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嚢中の錐  「史記・平原君虞卿列伝」

2017-07-03 15:45:29 | Weblog


趙の都、邯鄲が秦に包囲された時、趙は平原君を使いとして楚に救援を求めることにした。

楚との合従を実現する為に、平原君は門下の食客から勇気や力量のある文武兼ね備えた20人を供に選び楚に行くと決めた。

平原君は言った。

「もし、平和裏に話がまとまれば良いが、話し合いで埒が明かねば、公衆の面前で楚王を脅迫してでも盟約を結び、必ず、合従(がっしょう・蘇秦の説いた外交策、強国秦に対抗する為、南北に連なる国で連合すること)をまとめて帰る。
同行の士は外では探さぬ。私の門下の食客の中から選べば十分である。」

19人を選んだ。残りには取るべき者が居らず、20人には欠けた。

門下に毛遂(もうすい)と云う者がいた。
進み出ると、自薦して平原君に言った。

「ご主君は楚と合従の盟約を結ぶ為に、門下の食客20人と共に楚へ行くと決められたとか。 同行する者は外では探さぬが、今一人足りない、と聞いております。 それならば、私を従者の一人にお加え下さい。」

平原君は聞いた。

「先生は私の食客となって何年になられるかな?」

「3年で御座います。」と毛遂は言った。

平原君が、

「そもそも、賢人が世にあるのは、袋に入れた錐の様に、その頭角が直ぐに現れるものだ。 今、先生は私の門下に来て3年になると云うことだが、
私の近侍は誰一人あなたを推薦しないし、私も噂一つ聞いたことがない。 これは先生に取り柄がないと云うことだ。
先生の同行はできぬ、ここにお留まり下さい。」と言うと、

毛遂は言った。

「私は、今日その袋の中に入れて頂きたいと申し上げているのです。
もし、もっと早く私を袋の中に入れていたなら、穂先が出るどころでは済まず、錐の柄まで現れ出ていた事でしょう。」

平原君はとうとう毛遂を同行させることにした。

19人は声には出さなかったものの、互いに目を合わせて嘲笑った。

楚に着くと毛遂は、19人と天下の情勢について議論を交わした。

19人はみな彼に敬服してしまった。

平原君は楚王と合従の盟約について話し合ったが、利害を述べるばかりで、早朝から話し合いを始めて正午になっても、まだ決まらなかった。

19人が毛遂を煽った。

「先生、出番ですぞ!」

毛遂は剣の柄を握りしめると、小走りに殿上に駆け上がり、
平原君に言った。

「合従を論じれば、利か害のどちらかで、二言あれば足りる。
それを、夜明けから始めて日が高くなってもまだ決まらないとは、如何なる訳ですか?」

楚王が平原君に聞いた。

「この者は何者ですかな?」

平原君が、

「私の従者です。」と答えると、

楚王は声を荒げた。

「不届き者め、私は貴様の主人と話しておるのだ。何しに参った!?」

毛遂は剣の柄を握りしめると進み出て言った。

「王が私を怒鳴りつけるのは、楚の兵が多勢であるからでしょうが、
今、私と王との距離はわずか十歩。
王が、楚が多勢であることを頼みにすることはできませんぞ。
王のお命は私の手中にあると云うのに、私を主人の前で叱りつけるとは、如何なる了見ですかな?
かつて、商の湯王(とうおう)は七十里四方の土地を足がかりに天下を治め、周の文王(ぶんおう)は百里あまりの土地を基盤に諸侯を従わせたと聞いています。
これは、彼らの兵が多かったからでは御座いますまい。
彼らが、情勢を把握し、自分の力を発揮したからでしょう。
今、楚の土地は五千里にも及び、百万の兵力を誇ります。
これは覇を争うだけの資本となりましょう。
楚のこの様な強大な力を以てすれば、誰もこの勢いを遮ることはできません。
秦の白起(はくき)は青二才に過ぎぬのに、数万の兵を率いて、楚を攻め、一戦目に鄢(えん)・郢(えい)都を落とし、
二戦目には夷陵(いりょう)を焼き払い、
三戦目には王の先祖が辱められました。
これは楚にとって百代経っても解けぬ恨みではありませんか。
趙国のものでさえも恥ずべきことだと思っております。
ところが、王は恥ずかしいと思われていない。
合従の盟約は楚の為です。 趙の為ではありませんぞ。
我が主人の前で、叱りつけられるとは、どう云うことか!」

楚王は言った。

「はい、はい、誠に先生のおっしゃるとおりだ。国を挙げて、合従の為に力を尽くそう。」

毛遂は更に聞いた。

「盟約は定まりましたな。」

「定まった!」

楚王が言うと、毛遂は楚王の側近に対して、

「鳥、犬、馬の血を持って参れ!」と命じた。

毛遂は銅の皿を捧げ持つと跪いて、楚王の前へと差し出した。

「先ずは、王が血をすすって、合従の盟約に誠意をお示し下さい。
次は我が主人、その次は私で御座います。」

こうして毛遂は殿上において合従盟約を結んだ。

毛遂は左手で血の入った皿を捧げ、右手で19人を呼び寄せながら言った。

「皆様もこの血を堂下ですすられよ。 皆様覚えておくと良かろう。
これが、俗に言う他力で本願を成就すると云うものだ。」

平原君は合従の盟約を結び帰国した。

趙に戻るとこう言った。

「私は、もう人の目利きはできぬ。 私は、人の目利きを、多く見積もれば1000人以上、少なくとも数100人はして来た。
天下の士を見落とすことはないと思っていたが、
ところが今まで、毛遂先生を見落としていた。
毛遂先生は初めて楚に行って、趙の地位を九鼎大呂よりも高めてくれた。 毛遂先生の弁舌の力は100万の大軍よりも強大である。
私はもう人の目利きはできぬ。」

そして、毛遂を上席の客とした。

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『嚢中の錐』意味:優れた才能があれば、必ず外に現れ、目立つこと。「嚢中」とは袋の中。

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