太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

天使に出会った実話. 23

2024-08-02 07:02:06 | 天使に出会った実話
Carmel reilly「with angels beside us」より

Tomas.  38

アルコールは、知らぬまに僕らをを蝕んでいく。
僕は結婚していて、子供が二人いる。
僕は昔からお酒を飲むことが好きだった。夫婦でディナーにワインを飲んだり、子供を預けてバーに出かけることもあった。
でも、そんなこともだんだんしなくなっていったのは、金銭的なことと、当時仕事でストレスが溜まっていて、早く家に帰ってたくさん飲んで、酔っぱらってしまいたかったからだ。

飲み方が足りないと、寝付かれず、嫌な汗をかいて痙攣し、おまけに変な夢をみる。それで、翌日は前日よりも多くの酒を飲む、というわけだ。
飲むとイビキをかくので、妻を起こさないために自ら居間のソファで眠るようになった。
そのアイデアは僕には合理的だったが、妻はそんなことよりお酒を減らせばいいのに、と言ったが、僕は耳を貸さなかった。
その時僕は夫婦の関係よりも酒を飲むことのほうが大事だったのだ。

僕はいわゆるアルコール依存症だ、と思っていた。
特にひどいことや恥ずかしいことをするわけじゃない。ただ時として、妻と口喧嘩になるくらいだ。
これはアルコール中毒なんかじゃなく、ストレス解消のために少し飲み過ぎているだけだと思った。

どんなふうにアルコールがあなたを蝕んでいくのか、ひとつ例をあげてみよう。
酒を買いに行く時、最初は何をどれだけ買おうか迷ったけれど、そのうち僕はまず手始めにビールを12本買うようになる。
なぜなら特別セールで、4本の値段で6本買える。別に全部飲まなくたって、積んでおけばいいのだ。それは自分を正当化するには十分だった。

で、最初の6本をあっという間に飲んでしまうと、必然的に残りも全部飲んでしまうことになる。僕はもう、ちゃんとした判断もできなくなっていた。

そして、転機がきた。

ある夜、僕はさんざん飲んだあと、まだ飲み足りなくて、お酒を買いに行くと妻に言った。
妻は僕を見て、悲しそうな顔をしたが、僕はそんなことはどうでもよかった。妻はそのまま子供達に本を読み聞かせ始めた。既に妻は僕のことを諦めてどうでもいいと思っていたことに、僕は気付かなかった。

歩いて行くつもりだったが、歩くのはかったるいから、車で行こうと思い付いた。
これは本当にバカな思いつきで、人に話すのはみっともないのだけど、何が起きたかを正直に説明したいので恥を忍んで書く。

車に乗り、走り出した。
酔っぱらって運転するのはとっても楽しい気分だった。
そして、当然ながら僕はコントロールを失い、車は滑って道路から外れ、路肩の草むらに突っ込んで止まった。
僕はついていたとしか思えない。誰も殺さず、自分も怪我をせず、車を壊しただけで済んだのだから。

僕は座ったまま、呆然としていた。
その時、誰かが車に乗っていることに気付いた。
酔って幻覚をみたんだろうと思うかもしれないが、幻覚なんかじゃない。
男性が後部座席に座っていて、

「ほう、こりゃヒドイね。そう思わないか」

と言った。
彼の目は厳しく、しかし優しさに満ちていた、これは天使の目だ。

彼の目を見ると、妻と子供達が僕の葬式に参列しているのが見えた。
そして僕と妻が家にいて、互いにもう何の関心もないふうだった。
さらには、子供達が僕にしきりに話しかけているのを、酔っている僕はめんどくさくて、追っ払いたがっていた。それはまさに、子供らにとってトラウマになりうることだ。

僕は自分がどうしようもなく愚かに思えた。
このまま事故で死んでしまったら、なんと馬鹿馬鹿しい人生の終わりだったか。
ルームミラーを見ると、男性はまだそこにいて、指先でこめかみを叩いて見せた。
それは父がよくやっていた「よく考えてみな」という意味の仕草だった。
まばたきしたら、もう男性は消えていた。

僕は壊れた車をおいて、歩いて家に帰り、妻に謝った。
起きたことを話し、これまでの行いを心から詫び、本気の証拠にこれから一ヶ月、酒を飲まないと誓った。妻は私を抱き締めてくれた。

僕はそれから、ましな夫であり、父親であるように努めた。最初の数週間は酒が飲みたくて辛かったけれど、今は体が慣れて、もう飲まなくても全く平気になった。

あれから10年。
あの時、転機が訪れたことに心から感謝している。土曜日の夜や結婚式などにはワインを飲んだりはするが、それ以外は酒なしで楽しく過ごしている。僕の人生はもう酒に舵を握られてはいない。

アルコールというのは、別に法律違反でもないし 誰でも買えるだけに、実はクスリよりもたちの悪いドラッグではないかと思う。
天使が、バカな僕が自分の人生を棒に振るのを防いでくれたのだ。