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伊東良徳の超乱読読書日記

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労働法実務 労働者側の実践知

2020-03-14 15:42:52 | 実用書・ビジネス書
 労働事件で労働者側の弁護士として訴訟等にどのように臨みどのように対応すべきかということについて、実務的な立場から著者の経験を踏まえて解説した本。
 同じく専ら労働者側で労働事件を取り扱う弁護士として、共感し納得するところの多い本です。裁判のさまざまな場面、特に準備書面の作成と書証提出、尋問の場面で、試みうることのアイディアとともにそれにより得られる可能性がある成果とそれにより逆効果となるリスクがさまざまに指摘されているところに経験豊かな弁護士が書いたものとしての重み、奥行きを感じます。裁判等での弁護士の実務は、通り一遍のマニュアル的な対応ではうまくいかず、それぞれの事案での事実関係、証拠の状態、それまでの展開、裁判官の反応等を踏まえて格別に考えて行う必要があります(ただこなせばいいのではなく勝ちたいのならば)。「勝訴に向けた糸口が容易に見つからない事案では、『逃げて』しまいたくなることもある。しかし、事案が困難であればあるほど、証拠や事実経過を精査して、勝訴に導くストーリーを描き出せるよう、『考え抜く』ことが求められる。」(34ページ)としているのは、至言だと思います。それをもしその勝つことが難しい(つまり労働者側にかなりの問題がある)事件の依頼者から言われたらうんざりしますが。
 解雇事件で裁判官が解雇無効(判決なら労働者側勝訴)の心証を持っているときの和解水準として、地裁段階では「バックペイに、半年ないし1年分程度の賃金相当額を加算する例が多いように思われるが、地裁段階で、3年分程度の水準で和解が成立することもある」、1審勝訴して高裁段階では「バックペイに加え、3~5年分程度の賃金相当額で和解に至る例も珍しくない」と書かれている(212~213ページ)のは、実際は著者のように労働事件の経験豊かでかつ意識の高い弁護士の場合は、と読むべきであり、著者はおそらく他の労働者側の弁護士もこの程度の線で頑張るべきだという思いを込めて書いているのではないかと思います。私は、著者と同様に、勝ち筋の解雇事件で労働者側が合意退職和解でよい(どうしても復職という意向でない)場合はバックペイ+1年分とか、バックペイと関係なく総額で2年分とかは取るべきだと考えて和解に臨んでいますし、1審で4年分以上の賃金相当額で和解した経験もあります(当然、いろいろな有利な事情があったからであって、普通にそんな額が取れるわけではありません)が、まわりで見聞きしていると勝ち筋の事件でもずっと低い額で和解している例が多いように見えます。勝ち筋なのに低い水準で和解する弁護士が多いと裁判官の意識水準も下がりがちになるので、労働者側の弁護士が全体として意識を向上させなければ、という思いは私も日頃感じており、著者もたぶん同じ気持ちを持っているのではないかと思うのです。
 1冊で、労働事件全体を解説しており、特に解雇事件、残業代請求、労働条件の切り下げについては、相当に高い水準の解説がなされていて、弁護士が労働事件の実務を学ぶためにはとてもいい本としておすすめできます(私が編集代表を務めた「労働事件ハンドブック」2018年版 第二東京弁護士会労働問題検討委員会編 労働開発研究会 に匹敵するものと評価します)。


君和田伸仁 有斐閣 2019年12月30日発行
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