大学の法学部、法科大学院(ロースクール)の学生が試験の答案やレポートを書くときの文章の書き方を指導する本。
冒頭で、「法律家はどういう文章を書くべきか」「普通とは違った文章が求められる」との表題の下、「まず、読者のみなさんには、ここで言葉や文章に対するイメージを根本的にあらためて、まったくゼロからスタートすることをお願いしたい。」「法律家が用いる言葉やその文章は、日常生活において私たちが用いる言葉や文章とも、そして文学者や哲学者の言葉や文章とも、質的に異なったものなのである。」(12ページ)と宣言されます。いったいどこに行き着くのだろうと、驚き、また期待しましたが、「文章作法」を論じるこの本でいちばん長いPartⅡでは、ひたすら普通の論文形式の文章の書き方の指導に終始し、より実践的な書き方に入るPartⅢも前半は同様で、後半の「3 組立を考えて書く」(148~154ページ)で事案を分析して問題点を抽出し、適用すべき規範(ルール)を発見し、それに当てはまる事実を抽出するということ、「6 根拠を示す」(167~170ページ)で根拠を示す際に「判例同旨」の濫用を戒めているとかに法律家向けの独自性が感じられる程度で、文章術、文章作法としての目新しさは今ひとつ感じられませんでした。
むしろ、法的思考について概説したPartⅠが、一般人に法的なものの考え方、思考の枠組みを学んでもらうのにいいかなと思いました。法的論証について「ごく一般的・抽象的にいえば、それが正しい法的解決といえるかどうかを判断する基準とは、その結論を支える論拠ないし理由付けの説得力の程度である。もし決まった答がないのに、それでも結論を出さなければならないとしたら、各自がその結論が妥当だと考える理由を述べて意見をぶつけあった上で、多くの人が納得できる結論を選ぶほかはない。」(30ページ)としているところなど、弁護士として読んでも学者さんとも通じ合える認識・感覚だと思います。もっとも、「実は、法的判断が高度の説得力という意味での合理性・正当性を有するための条件は、必ずしも一定の理屈で決まることではなく、当該分野の法律家の間においてこれまでの長い歴史を経る中で徐々に形成されてきたものである。それは、法律専門家の間において『文化』のような形で存在し、守るべき約束事は『作法』のようなものとして共有されている。そこで法律を学ぶ人は、時間をかけてこの専門領域の文化を学び、作法を身につけることを求められる。」(38ページ)は、例えば弁護士が裁判官を説得する場合にも当てはまり弁護士として実感するところでもありますが、業界人以外の読者は、そう言われてしまうと、読んでいて投げ出したくなると思います。

井田良、佐渡島紗織、山野目章夫 有斐閣 2019年12月20日発行(初版は2016年12月)
冒頭で、「法律家はどういう文章を書くべきか」「普通とは違った文章が求められる」との表題の下、「まず、読者のみなさんには、ここで言葉や文章に対するイメージを根本的にあらためて、まったくゼロからスタートすることをお願いしたい。」「法律家が用いる言葉やその文章は、日常生活において私たちが用いる言葉や文章とも、そして文学者や哲学者の言葉や文章とも、質的に異なったものなのである。」(12ページ)と宣言されます。いったいどこに行き着くのだろうと、驚き、また期待しましたが、「文章作法」を論じるこの本でいちばん長いPartⅡでは、ひたすら普通の論文形式の文章の書き方の指導に終始し、より実践的な書き方に入るPartⅢも前半は同様で、後半の「3 組立を考えて書く」(148~154ページ)で事案を分析して問題点を抽出し、適用すべき規範(ルール)を発見し、それに当てはまる事実を抽出するということ、「6 根拠を示す」(167~170ページ)で根拠を示す際に「判例同旨」の濫用を戒めているとかに法律家向けの独自性が感じられる程度で、文章術、文章作法としての目新しさは今ひとつ感じられませんでした。
むしろ、法的思考について概説したPartⅠが、一般人に法的なものの考え方、思考の枠組みを学んでもらうのにいいかなと思いました。法的論証について「ごく一般的・抽象的にいえば、それが正しい法的解決といえるかどうかを判断する基準とは、その結論を支える論拠ないし理由付けの説得力の程度である。もし決まった答がないのに、それでも結論を出さなければならないとしたら、各自がその結論が妥当だと考える理由を述べて意見をぶつけあった上で、多くの人が納得できる結論を選ぶほかはない。」(30ページ)としているところなど、弁護士として読んでも学者さんとも通じ合える認識・感覚だと思います。もっとも、「実は、法的判断が高度の説得力という意味での合理性・正当性を有するための条件は、必ずしも一定の理屈で決まることではなく、当該分野の法律家の間においてこれまでの長い歴史を経る中で徐々に形成されてきたものである。それは、法律専門家の間において『文化』のような形で存在し、守るべき約束事は『作法』のようなものとして共有されている。そこで法律を学ぶ人は、時間をかけてこの専門領域の文化を学び、作法を身につけることを求められる。」(38ページ)は、例えば弁護士が裁判官を説得する場合にも当てはまり弁護士として実感するところでもありますが、業界人以外の読者は、そう言われてしまうと、読んでいて投げ出したくなると思います。

井田良、佐渡島紗織、山野目章夫 有斐閣 2019年12月20日発行(初版は2016年12月)