shuの花日記

山や近所で見かけたお花をエピソードを添えて掲載しています。お花の説明は主にウィキペディア、花図鑑を参考にしています。

アポイ岳

2024-08-03 05:30:00 | 山行・旅行
アポイ岳(標高810m)は言わずと知れた花の名山である。田中澄江氏も「花の百名山」と「新・花の百名山」の両方に選んでいるが、それ以前からこの山は固有植物が多いことで有名だった。
もう一つアポイ岳を有名にしているのが、世界でも珍しい橄欖岩(かんらんがん)地質である。ご存じの方も多いと思うが、両者は大いに関係している。

日高山脈は約1,300万年前に、2つの大陸プレートが衝突して生じた。アポイ岳はその南端に位置している。大陸衝突の際、地殻の下にあるマントルの一部が突き上げられ現れたのがアポイ岳である(火山以外のたいていの山は地殻の隆起によって生じている)。そのためこの山は橄欖岩(かんらんがん)という、極めて珍しい地質でできている。
橄欖岩には一部の植物の生育を阻害する成分が含まれており、そのためアポイ岳の植生は極めてユニークになっているのである。

さて、トムラウシ山から下山して、次に向かったのがアポイ岳である。夕刻に登山口近くのキャンプ地に着いて、テントを張った。

ハイキングの様子をご覧いただく前に、田中澄江氏の「花の百名山」の一節をご覧いただきたい。
『南にのびた日高山脈が、襟裳岬で太平洋に沈み込もうとする直前に、辛うじて一息入れてふみとどまった形で、東にも西にも海をしたがえてそびえたったのがアポイ岳である』
アポイ岳の地理的条件を説明するのに、これほど分かりやすい文章を他に知らない。併せて地図をご覧になるとその地理がよくお分かりになると思う。

■ 小さな縮尺の地図(地図をクリックすると大きくなります。)


■ 軌跡を記した地図(地図をクリックすると大きくなります。)


それでは出発しよう。
翌朝、5時55分にキャンプ場を出発した。アポイ岳ジオパークビジターセンターの脇が登山口となっている。キャンプ場の受付もビジターセンターだった。
 

登山道には一合目から九合目まで標柱が立っており、五合目までは遊歩道のように整備された道が続いていた。
 

また、ヒグマが出没するため、クマ除けの大きな鐘も複数設けられていた。


最初に観た花はきれいなハクサンシャクナゲだった。まだ標高が100m程度しかない所にハクサンシャクナゲが咲いているのに驚いた。ハクサンシャクナゲは、標高が380m付近にある避難小屋付近まで、たくさん観られた。
・ハクサンシャクナゲ(白山石楠花、Rhododendron brachycarpum、ツツジ科ツツジ属シャクナゲ亜属の常緑低木)


写真のようにベンチがある休憩所が五合目までに5ヶ所あった。親切この上ない。


大きな看板に書いてある説明もありがたいが、小学生が作った標語が身に刺さるのではないだろうか。


また登山道脇の樹木に樹名板が取り付けられていて、これも親切なことで嬉しかった。
  

樹名板が取り付けられていた樹木は、この他にミヤマハンノキ、トドマツ、ミズナラ、キタコブシ等があった。
五合目近くで観たハクサンシャクナゲ。


7時15分に五合目にある避難小屋に到着した。
 

五合目か先は背の高い樹木がなくなり、亜高山帯から高山帯の趣となった。標高が810mしかない山でこれだけ亜高山帯から高山帯の趣があるのは、高緯度であることに加え、過酷な気象条件が関与しているのだろう。
登山道には岩が露出していて、その隙間や草地にイブキジャコウソウが咲いていた。
これまでこの花を見た山は、谷川岳や尾瀬の笠ヶ岳といった主に蛇紋岩質の山だった。橄欖岩や蛇紋岩はマグネシウムを多く含んでいるが、イブキジャコウソウはそういった地質を好むようだ。
・イブキジャコウソウ(伊吹麝香草、Thymus quinquecostatus 、シソ科イブキジャコウソウ属の小低木)
日本では、北海道、本州、九州の、温帯から寒帯の石灰岩、蛇紋岩、安山岩地帯に広く分布する。








 

続いて観たのは黄色い花だった。葉を観るとキンロバイのように思えた。この植物も蛇紋岩質や石灰岩質の山に生育するようだ。
・キンロバイ(金露梅、Dasiphora fruticosa、バラ科キンロバイ属の落葉小低木)
日本では、北海道(夕張山地の崕山(きりぎしやま)・芦別岳・アポイ岳)、本州(早池峰山・焼石岳・船形山・谷川山系・至仏山・八ヶ岳・南アルプス)、四国に分布し、亜高山帯から高山帯の蛇紋岩地や石灰岩地の岩礫地に生育する。




七合目付近で観たのは、オトギリソウの仲間のようだった。図鑑で調べるとこの山の固有種の一つであるサマニオトギリと分かった。「サマニ」はこの山がある様似町のことだが、名前の由来はアイヌ語の「サンマウニ」(朽ち木のある所の意)とのことだ。
順序が逆になったが、「アポイ」はアイヌ語の「アペ(火)・オイ(多い所)・ヌプリ(山)」が略されたもので、「大火を焚いた山」という意味とのことである。 昔、アイヌの人々がこの山で火を焚き、鹿の豊猟をカムイ(神)に祈ったという伝説に由来している。
・サマニオトギリ(様似弟切、Hyericum samaniense、オトギリソウ科オトギリソウ属の多年草)




続いて白い花を観たが名前が分からなかった。やはり図鑑で調べたら、この山の固有品種の一つであるアポイハハコの蕾のようだった。
・アポイハハコ(別名タカネヤハズハハコ;あぽい母子、Anaphalis alpicola f. robusta、キク科ヤマハハコ属の多年草)




 



登山道には岩場も多く、雨の日は滑りそうに思えた。
 

北側に日高山脈の山々が連なるのが見えた。標高は高くないものの、険しそうな稜線が続いて見えた。


九合目まで来ると頂上はもうすぐだ。不思議なことに山頂には樹木が林立して見えた。


九合目の先で観たのがこの花だ。田中澄江氏がこの山を代表する花として挙げたアポイマンテマだ。この山の固有変種である。実物を観るのはもちろん初めてだった。
・アポイマンテマ(あぽいまんてま、Silene repens var. apoiensis、ナデシコ科マンテマ属の多年草)




8時45分に山頂に到着した。
 

山頂は樹木に被われていて展望は利かなかった。


山頂に祀られていた祠に手を合わせ、10分ほど休憩して山を下りた。


帰り道で少し離れたハイマツの中にセリ科らしい花を観たが、名前は分からなかった。


三合目辺りまで下った所でエゾシカに遭った。珍しいことではないようだ。


11時13分にテントへ戻った。

アポイ岳 (完)
コメント (12)
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