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伊東良徳の超乱読読書日記

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レーン ランナー3

2013-07-03 00:10:08 | 小説
 家庭の問題や周囲の人間関係を引きずりながら走る高校生加納碧李が挫折し(ランナー)、その後の復活戦で、唐突に現れた超高校級のライバル三堂貢と好勝負を演じた(スパイクス ランナー2)後、走りたい、三堂に勝ちたいという欲求を持ち始めた加納碧李と加納に興味を持った三堂の次の大会に向けた日々を、周囲の人物のエピソードを入れて描いた続編。
 陸上選手を題材にした暗めの青春小説の体裁でスタートさせたシリーズを、続編でライバルを登場させてスポーツドラマに変身させ、3冊目のこの本ではスポーツドラマのクライマックスとなるべき試合はこの作者の例によって期待だけさせて描かず、1冊目と同様の周辺人物の人間ドラマを比較的明るめのトーンに変えて(登場人物を成長させ、吹っ切らせて)続けています。
 この作者の代表作/出世作の「バッテリー」でも「完結」の1冊前の5巻でそれまでの主役たちの友人のひねくれキャラ瑞垣クン・吉貞クンのしゃべりでページをかせぎ続けましたが、この本も同様で、半分くらい加納の友人のマネージャー久遠君と三堂の従兄弟坂田君の語りで持たせています。この流れからすると、この「ランナー」シリーズも、続編が書かれるとすれば、ラストは「バッテリー」同様のパターン(あえて書きませんが、私には勘弁してくれよ、これはないだろ的な)なんだろうなと思えてしまいます。


あさのあつこ 幻冬舎 2013年5月10日発行
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労働関係訴訟の実務

2013-07-02 00:37:10 | 実用書・ビジネス書
 東京地裁労働部の裁判官が、労働事件で実務上比較的よく問題となる論点について、これまでの判例を整理し、訴訟での労働者側・使用者側の主張・立証上の注意点をまとめて説明した本。
 現役もしくはついこの前まで東京地裁労働部にいた裁判官が、労働事件の重要論点での裁判官の考え方を書いたという本ですから、労働事件を取り扱う弁護士、特に東京で労働事件を取り扱う弁護士にとっては、宝物のような本です。もっとも、30項目、本文522ページに及ぶこの本を、読む前の段階では労働事件の裁判で問題になりそうな論点は網羅されていると思えたのに、読んでいくと、ではここはどうなる、こういうときはどうだろうと次々と疑問が生まれ、これでもなお議論の基礎・とっかかりが整理されたくらいに思え、改めて裁判実務の奥深さを実感してしまいました。東京地裁労働部の裁判官が労働事件の類型別に実務の考え方、審理の進め方を解説するという同趣旨の本としては、判例タイムズ社の「労働事件審理ノート」があり既に3版を重ねていますが、この「労働関係訴訟の実務」の方が説明が長く取られていることと、要件事実・立証責任のブロックダイヤグラムを書いていない分だけ読みやすいかなと思えます。どちらにしても法律家業界の人以外の通読はほぼ無理でしょうけど。
 労働事件を取り扱い労働部とつきあいのある弁護士には、裁判官ごとの書きぶりに裁判官の個性を感じて興味深い点もあり、ところどころ従来の判例を踏み越えた意見にこれは東京地裁労働部の共通理解だろうかと頭を悩ませたりといった、外の業界、さらには弁護士業界でもふだん労働事件をあまり扱っていない弁護士とは違う独自の読み味というか読後感がある本です。どこがどうというのは人間関係もあり言いにくいところもありますが。
 細かいことですが、1年単位の変形労働時間制を採用した場合の対象期間中の一部だけ変形労働時間制を適用した労働者(対象期間中に採用・退職・配転があった場合など)の時間外労働の計算式が「時間外労働時間=1年単位の変形労働時間制により労働させた期間における実労働時間-[労基法37条1項に基づき割増賃金を支払わなければならない時間-40時間×(上記期間の暦日数÷7日)]」としている(77ページ)のは誤りで、条文にあわせると「時間外労働時間=1年単位の変形労働時間制により労働させた期間における実労働時間-40時間×(上記期間の暦日数÷7日)-労基法37条1項に基づき割増賃金を支払わなければならない時間」とするか(こっちの方が条文に忠実)、括弧でまとめたいなら「時間外労働時間=1年単位の変形労働時間制により労働させた期間における実労働時間-[労基法37条1項に基づき割増賃金を支払わなければならない時間+40時間×(上記期間の暦日数÷7日)]」とすべき(要するに「40時間…」の前の符号が誤り)ですし、実質的に割増賃金対象がわかるように書くだけなら「時間外労働時間=1年単位の変形労働時間制により労働させた期間における実労働時間-40時間×(上記期間の暦日数÷7日)」でいいと思います。労基法32条の4の2の条文が「労基法33条または36条1項の規定により延長しまたは休日に労働させた時間」=労基法37条1項に基づき割増賃金を支払わなければならない時間を除外しているのは、これについては規定をしなくても37条1項で割増賃金が支払われる(言い換えれば対象期間の一部適用でなく全部適用の場合でも割増賃金が支払われているはずで、一部適用労働者にも既に支払われているはずだから精算の必要がないはず)からで、説明する際には結果としてこれに当たる時間もそうでない時間も割増賃金が支払われることに違いはないと言ってしまって問題ないですから。技術的な規定で、なかなか読みにくいところではありますが(ただ、それだけに解説書ではよりわかりやすい書き方にして欲しいところです)。


白石哲編著 商事法務 2012年6月25日発行
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