私が25,6歳の頃だったか、
私にそっくりな人がいる、という目撃情報が相次いだ。
「アンタが転職したのかと思った」
「あまり似てるから、二度見した」
「声かけようと思って近づいたら、違った」
私のそっくりさんは、静岡の繁華街の伊勢丹デパートに近いブティックで働いているらしい。
そうまで言われたら、この目で見てみたい。
しかも、私の興味をそそったのは、その人が男だということである。
これは何がなんでも確かめねば気が済まぬ。
実は私には出生の秘密があって、生き別れの双子の片割れだったりして。
そうだとすると、三姉妹の中で私だけ妙に違っているのも納得。
ああ、きっとそうに違いない。
私の妄想は弾けた。
見に行く、と言う私に、友人が言った。
「早まらないほうがいいよ。ドッペルゲンガーだったら、あんた死ぬよ」
「まさか、そんな話嘘に決まってるじゃん。それにアッチは男だよ?」
「もし本当だったらどうすんのさ。それにアッチが性転換してる可能性だってあるんだし」
いくらなんでもそんなことはないと思うけど、友人は真顔だ。
忠告はありがたいが、好奇心のほうが勝つ。
その日が週の初めで、週末に1人で見に行くことにした。
自分にそっくりな男と対面したら、いったい何を言えばいいのか。
向こうも私を見て驚くだろうな。
ドキドキしながら、その店の前を通ってみた。
中には女性の店員が一人いる。
時間差出勤かもしれないので、他で時間をつぶしてから再びのぞいてみたが
同じ人がいるだけだった。
店の前をうろうろすることしばし。
とうとう私はそっくりさんに会うことなく、家に帰った。
その後、誰ひとり、その男を見ていない。
「命拾いしたじゃん」
前述の友人が言った。
今でも不思議。
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