Carmel reilly「with angels beside us」より
Helen 22
母が亡くなってから、父は飲んだくれてばかりいた。私は15歳で妹はまだ11歳だった。私は母の死を受け入れるだけでも必死なのに、妹の母親がわりもやらねばならなかった。
私は何度も父にお酒をやめるように頼んだけれど、おまえには俺の気持ちなんかわからないんだ、と言われておしまいだった。
私と父はそのことについて真面目に話し合ったこともあるが、父はどんなに母が恋しいか、私たちがいてどんなに誇りに思うか、と言って、また飲みに出掛けてしまうのだった。
私は妹を寝かせ、学校にやり、洗濯をし、食料品を買い、といったことに毎日追われた。
とうとう、恐れていたことが起きた。
父はオーブンをつけたまま、ドアに鍵もかけずに廊下で酔いつぶれて寝てしまった。
こんなことをしていたら、父はそのうちお酒がもとで死んでしまうだろう。
少なくとも2回、私は父から車の鍵を取り上げたことがある。酔っぱらっているのに、車でお酒を買いに行こうとするからだ。
そんなこんなで、私は学校の勉強など手につかなくなっていった。
ある夜、私はベッドに横になって、飲みに行った父の帰りを待っていた。
怒りというより、情けなさでいっぱいだった。
そして私は、誰か助けて!と祈った。
夜の1時頃、庭の扉が開く音がして、父が帰ってきたのがわかった。
そのあと、いつもなら鍵束が鳴ってドアの鍵を開ける音がするのだが、数分たっても静かなままだ。私は窓から庭を見下ろしてみた。
すると、父は芝生の上で大の字になって寝ており、会ったこともない女の人がその横に膝まづいていた。その人は何か父に話しかけているようだった。
私は何が起きているのか確かめようと降りて行った。女の人はどこにもおらず、父は座り込んで、呆けたような顔をして、あたりを見ていた。
私は手を貸して、酔っぱらった父を家にいれた。
その夜、父はとても妙な表情をしていたのを覚えている。まるで見るもの全てが不思議に見えているような顔だった。ちょうど、クリスマスの朝の子供のように、全てが新しく、全てがスリルに満ちている顔。
驚くことに、翌朝、父は一杯の紅茶をもって私を起こしにきた。降りていくと朝食の支度は既にできていた。
父はモゴモゴと、昨日遅く帰ってきたことを謝った。そして私たちを学校に送ってくれた。
父はとても静かだった。
その日、父は家中をくまなく掃除し、洗濯をし、アイロンがけをして、洗濯物はきれいにたたみあげた。
フリーザーからいくらかの食べ物を出して温める代わりに、母が作ったようなちゃんとしたシチューが用意されていた。
父はまだ静かで、妹を寝かせたあと、私を居間に呼んで、これまでのことを許してほしいと謝った。
私はとても嬉しくなって、父を強く抱き締めた。
母がいなくなって初めて、私は大人ぶらなくてもよく、比護される子供なのだと感じた。
それから、父は一滴のお酒も飲まずに1年を過ごした。
現在は、たまにワインを一杯だけ飲む程度だ。
あの夜から、父は、飲んだくれて床に寝転ぶ父から、尊敬できる父に戻ったのだ。
数年前になって、父はあの夜に起きたことを話してくれた。
酔っぱらって帰ってきた父は芝生の上で寝転がり、このまま寝てしまおうと思っていたらしい。厳寒の季節にそんなことをしたら、それは死を意味するというのに。
寝ていたら、女の人がそばにいることに気づいた。その人は父の耳に囁きかけた。
父ががどんなに私を傷つけているか、どんなに自分勝手で、私の信頼を裏切っているか。
もっとちゃんとした父親にならなければいけない。
でも忘れないでほしい、母はいつも、今でも私たちのことを愛していると。たとえ何がどうだとしても。
父はしばらくぼうっとしていたが、突然、堰をきったように感情がわいてきたのだそうだ。
どんなに母を愛しているか、母と過ごした時間の素晴らしさ、そして、母がいなくなっても、私たちが自分には残されていることを、しみじみと幸せだと思った。
父はこのことを忘れてしまうのを恐れて、水をたくさん飲み、ノートに書き記した。
父は母に恥じないように、ちゃんとした父親になろうと心に誓った。
私はあの女の人は、私の祈りが届いて母のメッセージを携えて現れた天使だったと信じている。
とにかく、ほんとうによかった。
私が父を尊敬できなかったのは、たったあの時期だけだ。私はとうの昔に父の行いを許しているし、父がなぜあんなふうになったのかも、少しは理解しているつもりだ。