ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

「在宅ケア新時代」の確立を(「日本在宅ケア学会誌」巻頭言)

2009年08月19日 | 論説等の原稿(既発表)
 日本在宅ケア学会の今後についての抱負を書いたが、この学会は、看護の皆さんが多く入会していただいているが、他の医学、リハビリ関係、介護、福祉の領域の皆さんに入会し、活躍していただきたいと願っている。また、もっと実践現場で働いている方々にご参加願いたいと思っている。そこで、学会誌の巻頭言を再掲しておく。

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「在宅ケア新時代」の確立を 

 今年度から2012年度のまでの3年間,当日本在宅ケア学会の第5期理事長を,第4期に続いてお引き受けすることになった.次の3年間に,日本の在宅ケアの研究・教育は何を目指し,そこから,どのような在宅ケアの実践を拡大・深化させていくことが必要であろうか,またそこから,日本の在宅ケアに関する研究・教育者と実務者が集う本学会およびその会員の担うべき使命について考えてみたい.

1.日本における在宅ケアの現状

 本学会は,介護保険制度の創設と期を一にしており,介護保険法が成立した1997年の1年前の1996年に誕生した.それは,介護保険制度は高齢者の在宅ケアを推進するという理念のもとで作られ,それを理論的に支え,在宅ケアを推進していこうという熱意ある仲間が,保健・医療・福祉に関わる様々な領域の方々に呼びかけ,学会を立ち上げたと言える.

 そして,本学会が創設され,13年の歳月が流れたが,在宅ケアの研究・実践は確かに進み,介護保険制度での,施設ケアに比較される在宅ケアに占める財源割合は,創設時は4割であったが,2008年度でみると6割弱にまで伸びてきている.同時に在宅生活をしている要介護者・要支援者数も,1,840人から2,637万人に増えてきている.このような表面的な成果はあるとしても,現実の在宅ケアには,様々な課題が横たわっていることも事実であり,学会としてはそれらの課題に対応した研究を一層推進し,在宅ケアを量的な観点からでなく,地域で住んでいる高齢者の生活の質という観点から,貢献している責務を負っている.

2.本学会に求められる研究課題
 
 具体的な研究課題としては,地域での医師と看護師の連携のあり方,看護と介護の機能的な役割分担,ケアマネジャーと医師・看護師・介護福祉士だけでなく,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,管理栄養士,薬剤師等専門職だけでなく,多様な専門職との連携方法のあり方,病院や老人保健施設とそこの退院者を円滑に地域で受け入れるべくサービス・デリバリー・システムの確立,さらには病院と診療所の病診連携のあり方といった基本的な問題をさらに究明し,あるべき方向を示していくことが急務となっている.

 同時に,こうした在宅ケアを担う専門職の確保と人材育成の課題が横たわっている.とりわけ,昨今介護職の離職と人材不足が緊急課題となっているが,こうした課題に対して,エビデンスに基づき,地域ケアを担う人材養成に対して提言をしていく役割を担っていかなければならない.これについては,制度面での待遇改善といった社会に向けての課題と,学校教育とその連続する継続教育についての課題,さらにはスーパービジョン体制といった職場環境にもメスをいれていく研究課題がある.

 さらに,地域で高齢者が生活するためには,介護保険制度のサービスは勿論であるが,在宅医療を進めていくサービスや高齢者の権利擁護に関する制度,また住宅サービスの充実が不可欠であるが,そうしたサービスに関する研究を一層推進し,個々のサービス内容の質的充実を図っていくとともに,それを支える財源拡大にも寄与できることが,本学会の役割である.これら制度・サービス面での課題を解明していくことに加えて,現実の在宅ケアの大きな担い手となっている家族にも照準を当て,家族介護者のあるべき方法に関する研究を深めていかなければならない.同時に,在宅ケアは海外では広くコミュニティ・ケアでもって総称されるが,近隣,NPO,ボランティアといった人々を含めたコミュニティのあり方についての研究課題を有している.

 在宅ケアは高齢者だけでなく,身体・知的・精神といった障害者(児)の課題でもある.おりしも,2006年に障害者自立支援法が成立したが,ここでは障害者の地域での自立生活を支援することを理念にしている.そのため,本学会も高齢者に加えて,障害者領域での在宅ケアに関する研究にも関心を拡げていくことが求められる.この場合の在宅ケアでは,医療・保健・福祉・介護・住宅といった領域だけでなく,就労・教育や社会参加といった領域が不可欠な要素になってくる.このような専門家を一層会員として迎え入れ,研究の幅を拡げていかなければならない時期にきている.

3.本学会の特徴と使命

 以上のような研究課題を総括すると,日本の在宅ケアは,在宅ケア利用者を増やしていく量の時代から,一人ひとりの利用者が質の高い生活を確立していく「在宅ケア新時代」を迎えている.これを実現するためには,本学会は,会員全員の努力でもって,「在宅ケア新時代」の牽引者としての役割を果たしていかなければならないと考えている.

 そのためには,本学会は自らが有している特徴を大いに活かし,「在宅ケア新時代」に向けて貢献していくことが大切である.その特徴の第一は,在宅ケアに関わり医学,看護学,保健学,理学療法,作業療法,栄養学等の医療系の方々と,社会福祉学や介護学といった福祉系の方々が参加し,交流することで,在宅ケアの水準を高めていく学際学会であることである.この特徴を活かし,これら以外の在宅ケアに関わる専門領域の方々,また現在会員割合が低い福祉系の専門職に参加を得て,学際的に深みと広がりのある研究集団になっていくことである.

 本学会の第二の特徴は,研究者と実務者を擁していることである.このことは,両者が学会を介して,在宅ケアに関する実践と理論の橋渡しをすることができることにある.この利点を活かし,実践現場と教育現場との両者が共同研究等を通して一層交流を深め,多くの在宅ケアに関するエビデンスを蓄積してことを願っています.そのため,現状では,研究者の割合が7割程度と少し高く,実務者の入会が最近は増加していますが,実践現場からの参加者を増やしていく必要があると考えています.

4.本学会の具体的な活動に向けて

 こうした学会の特徴を活かすために,一つは,実務者の会員数を増やしていく中で,在宅ケアの事例なり症例研究の雑誌の刊行ができないかと考えている.これが刊行できれば,学際的な在宅ケアの専門誌として,研究面だけでなく,日本の在宅ケアの実践・制度面にも大きく寄与できると考えている.

 二つめの提案は,本学会で明らかになったエビデンスを社会的に明らかにしていくことで,実践や政策の発展に寄与することである.実践の発展への寄与については,学会の社会貢献でもある公開講座を実務者や市民向けに開催していくことである.これについては,本学会はこうした活動に取り組んではいるが,十分ではなく,この充実を図り,広く在宅ケアに関わっている専門家や地域住民に対する啓発的・教育的機能を果たしていく必要がある.

 一方,研究成果を介護保険制度や医療保険制度に活かしていくために,看護学では看護系学会等社会保険連合が(社)日本看護協会のもとで組織され,活動を始めている.本学会もこの看護系学会等社会保険連合に参加しているが,学会の研究成果が体系的・円滑に研究と政策が繋がっていく仕組みを作りことに,本学会は積極的に関与していく必要があると認識している.そのため,福祉系においても,このような団体が作られことに関心を向け,積極的にこのような研究集団である学会と実務者集団である団体が一体となり,研究成果が政策にも影響していく時代を作っていかなければならないと思っている.

 以上のような活動を進めるために,今期から理事定数を4名増やし,16名とし,評議員も10名増やし,40名にした.理事や評議員の皆さんに加えて,学会の主役である会員の皆さんと一緒になり,日本在宅ケア学会が学問的にも社会的にも一層発展することに力を尽くしていきたいと思っている.


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