児童虐待等で親の元に返せない児童を施設で死んだことにして引き取り訓練して胸に爆弾を埋め込んだ産業スパイとして違法活動に従事させる秘密組織と、その組織に育てられた少年鷹野、柳、教育係の元記者風間の思い・煩悶を描いた小説。
月刊誌の連載を単行本化したため、章ごとに登場人物の思いの温度差が感じられ、ぶつ切り感がありました。主人公の鷹野については、幼少時の児童虐待のために解離性同一性障害とされ、「激しい虐待のなかで生きるしかない子供は、その一瞬一瞬を生きるようになる」「まるで毎日別人と会っているような感じ」(176ページ)という設定なので、そういう違和感を感じさせるという技巧を凝らしているのかも知れませんが…。それにしても正義感の強い敏腕記者だった風間が、虐待を受けた子どもを引き取って育てることはよいとしてもその子どもが「存在しない」人物として組織を離れて生きてゆけないことにつけ込み一定年齢に達した後は胸に爆弾を埋め込んで物理的に支配して違法行為をさせるというような組織に加入した動機・心情は理解できません。このような組織が情報を売って利益を得るための民間事業者として存在し活動しているという設定の非現実感と合わせて、そのあたりが今ひとつ入り込めませんでした。
昭和60年に鷹野と弟を虐待して弟を死なせ鷹野も瀕死状態にした母親に対して、大阪地裁が懲役30年の実刑を言い渡したとされています(77ページ)。ひたすら重罰化を志向する近年の改正で、現在は有期懲役の上限が20年、併合罪等による加重で最大30年まで可能になっていますが、2004年の刑法改正まで、有期懲役刑の上限は15年で併合罪や累犯の加重をしても最大20年でした。昭和の頃には懲役30年という判決は、日本ではあり得ませんでした。それくらいは、調べて欲しいなと思います。

吉田修一 幻冬舎 2015年4月25日発行
「ポンツーン」2013年12月号~2014年10月号連載
月刊誌の連載を単行本化したため、章ごとに登場人物の思いの温度差が感じられ、ぶつ切り感がありました。主人公の鷹野については、幼少時の児童虐待のために解離性同一性障害とされ、「激しい虐待のなかで生きるしかない子供は、その一瞬一瞬を生きるようになる」「まるで毎日別人と会っているような感じ」(176ページ)という設定なので、そういう違和感を感じさせるという技巧を凝らしているのかも知れませんが…。それにしても正義感の強い敏腕記者だった風間が、虐待を受けた子どもを引き取って育てることはよいとしてもその子どもが「存在しない」人物として組織を離れて生きてゆけないことにつけ込み一定年齢に達した後は胸に爆弾を埋め込んで物理的に支配して違法行為をさせるというような組織に加入した動機・心情は理解できません。このような組織が情報を売って利益を得るための民間事業者として存在し活動しているという設定の非現実感と合わせて、そのあたりが今ひとつ入り込めませんでした。
昭和60年に鷹野と弟を虐待して弟を死なせ鷹野も瀕死状態にした母親に対して、大阪地裁が懲役30年の実刑を言い渡したとされています(77ページ)。ひたすら重罰化を志向する近年の改正で、現在は有期懲役の上限が20年、併合罪等による加重で最大30年まで可能になっていますが、2004年の刑法改正まで、有期懲役刑の上限は15年で併合罪や累犯の加重をしても最大20年でした。昭和の頃には懲役30年という判決は、日本ではあり得ませんでした。それくらいは、調べて欲しいなと思います。

吉田修一 幻冬舎 2015年4月25日発行
「ポンツーン」2013年12月号~2014年10月号連載