Mayumiの日々綴る暮らしと歴史の話

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◆相部屋の奇縁 死者、帰宅する

2024-05-21 11:53:24 | Weblog

写真の説明はありません。
絵図の左に流れるのが桂川 エピソードにある二条押小路や河原町は右の鴨川近く。(国立国会図書館蔵)

二条押小路(京都市)に米屋治兵衛という者がいた。
治兵衛は持病がある為、但馬の城崎温泉(兵庫県豊岡市)へ湯治に行くのがここ三、四年続く習慣であった。
八月の末に、またいつもの宿に着いたが、宿の主人が気の毒そうに、
「いつもの頃ならお待ちしていましたが、例年より遅いお着きなので、
河内の国からのお客人にお貸ししてしまいました。相宿では如何でしょう」という。
「いえ、私一人のことで、相宿でお話相手ができるのも結構なこと」と告げると、
河内の人も、一人で淋しかったところだ、と迎え入れてくれた。
二人は世間話などをして楽しく日を送っていたが、やがて河内の人は予定の湯治を終え、
「これまで親しくお付き合い頂いてありがとう存じます。今後も永くお付き合い願います」との挨拶。
「いえ、こちらこそ、末永く、また折りがありましたらお訪ねします」と、言い合って、
やがて河内の客は帰って行った。

九月の十三夜の頃、京都の治兵衛の家へ、桂川辺りに住む者が、慌ただしく訪れた。
「大変です、こちらのご主人、治兵衛さんとか申されるお人が、先頃の洪水で溺れて死にはった。
溺死人が多いので、遺体を引き揚げては名前を確かめていますが、
こちらのお名前が懐中の書き付けで分かったんでお知らせした次第で.....」とのこと。
治兵衛の息子の理兵衛は、びっくり、とるものもとりあえず急いで桂川の現場へと駆け付けた。
川辺の遺体は、水死人の為、顔形も定かでないが、着類はまさしく父のもの。
懐中の縫目に米を売った書類があり、疑うべくもなく父親なので、棺をあつらえ、京市内に帰り、
河原町の万福寺に葬った。母子は泣く泣く、一七日の仏会を行なって治兵衛の急死を嘆き合っていた。

夜が更ける頃、戸を叩く者があり、「おい、帰ったぞ、ここを開けてくれ」という。
家中は仰天し、思いもよらぬ急死を遂げた為、亡魂が迷って来たと、
念仏を声高く唱え、いよいよ深い悲しみに沈んだ。

子一ツ(夜十二時)に近い頃、隣りの戸を叩いて、大声で呼ぶ声がした。
「治兵衛が今帰って来た。わしの家へ入ろうとしたが、戸を閉めて泣き声がするばかり。
何しろ戸が開かないから、仕方がない故ここへ来た、開けて下され」
この声を聞いて、近所の家々は恐れをなし、錠を強くさして出ようとしない。
暫くしてその呼ぶ声もしなくなった。

丑三ツ(午前二時)頃、万福寺の門に疲労困憊した治兵衛が辿り着き、
「押小路の治兵衛で御座います、和尚様にお目にかかりたい......」と息も絶え絶えに訴えた。
寺男は、その声を聞いて答えなかったが、しきりに訴えるので、慄え慄え、和尚に伝えた。
和尚は、「幽魂が三途に迷うたのか、さもなくば狐狸が人をたぶらかしに来たのか、
いずれにせよ衆僧ども、よく観念せよ」と命じ、寺僧一同は鐘を鳴らし、経を読み、客を仏前に連れて来た。
客は「何事があったのですか、何しろ昼間から何も食べておりません。何か食べさせて下され」と訴える。
寺僧が仏前の飯を与え、食べ終わったところで、二十五条の袈裟を打ちかけ、輪廻得脱の意を説きかけた。
客は、納得せぬ様子で、「いったいこれはどういうことです」
「汝は溺死して既に七日、業にひかれて出離す能わず、そうそうに成仏せよ!」と数珠で頭を打ちすえた。
すると、客は、「ああ、気の毒に、河内の人は溺死したのか。儚いことだ......」と落涙した。
やがて気を取り直し、自分が河内の人と相宿になり、その人が帰国するに当り、盗賊に旅支度を盗まれたというので、
別れに際して自分の着物と帯を与えたが、帰国の途中、桂川の洪水で溺死し、その衣裳から人が見間違えて自分が死んだと誤解したのであろう、それにしても思いもよらぬ不便な死だった......と繰り返し嘆いた。
和尚はようやく納得し、息子の理兵衛に父親が存命でここに健在であることを知らせた。
河内の人の家族は、いつまでも帰らぬ主人を案じ、息子が城崎まで尋ねに行き、
帰り道に桂川の溺死人のことから、京都の治兵衛の家に辿り着き、治兵衛からいっさいの事情を聞くことができた。
息子は万福寺に行き、墓を掘り返して父親の死を確認したいと願ったが、
寺は墓を掘り返すことは堅く禁じられている為、奉行所に届けた後、ようやく棺を開いて父親であると確め得た。
これで最初からの筋道が判明したのだった。
             



                               (『窓のすさみ』 巻一)
   




               ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼


                                江戸時代 怪奇事件ファイル



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菜根譚 前集140項

2024-05-21 11:43:52 | Weblog


牡丹(Tree peony) Paeonia suffruticosa 王者の風格 富貴 高貴 恥じらい

徳者才之主、才者徳之奴。有才無徳、如家無主而奴用事矣。幾何不魍魎猖狂。

徳は才の主にして、才は徳の奴なり。
才有り徳無きは、家に主なくして、奴、事を用うるが如し。
幾何ぞ魍魎ありて猖狂せざらん。
 

「人徳と才能」
人徳は才能の主人であって、才能は人徳の召し使いである。
才能があっても人徳のない人は、例えば家の中に主人がいなくなり、
召し使いが勝手に振る舞っている様なものである。
どうして、化け物どもが出て来て猛り狂わないことがあろうか。

 


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