Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

「洋画家の美術史」 続き

2021年03月17日 20時16分01秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等

   

 本日は退職者会の作業はサボり。午前中は何もせずそれこそ「無為」に時間を過ごし、午後からは温かい陽気の中を、妻に連れられて新しくなった近くのスーパーを訪れた。下見がてらに若干の買い物。
 午後からようやく2時間半ほどの読書タイム。それも途中で1時間ほど寝てしまった。読んだ本は「洋画家の美術史」(ナカムラクニオ、光文社新書)。軽めの文章で、読みやすいが‥。
 読み終えていた第二章の佐伯祐三、坂本繁二郎を再読。第三章の梅原龍三郎、長谷川敏行、東郷青児、熊谷守一、第四章の曾宮一念まで。

「佐伯祐三は大阪にある古刹、光徳寺の次男として生まれた。‥佐伯といえば、パリの街角を描いた作品で有名だ。煤けて、くすんだ石壁のマチエール。繰り返し貼られ、剥がされた広告ポスターやチラシの跡。その何気ない画面を鋭い筆で写し取った。特に「文字」を絵画の画面に大胆に取りこんだ画家として興味深い。実は、寺の息子だから「文字を写すこと」にこだわった‥。佐伯にとって、憧れたバリの壁の文字は、崇拝する対象なのだ。彼は、ボロボロになったポスターの文字を、祈るように写し取った。そういった類の作品だからこそ、普遍的な美しさを保っている‥。愛おしいパリの文字を、絵画全体を使って埋め尽くしたかったのだ。‥「パリで死んだ」夭折の天才画家としての情報が広まったことで西洋的なイメージが定着してしまったが、本来は地味で渋く、日本的で禅画的ともいえる作風なのだ。」(第二章 成熟する「和製洋画む革命 佐伯祐三)

 佐伯祐三が「文字」にこだわったということ、ならびにそれが、その生い立ちであるお寺に生まれたことにあるという言及は、頷けるものだと感じた。私も好きな画家で、同じように感じていたがその由来がよくわからなかった。よく作品を見たいと思った。
 文字というものに神聖さを感じたり、美を感じ、言霊が張り付いていると思う感性が、象形文字・表意文字である漢字文化圏に色濃く残っている。そのような意識と、表意文字を使用する西洋での文字の文化への違和感と親和性の双方から私は考えてみたいと思った。
 しかし末尾の「日本的で禅画的」というのは飛躍がありすぎる。「日本的」「禅画的」が何をどういうイメージなのか、私にはわからない。何か魔法の言葉のようで、何かを語ったようで何も語っていない。意味するようでいて何も意味していない空虚な結論だと思える。

「(モランディのように)日常のオブジェを渋い色彩で描き続けた。「皮肉なことだが、新しいということを目ざすときほど、個性は消えている」とも言っている坂本は、「能面」を愛し、30点以上制作した。‥坂本の作品は、能と似ている。妄想の芸術だ。「絵は悟りだと思う。絵は、こちらが向こうをつかんだ力である。‥絵は悟りである。非人情です」。坂本は、昭和の画壇のなかで、孤高の存在でありながら偉大な画業を遺し、日本の洋画のことを誰よりも考えながら、87歳で亡くなった。西洋の物質文明に対抗し、最後まで東洋の美を追い求め、高い精神性を画面に塗りこめたのだ。」(第二章 坂本繁二郎)

 私が美術作品を好んでみるようになったきっかけともいえる坂本繁二郎なので注目して目を通した。モランディからは対象の評言の仕方を取り入れた、と私も思うが、モランディは対象はごくありふれた日用品であったと思う。坂本繁二郎は能面や能衣装など、対象を厳選している。坂本は容器である霧箱をモランディのように描いているが、それは日用品ではない。その違いが私にはまだ解けていない。「西洋の物質文明に対抗し、東洋の美を追い求め、高い精神性」どれもが何かを言ったようでいて、何も語ったことにならない、空虚な言葉に頼った結語だと私は思う。私は、このような表現を避けて、きちんと語りたいと思いながら言葉が見つからずに、もどかしい思いを重ねてきた。
 厩の月と馬の最晩年の作品から、私は何を感じているのか、考え続けている。漱石が坂本繁二郎の初期の「うすれ日」の牛に感じた「何か考へてゐる」と評したとき、対象とそれを描く作者の意識の上での距離感と、画面の奥行き感の相互作用が、鑑賞者に考える契機となっていると指摘したのだと私は感じた。うまく表現できないが、今でもどう表現したらよいか、ずっと悩んでいる。自分の表現力のないことを恨んでもいる。
 著者のような表現では私にはうまく伝わらなかったことだけは、記載しておきたい。入門書であるので、致し方ないのかもしれない。あとは自分で考えろ、といわれたと思っている。



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