伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

新装版 アメリカの日本空襲にモラルはあったか

2007-07-19 22:34:45 | ノンフィクション
 第二次世界大戦中のアメリカの戦略爆撃について、米軍ないし同盟軍内部での意思決定の過程と議論を紹介した本。
 日本への空襲(特に東京と広島)が時期的にも最後であり、被害が大きかったことから、それを論じる部分が多くなっていますが、イタリアやバルカン諸国、ドイツへの爆撃も論じられていて、日本語タイトルは日本での販売用に付けたもの。
 冒頭で20世紀初めの航空隊では死傷率が50%以上にもなっており、絶えざる死の存在は敵国民の殺戮についてのパイロットの感じ方に間違いなく影響を与えたとの指摘(29~31頁)が目につきます。
 現実の第2次世界大戦の過程では、自国の軍人の死傷を減らすことができるのならばそのために敵国の民間人多数が死ぬことを躊躇しない、住宅地の爆撃で労働者の殺戮により生産力を落とし恐怖によって敵国の士気を破壊することができれば戦争が早く終結する(でも実際には無差別爆撃で米軍への憎しみから結束が固まることの方が多い)、戦略爆撃や核兵器で戦争を早く終結できればそうしない場合に死ぬことになった軍人や民間人の命を救ったのだからかえって人道的、人道問題はそれ自体よりもそれによる世論(特に米国内の世論)が米軍の存立に影響しないかという観点から気にするというような考えが繰り返し語られています。日本に対してはバターンの死の行進等の残虐行為が無差別爆撃への抵抗感を減らしたとも。原爆の投下に当たって、京都が外されたのはけっこうギリギリの線だった(202~204頁)ことも紹介されていて意外でした。
 バルカン諸国への無差別爆撃が米軍への憎悪を呼び、女性と子どもを攻撃しないと宣言したソ連に支持が集まった(83~84頁)という話も興味深く読みました。
 戦略爆撃については、ドイツのロンドン空襲や日本の重慶爆撃が先行しているわけですが、アメリカ人が米軍の戦略爆撃をそれらへの報復という書き方ではなく、加害者としての米軍をその内部での議論を分析するという形で書いていることには、一種の潔さを感じます。著者自身は戦略爆撃を悪と断じて書いているわけではないのですが、当事者の言い訳を書き連ねる中で自ずから問題を浮かび上がらせています。ちょっと終盤がくどい感じですし、テーマからして重くて読みにくいですが、原爆投下はしょうがない発言とその顛末を見るにつけ、読んでみる価値があるかなと思います。


原題:Wings of Judgement : American Bombing in World WarⅡ
ロナルド・シェイファー 訳:深田民生
草思社 2007年6月6日発行 (初版は1996年、原書は1985年)

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