろあるので(例えば、イットリウム原因説、セシウム原因説、内分泌異常説(バセドウ病経由説など))、コルチゾール過剰という経路の寄与は高くはないのかもしれない。


(つづく)

 

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注) ・8/13追記。

・8/22 タイトルなど変更。