ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

居宅介護支援事業者の「特定事業者加算Ⅱ」はどこがとるのか 報酬単価のアップが基本

2009年08月13日 | 論説等の原稿(既発表)
「シルバー産業新聞」に連載の「介護保険10年 ケアマネジメントいまとこれから 白澤教授の快刀乱麻」の第5回が掲載されたので、再掲します。

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第5回 居宅介護支援事業者の「特定事業者加算Ⅱ」はどこがとるのか 報酬単価のアップが基本

 今回の介護報酬改定の最も大きな特徴は、40数個の加算制度を創ったことである。居宅介護支援事業者についても、8つの加算がある。その内で経営に大きく影響し、事業者間の経営的な格差を生み出す「特定事業者加算Ⅰ」や「特定事業者加算Ⅱ」がある。後者の加算は今回の介護報酬改正で新たに創設されたものであり、一定の体制を整えたうえで、常勤・専従のケアマネジャー2名以上と主任介護支援専門員が配置されていることを要件にしている。

 この「特定事業者加算Ⅱ」は、従来の「特定事業者加算Ⅰ」はごく少数の事業所しかとれず、敷居を低くし、取りやすくしたものである。ただ、このⅡの加算がどの程度の事業者がとれるかと言えば、これもごく僅かに過ぎない。

 私事であるが、昨年度に大阪市の居宅介護支援事業者を対象に悉皆調査を行ったが、その結果、3人以上の常勤職員を雇用している事業者は、2割弱に過ぎず、ほとんどが零細事業者であることが分かった。そのため、「特定事業者加算Ⅰ」ほどではないとしても、現状では2割弱程度しか加算をとれないのではないかと推測していた。

 さらに、主任介護支援専門員研修会が始まり、特定事業者加算Ⅱを取る予定の事業者を優先して受講を認めることになっている。大阪府を例にすると、特定事業者加算取得での受講者数は約400人(前半)であり、大阪府にある約2740ヵ所の居宅介護支援事業者の内の、各事業者が1名のみを受講派遣していると仮定し、多く見積もっても2割弱程度しか「特定事業者加算Ⅱ」は取れない。

 このような結果をみるにつけ、今回の介護報酬は何を意味するのであろうか。規模の大きい事業者が必ずしも質の高いサービスを提供しているとは限らない。逆に言えば、独立型の一人ケアマネの事業者では、サービスの質とは言わないが、中立公正が担保されていることは確かであり、こうした事業所への加算の話はどこに行ったのであろうか。

 その意味では、居宅介護支援事業者の特定事業者加算は、ごく一部の規模の大きい事業者に限定して、介護報酬のパイを分配したことになる。さらに問題になることは、特定事業者加算がとれた場合でも、利用者負担には関係がなく、利用者からの評価を受けなくて済むことである。これは、他のサービス事業者での加算と根本的に異なることである。

 利用者に質の高いサービスを提供するという加算の根拠が十分でない場合には、介護報酬の基本単価を上げることを基本にすべきであるというのが、私の主張である。ましてや、居宅介護支援事業者はほぼ全てが赤字であり、経営面で根本的な底上げをしなければならないならない時期にあると認識している。

 今回の「特定事業者加算Ⅱ」を、介護報酬単価に戻してみると、まずは20%の要介護者について、300単位の「特定事業者加算Ⅱ」が付いたと仮定し、これを全要介護者に分配すれば、1事例60単位に相当する。この結果、現状の要介護1~2は1000単位から1060単位、要介護3~5は1300単位から1360単位となり、介護報酬単価は5%程度アップすることになる。もう一つ、150単位がついている「独居高齢者加算」や「認知症加算」が全事例の3割を占めていると仮定すれば、これを全ケースに配分すれば45単位となり、両者の加算を合わせると、介護報酬の基本単価を1割近いアップが図れたはずである。

 改定前の居宅介護支援事業者の収支差率は、-17~18%であり、ここで仮定した単価をアップしたところで、なお赤字は続くであろう。そのため、介護報酬単価を土俵に乗せて、黒字転換に向けて改定議論をしていくことが不可欠である。その意味では、今回の「特定事業者加算」は規模の大きい事業者に有利に働き、規模の小さい事業者に不利に働くことが鮮明になり、両者間で経営面での格差を生み出すことになってしまった。