ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (7-5)

2012年09月07日 |  症例(その他)

(更新履歴: 9/8追記2ヶ所。9/22追記)

 今回も以前の記事からの続き。

(7) 易感染性 (つづき)

 全数把握対象の感染症で一つ忘れていたので、追加しておこう。
   
(H) 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(劇症型溶連菌感染症)

 溶血性レンサ球菌(あるいは溶血性連鎖球菌)は細菌の一種で、「溶連菌」と略されることが多い。定義は、例えば、サイト「コトバンク」から、

溶血性連鎖球菌
http://kotobank.jp/word/%E6%BA%B6%E8%A1%80%E6%80%A7%E9%80%A3%E9%8E%96%E7%90%83%E8%8F%8C (リンクはココ

 溶連菌と略称。連鎖球菌の一種。ストレプトリジンO・Sという菌体外毒素(溶血毒)を産生し,血液寒天培地上に溶血環を形成する。・・・


 劇症型溶連菌感染症にはなじみがないと思うけど、「人食いバクテリア」による感染症の一種として知られている。最近だと国外の事例が報道されていた。東京スポーツの記事から、

米国で猛威!人食いバクテリア
2012年07月10日 18時00分
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/22017/ (リンクはココ

 「人食いバクテリア」が米国を震撼させている――。感染すると手足の皮膚が食い荒らされて壊死し、高い割合で多臓器不全に陥り死亡するという恐怖のバクテリアだ。


 「人食いバクテリア」の定義ははっきりしないけど、推測するところ、その感染による典型的な症状として上記記事のような症状が出るものを指しているようで、とりあえず次の3種類が知られているらしい。薬局「漢方のマルミ屋」のサイト「ナオルコム」から、

人喰いバクテリア
http://www.naoru.com/hitokui.htm (リンクはココ

人喰いバクテリアの種類
(1) 劇症溶連菌感染症
(2) ビブリオ・バルニフィカス感染症
(3) アエロモナス菌(アエロモナス・ハイドロフィラ)

 東スポの記事では、ジョージア州、アラスカ州、サウスカロライナ州の3つの事例に言及しているけど、原因菌がわかっているのはジョージア州の例のみのようだ(3番目の菌)。

 国内でも1番目の菌による感染症が増加しているみたいなのだが、報道をみかけた記憶がない。海外の例を報道しているところをみると、「また、パニックにならないようにとか、訳のわからない配慮でも働いているのであろうか」と心配になってしまう。

 さて、劇症型溶連菌感染症の解説については、国立感染症研究所のサイトから(同研究所は「溶血性レンサ球菌」の表記がお気に入りのようだ)、

劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ka/tsls/392-encyclopedia/341-stss.html (リンクはココ

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は突発的に発症し、急速に多臓器不全に進行するA群溶血性レンサ球菌による敗血症性ショック病態である。メデイアなどで「人食いバクテリア」といった病名で、センセーショナルな取り上げ方をされることがある。

   [中略]

臨床症状
 劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症(severe invasive streptococcal infection 、または streptococcal toxic shock‐like syndrome ;TSLS)の患者は、免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず、突然発病する例が多い。初期症状としては四肢の疼痛、腫脹、 発熱、血圧低下などで、発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群 (ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショック状態から死に至ることも多い。近年、妊産婦の症例も報告さ れている。・・・


 この解説はいろいろ分かってそうな雰囲気で書いてあるけど、肝心な点には言及していないようだ。肝心な点というのは、何故劇症型になるのかメカニズムはよく分かっていない、とされている点である。つまり、溶連菌自体はごくありふれた常在菌の一種なので、発症メカニズムが分かっていないということは、誰でも感染し得る可能性が否定できないということであり、免疫力が低下するならば、残念ながらより一層その可能性が高まるわけである。


・9/8追記
 劇症型溶連菌感染症の発症メカニズムについて解説した記事をみつけたので紹介しておこう。大阪大学歯学大学院のサイトの記事から、

A群レンサ球菌感染症の重症化メカニズムの解析
http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~mcrbio/kenkyuuterao1.html (リンクはココ



 上記の引用でいう「軟部組織壊死」については、「人食いバクテリア」との俗称の元となっている症状のようだが、その典型的な例には壊死性筋膜炎との病名が付いている。壊死性筋膜炎については、Yahoo!ヘルスケアから、

丹毒・蜂巣炎・壊死性筋膜炎
http://health.yahoo.co.jp/katei/detail/ST121020/2/ (リンクはココ

概説
・・・表皮の下には真皮、さらにその下には皮下脂肪織、その下には筋膜が存在しますが、表皮の下の皮膚感染症は、・・・丹毒、・・・蜂巣炎(蜂窩織炎〈ほうかしきえん〉)、A群溶連菌や混合感染による真皮から皮下脂肪織にかけての感染症で、浅層筋膜を中心として急速に周辺に拡大する壊死(えし)性筋膜炎に分類されています。

 
 劇症型溶連菌感染症の最近の動向については、国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)から、

溶血性レンサ球菌感染症 2006年4月~2011年
(IASR Vol. 33 p. 209-210: 2012年8月号)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrtpc/2485-tpc390j.html (リンクはココ

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症[(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)]:・・・2006年4月~2011年末までに報告されたSTSS患者は698例で、2011年に急増した(表1)。死亡例は248例であり、そのうち半数以上が発病から3日以内に死亡していた。

   [中略]

速報:2012年第28週現在、STSS患者報告数は146例であり、2011年第28週時点での127例を上回っている(図1)。このペースでいくと、2012年は200例を超える可能性がある。 (強調は引用者)


 上記引用で言及された「表1」についてはリンク先を参照してほしいが、「図1」については、以下のとおり。なお、2012年の最新のデータでは、第34週現在で169例となっている(8/26までの報告分)。
 

         図1 劇症型溶連菌感染症の患者月別報告数 (2006.4月~2012.6月)


 ついでに、溶連菌感染症一般について触れておこう。解説は、wikiから、

溶連菌感染症
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%B6%E9%80%A3%E8%8F%8C%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87 (リンクはココ

 最も一般的なのは「急性咽頭炎・急性扁桃炎」であろう。このうちA群溶連菌咽頭炎というのが感染症法上の定点把握対象の感染症に指定されている。その解説については、国立感染症研究所のサイトから、

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/alphabet/group-a-streptococcus/392-encyclopedia/340-group-a-streptococcus-intro.html (リンクはココ

 A群溶連菌咽頭炎の定点当たり報告数、最近の動向のまとめ(少し古いけど)については、同研究所のサイトから、

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 [定点当たりの週間報告数のグラフ、2002~2012年]
http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1646-03strepta.html (リンクはココ

IDWR [感染症発生動向調査週報] 2012年第20号<注目すべき感染症> A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
2012年5月20日
http://www.nih.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-idwrc/2252-idwrc-1220.html (リンクはココ

 定点当たりの報告数は全国ベースでみると過去10年に比して増加しているとはいえないものの、最新の感染症発生動向調査週報 (IDWR)では「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去発生動向総覧5年間の同時期と比較してやや多い」とされており(2012年第34週号の表紙。http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl.html。リンクはココ)、増加の兆しが観察されているのかもしれない。


・9/8追記
 重症型の溶連菌感染症に関し、平成22年(2010年)度予算において厚労省の研究班で関連の研究が行われていたようだ(「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析,その診断・治療に関する研究」)。その成果物がサイトで公開されているので紹介しておこう。

β溶血性レンサ球菌 2011年度版
http://strep.umin.jp/beta_hemolytic_streptococcus/index.html
(計9頁の構成で左欄の目次をクリックして閲覧可能)

 興味のある方は各自でリンク先をみてほしいが、一つだけ指摘しておこう。「2. 感染症例の疫学」の頁の上から5番目のQ&Aに重症型の溶連菌感染症(侵襲性感染症例)の疾患別の内訳に関する次のデータが掲載されているようだ。



        図2 重症型の溶連菌感染症の疾患の内訳(菌種別、成人例のみ)
        注)「GAS」はA群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)を、
      「SDSE」C群・G群溶血性レンサ球菌(Streptococcus dysgalactiae subsp.equisimilis)を、
      「GBS」はB群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)を示す。
    

 図2において「STSS」と表示された領域が劇症型溶連菌感染症にあたる部分である。免疫力の低下によって劇症型が増加しているということならば、敗血症・菌血症などの劇症型以外の重症型の溶連菌感染症も同様に増加傾向にあるのかもしれない。

 

・9/22追記

 ようやく報道で注意喚起がなされたようだ。読売新聞の記事から、

「人食いバクテリア」感染急増、昨年1・6倍に
2012年9月20日14時51分
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120920-OYT1T00675.htm (リンクはココ

 筋肉を覆う「筋膜」が手足で壊死(えし)したりする「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の患者数が昨年、前年の1・6倍に増えたことが、国立感染症研究所のまとめで分かった。・・・

・・・今年は9月上旬までに176人に達し、昨年の同時期より23人多い。60歳以上の男女と30歳代の女性の発症が多いが、増加の原因は分かっていない。


(つづく)


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