ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

「ストレングスモデルーその実践と検証」シンポジウムに参加して

2009年08月20日 | 社会福祉士
 カンサス大学のソーシャルワーク大学院のチャールス・ラップ教授を迎えて、早稲田大学で「C.ラップ先生来日記念学術フォーラム」というテーマでストレングスモデルについてのシンポジウムに参加した。この日の参加者は、チャールス・ラップ教授が基調講演とコメンテーターとなり、シンポジストは、谷中輝男日本精神保健福祉士養成校協会会長、野中猛日本精神障害者リハビリテーション学会会長、岩上洋一日本精神保健福祉士協会からの代表、大島巌地域精神保健福祉機構代表理事と私であった。座長は野田文隆大正大学教授・ブリテッシュコロンビア大学特任教授であった。

 それなりの、意義ある議論ができたと思ったが、ここでの大きなテーマは、ストレングスモデルは日本で定着できるのか。定着できるためには、何が必要かというテーマであった様な気がする。

 私は、思想的に利用者の能力や意欲といったストレングスを理解する理念については、日本ではさほど難しくなく定着すると思っている。逆に、日本人はそうした人々の強さを捉える能力が長けており、問題はないと感じている。問題の第一は、利用者がそうしたストレングスを出すことが少ないのが日本人の特質ではないかと思っている。多文化社会のアメリカでは、人々は自己主張が当たり前であり、その意味では、ストレングスを余り表出しない日本では、いかにそれを発見していくかが、ストレングスモデルが定着する課題であるように思う。これは、アメリでの支援者と利用者の関係は言語的コミュニケーションが中心であり、アメリカに比べて日本では非言語的なコミュニケーションが大きな要素になっていると言える。

 そのため日本では、利用者に対する観察を通じて感じたり、気づくことが、ストレングスモデルには不可欠であると思った。同時に、そうした感じたりすることは、日本人の場合には、アメリカ社会に比べて、国民は共通の文化や価値をもっており、気づきや感じることは容易であると考えている。さらに言えば、日本の支援者はそうした方法を有しており、そうした方法をアメリカ等に逆輸入していくべきであると考えている。

 第二の日本で定着する条件は、ストレングスモデルはリスクと直結していることである。例えば、精神障害をもつ利用者が、30歳になり「高等学校に行きたい」というストレングスを有しているとしよう。これを実現するために、ストレングスモデルではケアプランを作成することになる。その結果、利用者が学校に行くことから生じてくるリスクの管理が必要になる。これがアメリカであれば、利用者が自己決定し、自己責任としてのケアプランになる。そのため、リスク管理さえ十分行っており、契約をしていれば、ストレングスモデルは、スムーズに活用されることになる。

 ところが、日本でストレングスモデルを貫徹し、万が一リスクが生じた場合には、おそらく支援者側が責任を取らされることになる可能性が高い。それは、例え、利用者との契約をきちっと行っていた、様々なリスク管理の工夫をしていても、である。そのため、支援者は、ストレングスを活用するよりも、「転ばぬ先の杖」という安全なケアプラン作成になってしまい、ストレングスモデルの定着は難しいと言える。

 それでは、日本ではどのようにしてこのような状況を克服していき、ストレングスモデルを定着させていけば良いのであろうか。

 そのためには、日本に自己責任の文化を創っていることも大切である。同時に、支援者には、専門職としてリスクをできる限り回避するための対応を十分に行っておき、さらにそうしたリスクが生じた場合に、そうした専門職を守る保険等のシステムを職能団体が作り上げる必要があろう。