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伊東良徳の超乱読読書日記

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ヒポクラテスの誓い

2022-06-06 22:53:16 | 小説
 メス捌きの技量、豊富な知見、判断の正確さを持ち合わせ圧倒的な能力を持つが傲岸不遜を絵に描いた性格と相手を選ばず歯に衣着せぬ物言いをする60代半ばの解剖医光崎藤次郎が率いる浦和医大法医学教室に、指導担当の津久場教授の指示で押し込まれた研修医栂野真琴の語りで、異状死体の解剖を低予算で依頼ししかも光崎の手により予想外の死因が発見・確認できて救われることが再三ならずの埼玉県警が光崎に頭が上がらず言いなりになるという構図で、事件性が認められない死体を光崎が関心を持つと強引に解剖に持ち込み、その結果予想外の事実が発覚するというストーリーの短編連作。
 光崎は60代半ばで白髪のオールバック、背丈は真琴と同じくらいかやや低い(12ページ)、足の遅さに閉口した(25ページ)、と語り手の栂野に評されています。年代と背丈から、私的には親近感を持ちます。光崎の能力に感銘を受けてコロンビア大学からやってきた准教授キャシー・ペンドルトンは「お世辞にも美人とは言いかねる。意志の強そうな太い眉と鰓の張った頬。意地の悪い言い方をすれば、名前と指先の綺麗さだけが彼女の女らしさだった」(5ページ)と栂野に評されています。私は、キャシーのスッキリとした正義感とサバサバした態度にとても好感が持て、ウジウジと内心で愚痴ばかり言っている栂野(この作品では本文では容姿の描写はありませんが、表紙のイラストでは整った顔ではあるものの不満げな仏頂面。第2作で「若くて可愛い娘」(ヒポクラテスの憂鬱文庫版267ページ)とされていますが)よりもよほど惹かれます。
 若者が専門性の高い分野や訴訟リスクの高いもの、多忙だったり緊急性の高いものを避けたがることを批判する光崎と、選り好みして何が悪いと居直る栂野の会話(14~17ページ)。どこの世界でも似たような状況ですね。弁護士の場合も、近年は労働者側で労働事件を扱う弁護士が減り、若手はほとんどが会社側=使用者側をやりたがります。そういう風潮なんですよね。


中山七里 祥伝社文庫 2016年6月20日発行(単行本は2015年5月)
「小説NON」連載
 
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