1955年にアラバマ州でバスボイコット運動が始まったときにニューヨークの反戦組織「戦争抵抗者連盟(WRL)」から派遣されてモントゴメリに乗り込みキング牧師に非暴力の戦略や戦術を指導し、公民権運動のピークとなった1963年のワシントン大行進を計画し成功に導いた立役者でありながら、1953年に同性愛行為で逮捕投獄されていたがためにそれまで所属していた非暴力運動団体から追放されその後も表に立つことがはばかられ、近年までその功績が評価されてこなかった運動家バイヤード・ラスティンの伝記。
兵役拒否(良心的兵役拒否者に対する民間公共奉仕も拒否)による投獄後刑務所内での人種分離に抵抗を続けていたが、原爆投下を受けた反戦運動のために組織から早期出所を指示されると刑務所長に「今後は刑務所での人種統合を目指す闘いはやりません」と手紙を書いておとなしくし続けて出所したり(87~96ページ)、1946年の連邦最高裁での「州間バスにおける人種分離は憲法に違反する」(注:この時点では州内のバスについては違憲と判断されていない)との判決を受けて人種混合チームで南部をめぐりバスに乗車する(白人用の席に座る)運動を企画したがこの最高裁判決をとった全米黒人地位協会(NAACP)のマーシャル弁護士からディープサウスには行くな、白人を刺激するなと忠告されると行き先をアッパーサウスだけにした(97~109ページ:そのため、ディープサウスのアラバマ州でのフリーダム・ライドは1955年のローザ・パークスらを待つことになります)など、理念的で先鋭な方針を出しながらも柔軟な姿勢というか現実的な対応をしてきたバイヤードが、組織から男性の恋人と別れるよう指示されると「頭では分かっているんだ、別の解決法を見つけなくちゃいけないって」といいつつ、「性の好みはぼくの人格の一部だ。これを捨てたら、自分が自分でなくなる」といって男性の恋人との関係を続け(94~95ページ)、気をつけてはいたが注意が足りず1953年1月に同性愛行為で逮捕された(130ページ)ということをどう評価すべきでしょうか。ガンディーについてもキング牧師についても、非暴力不服従という思想や理念の純粋さではなくそれを運動に結実させていった実務的な姿勢をこそ評価している私(そのことは、私のサイトに掲載している小説「その解雇、無効です!ラノベでわかる解雇事件」の第11章で書いています)の立場からは、バイヤードのこだわりには疑問があり自重すべきだったというべきなんでしょうけれども、そういう弱さというか、欠陥もあるのが人間なんで、愛すべきともいえ、しょうがないなぁという印象もあります。

原題:TROUBLEMAKER FOR JUSTICE
ジャクリーン・ハウトマン、ウォルター・ネーグル、マイケル・G・ロング 訳:渋谷弘子
合同出版 2021年9月5日発行(原書は2019年)
兵役拒否(良心的兵役拒否者に対する民間公共奉仕も拒否)による投獄後刑務所内での人種分離に抵抗を続けていたが、原爆投下を受けた反戦運動のために組織から早期出所を指示されると刑務所長に「今後は刑務所での人種統合を目指す闘いはやりません」と手紙を書いておとなしくし続けて出所したり(87~96ページ)、1946年の連邦最高裁での「州間バスにおける人種分離は憲法に違反する」(注:この時点では州内のバスについては違憲と判断されていない)との判決を受けて人種混合チームで南部をめぐりバスに乗車する(白人用の席に座る)運動を企画したがこの最高裁判決をとった全米黒人地位協会(NAACP)のマーシャル弁護士からディープサウスには行くな、白人を刺激するなと忠告されると行き先をアッパーサウスだけにした(97~109ページ:そのため、ディープサウスのアラバマ州でのフリーダム・ライドは1955年のローザ・パークスらを待つことになります)など、理念的で先鋭な方針を出しながらも柔軟な姿勢というか現実的な対応をしてきたバイヤードが、組織から男性の恋人と別れるよう指示されると「頭では分かっているんだ、別の解決法を見つけなくちゃいけないって」といいつつ、「性の好みはぼくの人格の一部だ。これを捨てたら、自分が自分でなくなる」といって男性の恋人との関係を続け(94~95ページ)、気をつけてはいたが注意が足りず1953年1月に同性愛行為で逮捕された(130ページ)ということをどう評価すべきでしょうか。ガンディーについてもキング牧師についても、非暴力不服従という思想や理念の純粋さではなくそれを運動に結実させていった実務的な姿勢をこそ評価している私(そのことは、私のサイトに掲載している小説「その解雇、無効です!ラノベでわかる解雇事件」の第11章で書いています)の立場からは、バイヤードのこだわりには疑問があり自重すべきだったというべきなんでしょうけれども、そういう弱さというか、欠陥もあるのが人間なんで、愛すべきともいえ、しょうがないなぁという印象もあります。

原題:TROUBLEMAKER FOR JUSTICE
ジャクリーン・ハウトマン、ウォルター・ネーグル、マイケル・G・ロング 訳:渋谷弘子
合同出版 2021年9月5日発行(原書は2019年)