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伊東良徳の超乱読読書日記

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経済学者に聞いたら、ニュースの本当のところが見えてきた

2013-09-17 09:35:26 | 人文・社会科学系
 日本経済が直面する経済・財政の問題やニュースで話題になる経済の基礎的なことがらについて、経済学者が解説した本。
 読んでいて勉強になるところも多いのですが、かなりバイアスのかかった本だと私は思います。サブタイトルは、「『みんなの意見』にだまされないための11講」。安倍政権の政策に反対する人たちの意見が多数派であったとしてもそれにだまされるな、安倍政権の政策は正しいんだ、あるいは企業を優遇する政策を批判する意見はそれが多数派だったとしても誤りだと言いたいのかなと思えました。
 基本的に安倍政権の行っている政策について支持する立場で、ただ経済団体への賃上げ要請と公共事業の拡大にだけは批判的な立場で解説されています。輸出依存型の大企業を中心とする企業の利益を最優先するアベノミクスには大賛成で、しかし安倍政権支持よりも企業の利益を優先するので安倍政権の政策が企業の利害に反するときは批判するという姿勢なのでしょう。
 安倍政権の政策を支持する場面では、例えば第1講「お金持ちが税を多く払えば、公平になるのでしょうか」という、既にタイトルからして企業や富裕層への減税と消費税を中心とする大衆増税を正当化しようという意思が見え見えのテーマで、法人税を増税すると企業は製品価格に転嫁するから消費者の負担が重くなり、従業員の賃金を削減するから労働者の負担が重くなるというのが「経済学の答え」だという趣旨のことを書いています(11~12ページ)。バカにするなと言いたい。企業の利益は全部労働者に還元されているとでもいうのでしょうか。言い換えれば法人税を減税すればその分労働者の賃金が上がるのでしょうか。現実の世界ではそんなことはおよそあり得ません。企業の利益は内部留保として企業自体やグループ会社を通じて他の企業や大株主に貯め込まれ、また経営者の懐へと入っていったり隠されたりする部分が多いでしょうし、企業は法人税を増税しなくてもただ利益を増やしたいというだけの動機でリストラに励んできました。企業間・製品間競争や消費者の動向から法人税増税がそのまま製品価格に転嫁されるわけでもありません。経済学者はそんなこと当然わかっているでしょうに、どういう神経で法人税増税が消費税増税よりも労働者や消費者に不利であるかのような印象を与えるこの本のようなことを書けるのでしょう。
 賃上げ要請に関する第10講「若者や非正規社員も、安心して働けるようになりますか」では、もともと派遣労働に合理性がある、最低賃金を上げると雇用が減るなど、企業経営者側の利益しか考えない記述に終始しています(これだけ企業側の経済合理性に偏した立場で記述しながら、この講の執筆者が女性であるためか女性優遇のポジティブアクションだけは企業の経済合理性を度外視しても賛成しているのが笑えます。なお、私自身は、正社員のリストラ回避のため企業による派遣労働等の非正規雇用の利用をできるだけ制限すべきと考え、最低賃金をできるだけ引き上げるべきという立場で、これらの労働者保護・人権擁護の立場からポジティブアクションにも賛成です)。
 この本の「はじめに」の冒頭で、経済学者ジョーン・ロビンソンの「経済学を学ぶ目的は、経済問題について一連の出来合いの答えを得るためではなく、いかに経済学者にだまされないようにするかを習得するためである」という言葉を引用しています。この本を読むときに、胸に刻みつけておいた方がいい言葉だと思いました。


日本経済新聞社編 日本経済新聞出版社 2013年7月19日発行
コメント
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